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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮
イヌガミと砂糖
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「我らハイエルフは、恐れていたのです。砂嵐の外の世界を。たぶんそれは、砂嵐の向こう側にいる人々が、我らに抱く畏れと似たようなものです。知らないから恐ろしい。そんな迷いをフウマさんが料理を通じて取り払ってくれたのです。――それでも『知らない方が良かったと後悔するのではないか』という恐れを、まだ感じてしまう私は、臆病なのかもしれません」
最後のセリフは、他のセリフよりも重かった。俺は尋ねた。
「シャフィールさん。何か昔あったんですか?」
「過去に治癒神と我らハイエルフ、魔族領の真実などを知って、後悔した者もいたということです。フウマさんのように度量が大きく、すべて受け入れられる者ばかりではありません。必死の思いで結界を抜け、悪しきハイエルフを倒そう、魔族領を救おうとした者もいました」
「けど……真実を知ってしまい、どうしようもなくなってしまったんですね」
「そういうことです。……フウマさんのようにあの塔を破壊する以外の代案など浮かばなかったのでしょう」
代案など俺にもなかった。
ただ、最初から交易のために動いていたから提案できただけだ。それにイヌガミがゴハンの催促をしなかったら、あのまま黙り込んでハイエルフと顔を見合わせていただけだったかもしれない。
「俺の場合は、ただ偶然や運、コイツに助けられただけです」
しゃがんでイヌガミの頭をなでた。
イヌガミはくすぐったそうに目を細めた。
「そうかもしれません。……そして、運や偶然に助けられていたのは我らも同じです。五百年間無事でしたが、これから先も無事だという確証はありません。少しでも軍事力を蓄え、方策を練っておきたいのです」
俺はハイエルフたちに改めて話してくれたことの礼を言い、抹茶の入った竹筒をプレゼントした。砂糖はあるそうなので、これでまた抹茶のかき氷を食べられるだろう。
最後に、シャフィールが抹茶を受け取った瞬間、外見相応の顔になったのがちょっとだけおかしかった。
笑われたシャフィールは少し顔を赤くした。
そんな彼女に手を振って、俺たちは別れた。
一泊したおかげで、イヌガミは〈変化〉がまたできるようになっていた。
上位竜に変化したイヌガミに飛び乗り、俺たちはすぐさま飛翔した。
イヌガミは猛吹雪の中に突っ込んだが、なぜか今回は口を大きく空けている。
「若様! 砂糖を口の中にいれていただけないでしょうか?」
「ダメだ。そのサイズだと、たぶん砂糖の残りをぶちまけても、たぶん味なんてわからないぞ」
「はっ、確かに! では今すぐ忍犬の姿に戻って――!」
「それは溶岩地帯を越えてからだ」
溶岩地帯を越えた後、当然、雪はなくなってしまったので、イヌガミはしょんぼりしてしまった。仕方ないので、砂糖をそのまま与えたら、喜んで自分の尻尾を追いかけるようにくるくる回っていた。そのまま砂嵐に巻き込まれて、吹き飛ばされていった。
俺は呆れて溜息をつき、その見えなくなったイヌガミを追って砂嵐に突っ込んだ。
最後のセリフは、他のセリフよりも重かった。俺は尋ねた。
「シャフィールさん。何か昔あったんですか?」
「過去に治癒神と我らハイエルフ、魔族領の真実などを知って、後悔した者もいたということです。フウマさんのように度量が大きく、すべて受け入れられる者ばかりではありません。必死の思いで結界を抜け、悪しきハイエルフを倒そう、魔族領を救おうとした者もいました」
「けど……真実を知ってしまい、どうしようもなくなってしまったんですね」
「そういうことです。……フウマさんのようにあの塔を破壊する以外の代案など浮かばなかったのでしょう」
代案など俺にもなかった。
ただ、最初から交易のために動いていたから提案できただけだ。それにイヌガミがゴハンの催促をしなかったら、あのまま黙り込んでハイエルフと顔を見合わせていただけだったかもしれない。
「俺の場合は、ただ偶然や運、コイツに助けられただけです」
しゃがんでイヌガミの頭をなでた。
イヌガミはくすぐったそうに目を細めた。
「そうかもしれません。……そして、運や偶然に助けられていたのは我らも同じです。五百年間無事でしたが、これから先も無事だという確証はありません。少しでも軍事力を蓄え、方策を練っておきたいのです」
俺はハイエルフたちに改めて話してくれたことの礼を言い、抹茶の入った竹筒をプレゼントした。砂糖はあるそうなので、これでまた抹茶のかき氷を食べられるだろう。
最後に、シャフィールが抹茶を受け取った瞬間、外見相応の顔になったのがちょっとだけおかしかった。
笑われたシャフィールは少し顔を赤くした。
そんな彼女に手を振って、俺たちは別れた。
一泊したおかげで、イヌガミは〈変化〉がまたできるようになっていた。
上位竜に変化したイヌガミに飛び乗り、俺たちはすぐさま飛翔した。
イヌガミは猛吹雪の中に突っ込んだが、なぜか今回は口を大きく空けている。
「若様! 砂糖を口の中にいれていただけないでしょうか?」
「ダメだ。そのサイズだと、たぶん砂糖の残りをぶちまけても、たぶん味なんてわからないぞ」
「はっ、確かに! では今すぐ忍犬の姿に戻って――!」
「それは溶岩地帯を越えてからだ」
溶岩地帯を越えた後、当然、雪はなくなってしまったので、イヌガミはしょんぼりしてしまった。仕方ないので、砂糖をそのまま与えたら、喜んで自分の尻尾を追いかけるようにくるくる回っていた。そのまま砂嵐に巻き込まれて、吹き飛ばされていった。
俺は呆れて溜息をつき、その見えなくなったイヌガミを追って砂嵐に突っ込んだ。
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