最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた

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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮

一番無駄なこと

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「若様が大人な判断をすることを苦々しいと思っていらっしゃるのなら、子供っぽく判断するのもいいであります」

「それは許されないことだ」

 大人は大人の判断をする。
 子供は子供っぽく判断する。
 けど、大人が子供っぽく判断するなんて許されることじゃない。

「どうしてでありますか?」

「どうしても、こうしても……世間一般的に見てだよ」

 あまりにも常識的なことを聞かれて、俺は途中で詰まった。

「子供の判断は間違っているでありますか?」

「いや……そういうことじゃない」

「立ち場の問題というか……常識的なこととしてというか……」

 なんだか今日眠れなかった悩みと同様に、いったい自分が何を言いたいのかわからなくなってきてしまった。
 頭をかく俺を見上げたイヌガミの目は、どこまでもまっすぐだった。
 爛々と好奇心に目を輝かせ、その瞳の中に星の光を宿しているかのようだった。

「先程、我は若様が起きているかどうかわかりませんでしたが、若様に会いたかったので寝室に向かいました」

「ん? う、うん?」

 また唐突によくわからないことを言い出した。
 戸惑う俺に気にせず、イヌガミは饒舌にしゃべる。コイツは言いたいことを言いまくるか、眠ってしまうかという極端なところがある。

「そして、若様が起きていて良かったです」

「あ、ああ。……俺が寝てたらどうした? 起こしたか?」

「そのような真似を致しません!」

「そうか……。じゃあ、無駄足になったかもしれないな」

「無駄足は、大人なのであります?」

「は?」

 またも意味不明だった。
 俺の足が止まる。
 イヌガミは立ち止まり、聞こえないと思ったのか、また繰り返すように言った。

「無駄足は『大人な判断』なのであります?」

「どういう意味だ?」

「…………」

 イヌガミは、犬だからか、思いを上手く伝えるのが苦手だ。言語化に時間がかかることがある。

「『無駄足』とは――誰が判断するでありますか?」

「え?」

「『大人』でありますか? 『常識』でありますか? 『世間』でありますか?」

 イヌガミが返したセリフは、俺の発言を拾って集めて、そのまままた返しただけだろう。
 けど、――なぜか胸に響いた。

(大人な判断……常識……世間……無駄かどうか…………)

「我は若様のもとに足を運ぶのが無駄だと思ったことはございません。若様が就寝されていておしゃべりをできなかったとしてもであります」

「無駄じゃ……ないってお前は思うのか?」

「むしろ、若様に会いたいと思ったのに行動せず悶々とする方が、きっと『一番の無駄』なのであります!」

 イヌガミは力強く言い切った。
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