最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた

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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮

質問

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 来るのは罵倒するセリフか、非難する視線か。
 そう思っていたが、ハイエルフはただ静かに答えただけだ。

「何も」

「何も? ……どういう意味だ?」

「それも一つの答えです――」

 ハイエルフはそう肯定したものの、次のセリフを溜めた。

「――ですが、質問には真剣に答えていただきたい。これは話し合いにおける大前提のはずです」

 あまりに厳かな口調に、俺は詰まった。先程軽々しく適当な答えを返した俺が悪い。例えば、出会ったリザードマンたちが俺の質問に適当に返事したりしたら、あんな良好な関係を築くことはできなかっただろう。

「……すみません」

 素直に謝ると、ハイエルフは微笑んだ。

「あなたくらい若いなら仕方ありませんよ」

 改めて年齢に大きく開きがあることを思い出した。

「そう……ですね。――今まで妙な態度を取ってすみませんでした。ここからは真剣に答えます」

「ええ。お願いします」

 たぶん、ハイエルフは俺がここを訪れてすぐにした質問で、俺がどういう風にハイエルフを捉えていたか予想がついたのだろう。

(これじゃあ、「魔族=邪悪」と思い込んでいる〈教会〉の信者たちと変わらないな)

 気合いを入れ直して話し合いに臨んだ。

「では、気を取り直して……。質問は先程と変わりません。もう一度、質問の内容をお話しした方がよろしいですか?」

「お願いします」

「あなたは今、筏に乗っているとします。その筏には、あなた以外にも魔族、リザードマン、ドワーフ、人間が一人ずつ乗っています。陸地は見えず、食料は一人分しかありません。皆、お腹を空かせています。――食料を分配する権利はあなたにあります。さて、あなたはどうしますか?」

 想像力を働かせる。筏には少しだけ乗った。だから、もし俺がシノビではなく、イヌガミもおらず、食料が乏しかったら、どれほど酷い状況か想像がつく。
 まして陸地が見えず、お腹を空かせている者が自分を含め五人もいるのだ。なのに食料は一人分。現実にそうなったら殺し合いや口論になってもおかしくない。しかし、食料の選択権は俺にあるらしい。

「なぜ、食料を誰に与えるかの選択権が俺にあるんですか? 俺の持ち物だったからですか?」

 質問した瞬間、ハイエルフが微笑んだ。まるで幼子が立ち上がるのを見守る母親のような雰囲気だった。
 目の前のハイエルフがふいに女性だと気づき、不思議な気分に一瞬浸った。
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