217 / 263
第Ⅳ章 天国へ至る迷宮
魔族の一家との再会
しおりを挟む
結局、当初の予定とは異なり、魔族の一家を探すのは、俺とイヌガミですることにした。
荷物はすべてドワーフの住み処の前で下ろした。
あそこはリザードマンたちのところとは違って、屋根もあるし、棚もある。俺たちが村から運んできた物を下ろすのに最適だろう。
会議をするにしても、部屋の中の方がいい。
ドワーフのところに集まるというふうに自然と決まった。
「さて。好きに飛んでいいぞ」
イヌガミに指示を出し、魔族がいないか探す。
この辺りのジャングルにいたはずだが、さすがに木々が邪魔で人影などは見えない。だが、今はお昼時だし、タマネギに火を通すということを教えた。だから……。
イヌガミが窮屈な飛び方で鬱屈していたのを感じていたので、アクロバット飛行も許可したが、思った以上に自由に飛び回った。
イヌガミはきりもみ飛行を始めた。
「あそこだ!」
俺は指差した。
イヌガミは背中に目があるわけではないが、それでもジャングルから立ち上る煙を見逃すことはない。
俺の指図した「あそこ」が、煙の場所だと瞬時に悟り、そのままぐんぐんと向かっていく。優秀な忍犬。優秀な乗りものといえるのだが。
きりもみ飛行をノリノリで続けたままのドラゴンが、頭上から降ってくるなどという経験をした魔族たちがどうなるかなど、言うまでもない。
イヌガミが木々にぶつかるすれすれで大きく羽ばたき、勢いを殺した。
それによって、茂った枝が広がり、木々が斜めになって、地上がよく見えた。
焚き火と薪が転がり、地面に伏せるようにした魔族の一家の姿があった。
「や、やりすぎだ……あと、俺も指示が悪かった……」
俺は、ぶるぶると震える魔族の親子のもとに、竜から飛び降りた。
「すみません……あのー……」
できる限り優しく問いかけたのだが、顔を伏せたままの親子たちは、怯えた様子でタマネギを差し出してきた。
「タマネギあげます」
「…………」
「ですから、どうか妻と娘たちだけは!」
思わず硬直していた俺だったが、すぐさま声を出した。
「俺です! フウマです! つい先日お会いした!」
「え?」と呟いた魔族の男が顔を上げた。それに続いて、他の者たちも。
「あっ! 竜がしゃべっていたのではなく……フウマさんでしたか」
知り合いと気づいて、やっと恐怖から解放されたらしい。
(なるほど。俺の声を竜の声と勘違いしていたのか)
にしても「タマネギあげます」とは。
それだけ食料が大事ということだろうか。タマネギで何かを許す竜というイメージは湧かないが、イヌガミなら許しそうな気もする。
(おっと。余計なことを考えてる場合じゃない)
また魔族の一家が怯えたようになっていた。
「この竜はニセモノです。イヌガミが化けた姿なんです」
「え? あのワンちゃん?」
魔族の子供たちがイヌガミを見つめた。
「――――」
だが、つんと澄ました態度で、イヌガミは無言。
「おい」
俺が突っ込んでも無言だった。
「ワンちゃん……犬ではない。我はイヌガミ。神格を持つ霊獣である」
「お、おう……」
イヌガミはどうやら「ワンちゃん」発言に怒っていたらしい。
「あー……そういうことです。まあ」
俺は歯切れ悪く説明した。
荷物はすべてドワーフの住み処の前で下ろした。
あそこはリザードマンたちのところとは違って、屋根もあるし、棚もある。俺たちが村から運んできた物を下ろすのに最適だろう。
会議をするにしても、部屋の中の方がいい。
ドワーフのところに集まるというふうに自然と決まった。
「さて。好きに飛んでいいぞ」
イヌガミに指示を出し、魔族がいないか探す。
この辺りのジャングルにいたはずだが、さすがに木々が邪魔で人影などは見えない。だが、今はお昼時だし、タマネギに火を通すということを教えた。だから……。
イヌガミが窮屈な飛び方で鬱屈していたのを感じていたので、アクロバット飛行も許可したが、思った以上に自由に飛び回った。
イヌガミはきりもみ飛行を始めた。
「あそこだ!」
俺は指差した。
イヌガミは背中に目があるわけではないが、それでもジャングルから立ち上る煙を見逃すことはない。
俺の指図した「あそこ」が、煙の場所だと瞬時に悟り、そのままぐんぐんと向かっていく。優秀な忍犬。優秀な乗りものといえるのだが。
きりもみ飛行をノリノリで続けたままのドラゴンが、頭上から降ってくるなどという経験をした魔族たちがどうなるかなど、言うまでもない。
イヌガミが木々にぶつかるすれすれで大きく羽ばたき、勢いを殺した。
それによって、茂った枝が広がり、木々が斜めになって、地上がよく見えた。
焚き火と薪が転がり、地面に伏せるようにした魔族の一家の姿があった。
「や、やりすぎだ……あと、俺も指示が悪かった……」
俺は、ぶるぶると震える魔族の親子のもとに、竜から飛び降りた。
「すみません……あのー……」
できる限り優しく問いかけたのだが、顔を伏せたままの親子たちは、怯えた様子でタマネギを差し出してきた。
「タマネギあげます」
「…………」
「ですから、どうか妻と娘たちだけは!」
思わず硬直していた俺だったが、すぐさま声を出した。
「俺です! フウマです! つい先日お会いした!」
「え?」と呟いた魔族の男が顔を上げた。それに続いて、他の者たちも。
「あっ! 竜がしゃべっていたのではなく……フウマさんでしたか」
知り合いと気づいて、やっと恐怖から解放されたらしい。
(なるほど。俺の声を竜の声と勘違いしていたのか)
にしても「タマネギあげます」とは。
それだけ食料が大事ということだろうか。タマネギで何かを許す竜というイメージは湧かないが、イヌガミなら許しそうな気もする。
(おっと。余計なことを考えてる場合じゃない)
また魔族の一家が怯えたようになっていた。
「この竜はニセモノです。イヌガミが化けた姿なんです」
「え? あのワンちゃん?」
魔族の子供たちがイヌガミを見つめた。
「――――」
だが、つんと澄ました態度で、イヌガミは無言。
「おい」
俺が突っ込んでも無言だった。
「ワンちゃん……犬ではない。我はイヌガミ。神格を持つ霊獣である」
「お、おう……」
イヌガミはどうやら「ワンちゃん」発言に怒っていたらしい。
「あー……そういうことです。まあ」
俺は歯切れ悪く説明した。
0
お気に入りに追加
4,198
あなたにおすすめの小説
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
神眼のカードマスター 〜パーティーを追放されてから人生の大逆転が始まった件。今さら戻って来いと言われてももう遅い〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「いいかい? 君と僕じゃ最初から住む世界が違うんだよ。これからは惨めな人生を送って一生後悔しながら過ごすんだね」
Fランク冒険者のアルディンは領主の息子であるザネリにそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
父親から譲り受けた大切なカードも奪われ、アルディンは失意のどん底に。
しばらくは冒険者稼業をやめて田舎でのんびり暮らそうと街を離れることにしたアルディンは、その道中、メイド姉妹が賊に襲われている光景を目撃する。
彼女たちを救い出す最中、突如として【神眼】が覚醒してしまう。
それはこのカード世界における掟すらもぶち壊してしまうほどの才能だった。
無事にメイド姉妹を助けたアルディンは、大きな屋敷で彼女たちと一緒に楽しく暮らすようになる。
【神眼】を使って楽々とカードを集めてまわり、召喚獣の万能スライムとも仲良くなって、やがて天災級ドラゴンを討伐するまでに成長し、アルディンはどんどん強くなっていく。
一方その頃、ザネリのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
ダンジョン攻略も思うようにいかなくなり、ザネリはそこでようやくアルディンの重要さに気づく。
なんとか引き戻したいザネリは、アルディンにパーティーへ戻って来るように頼み込むのだったが……。
これは、かつてFランク冒険者だった青年が、チート能力を駆使してカード無双で成り上がり、やがて神話級改変者〈ルールブレイカー〉と呼ばれるようになるまでの人生逆転譚である。
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。
超時空スキルを貰って、幼馴染の女の子と一緒に冒険者します。
烏帽子 博
ファンタジー
クリスは、孤児院で同い年のララと、院長のシスター メリジェーンと祝福の儀に臨んだ。
その瞬間クリスは、真っ白な空間に召喚されていた。
「クリス、あなたに超時空スキルを授けます。
あなたの思うように過ごしていいのよ」
真っ白なベールを纏って後光に包まれたその人は、それだけ言って消えていった。
その日クリスに司祭から告げられたスキルは「マジックポーチ」だった。
追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした
新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。
「ヨシュア……てめえはクビだ」
ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。
「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。
危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。
一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。
彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。
勇者パーティーを追放された俺は辺境の地で魔王に拾われて後継者として育てられる~魔王から教わった美学でメロメロにしてスローライフを満喫する~
一ノ瀬 彩音
ファンタジー
主人公は、勇者パーティーを追放されて辺境の地へと追放される。
そこで出会った魔族の少女と仲良くなり、彼女と共にスローライフを送ることになる。
しかし、ある日突然現れた魔王によって、俺は後継者として育てられることになる。
そして、俺の元には次々と美少女達が集まってくるのだった……。
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。