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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮

雪を取りに

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 「魔族領の交易」という俺の提案に対して、ハイエルフ三人の意見は分かれているようだった。
 シャフィールは、真っ先に賛同してくれたが、この場にいる代表者らしきハイエルフ二人が首を縦に振らない。

「湿地帯を水田にし、リザードマンが稲作をすること。そこでとれた米で酒を造り、ドワーフに渡すこと。そうした様々なやり取りを通じて交易を活性化するというのはとても良いと思います。これなら人間たちに気づかれにくいです」

 シャフィールはそこまで言った後、左右にいるハイエルフの顔を見比べた。

「ですが、我らは不安なのです。頭では理解できていても、実行に移すことが! 数百年にもわたり、我らは治癒神との契約を守ってきました。治癒神が信頼できるからではなく、それが魔族領を守るために最も有効な選択であると信じていたからです」

 シャフィールの話はわかる。
 有名無実な掟であっても、昔からあるというだけで変えることができないなんてこともある。無論、時間をかければ、より良い方向に変わっていけるだろうが……。

(けど、時間もないしな……)

 昔、セーレアが交渉のコツは「一に強気、二に強気、三、四がなくて、五に暴力」とか言っていたが、少しだけ見習うことにしよう。

「……俺やこっちのイヌガミの強さはなんとなく察してくださっているかと思います。あの天然の結界を抜けて来ましたから。そして、俺たちだけでなく、シノビノサト村にいるシノビたちもかなり強いです」

 シャフィールの右隣にいるハイエルフが「ほぅ」と初めて声を漏らした。ただそれだけだったが、どこか雰囲気が柔らかくなった気がする。
 もしかすると、ハイエルフの軍事の担当者なのかもしれない。それなら、戦力になってくれそうな者がいるに越したことはないだろう。

 ただ、左側にいるハイエルフとシャフィールの顔色は微妙だった。
 シャフィールは、左側のハイエルフを説得しようと考えているらしく、どこかそわそわしていた。
 シャフィールはてっきりかなりの年かと思ったが、案外まだ若いのかもしれない。

(天井を見上げた時、まだなんというか外の世界への憧れのようなものを感じたもんな……)

 思い違いかもしれないが、老成したハイエルフならあのようなことを言って視線をさまよわせたりしないだろう。
 珍しい食べ物を用意できれば、シャフィールを元気づけられるかもしれない。

 俺は自分の直感に懸けることにした。

「少しだけ待ってくださいませんか?」

「え?」

 シャフィールを含め、三人が驚いたような顔をした。

「あまり長くは待てませんが……わかりました」

 俺の真剣な目を見て、シャフィールは頷いてくれたのだった。

「シャフィールさん、心配しないでください。雪原にまで移動して、雪を取って戻ってくるだけですから」

 不思議そうに目を丸くする彼女に俺は微笑んで、イヌガミに告げた。

「行くぞ、イヌガミ!」

「はっ!」
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