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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮

フウマの激怒

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 大樹をくり抜いて作られた広々とした部屋の中、俺とイヌガミは、丸太のテーブルを挟んでハイエルフと向き合った。

「魔族領の旅はどうでしたか?」

 ハイエルフのその一言から、俺たちの行動が多少なりとも相手に伝わっていると感じた。魔族領に入ってすぐに魔族の視線を感じたりしたので、彼らから伝わったのかもしれない。もしくは何らかのマジックアイテムか。
 ハイエルフほど長生きする種族が、情報の重要性を認識せず、情報網をまったく持たないとは考えにくい。

「短いようで長く感じる旅でした。魔族領に住む魔族、リザードマン、ドワーフに会って密度の濃い時間を過ごしました。――そして、ハイエルフにもこうして会いに来ました」

「その目的は『平和』に関してでよろしいですか?」

「――その前に」

 俺は話を遮り、勢い込んで尋ねた。返答次第では長々と話す必要などなくなる。

「あの『天雷の塔もどき』について聞かせてほしい。アレらは天候制御をする力を持っていて、魔族領の異常気象はアレらが原因だと思うんだが……違うか?」

 口調の変わった俺に、ハイエルフは淡々と答えた。

「その通りです」

 俺は席を立った。
 椅子にお座りしていたイヌガミも下りようとした。

「だったら、俺のやることは決まっている! ――アレらの破壊だ! あんたの言う『平和』とやらがどういうものか知らないが、俺は俺のやるべきことをやるだけだ」

 ハイエルフのどこか柔らかだった表情に、厳しさが浮かんだ。

「その前に、こちらの質問にも答えていただけませんか?」

 ハイエルフの視線は、俺に着席を促していた。
 長話をするつもりもないんだが、と悩んだ俺は、椅子に座ったままこっちを見上げるイヌガミと目が合った。
 つぶらな目をしたイヌガミは、「どうしてコイツの話は聞かないんだろ?」と純粋に不思議そうだった。
 確かにそうだ。俺は、魔族ともリザードマンともドワーフとも話し合いをした。ハイエルフとだけ話し合わないという理由もない。
 イヌガミは元々、他人の話を一切聞かないタイプで、俺に合わせて行動していたから余計にいつもと違う対応に違和感を覚えたんだろう。

(……いけない)

 ついつい熱くなってしまったみたいだ。
 すべては俺の予想通り。〈天雷の塔〉のようなものがあり、異常気象も操作されたものだった。だから、話し合う必要はないと思ったのだ。

(話したところで、俺の気持ちも行動も一切変わらないだろうが……)

 俺の内心を知ってか知らずか、ハイエルフはまた元のゆったりとした空気をまとって質問を発した。
 それは、ひどくつまらない質問に思えた。

「あなたの目の前には崖から落ちそうになっている二人の人間がいます。父親と母親です。どちらか一方だけしか助けられないとして、どちらを助けますか?」
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