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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮
大事なこと
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「『五百年かけて魔族を滅ぼす』――」
楽しい旅の始まり。
そう思っていた俺の口から漏れたのは、オゥバァから聞いた治癒神のセリフだった。
村にいた時は、そんなの世迷い言か、冗談か何かのように思えていた。
だが、魔族領の中、枯れ果てた川に沿ってイヌガミに乗って走る俺は、なんとなくうっすらとだが、治癒神の思考がわかってきた。
「若様。このままでは危険です」
イヌガミや俺は、飲み食いする必要がある。
どれほど強くても、生物である以上は。
「この川は、昨日今日干上がったという感じではありません。噂以上に、魔族領は過酷な土地のようであります。水がなくては我らといえど……」
肌を刺すような冷たい風。
乾いた大地。
栄養分も少なそうな赤茶けた土。
草くらいなら、ところどころ生えているが、人間領ならよく見かける森は、こちらではまだ一切見かけていない。
「水源の確保を優先した方がよろしいかと……若様?」
俺が返事をしないので、イヌガミが背中の俺に不思議そうに問いかけていた。
「あ。……悪い、イヌガミ。ちょっとぼうっとしてた」
「左様ですか。しかし、食事は重要であります」
いつになく真剣なイヌガミの声。
おそらくこの大地というか、空気のピリピリした感じの影響だろう。
正直、まだ知り合って間もないが、どこかふざけた空気の時の方がイヌガミは多い。
そんなイヌガミがこんな雰囲気になるほど、魔族領の空気は重かったのだ。
ときおり遠目に、魔族らしき人影を見つけた。
だが、とりあえず適当な集落でも探そうと思っていた俺は、イヌガミをまっすぐ北に走らせていた。
モンスターに出くわさないというのは、本来なら安全な道というべきだ。だが、水源や草木、小動物が少なすぎて、モンスターさえ生きられないとなると、話がまったく変わってくる。
むしろ、モンスターが多数生息する魔の山の緑が恋しいくらいだ。
「なあ、イヌガミ。『五百年かけて魔族を滅ぼす』……その方法って、なんだと思う?」
「…………」
「俺は……最初眉唾だと思った。特定の種族を滅ぼすなんてそう簡単なことじゃない。俺やお前はかなり強い部類に入る。ひょっとしたら、世界でも最強クラスの存在かもしれない。……けど、そんな『魔族を滅ぼす』みたいな真似はできないだろう」
イヌガミは先ほどから無言だ。
「けど、治癒神は違ったのかもしれない。いや、違ったんだろう。……俺では、死後、数百年も残るような大組織を作るなんて真似はできない。まるで想像がつかない。けど、治癒神には数百年後が見えていたんだろう。……おそらく『五百年かけて魔族を滅ぼす』と言ったのは、この北方の過酷な大地に、魔族たちを押しやるという方法のことだ。押しやるだけでいい。封じ込めるだけでいい。殺すんじゃない。衰退させるんだ。……俺は、怖いよ、イヌガミ。そこまでする意志が――……」
俺はイヌガミの頭を見下ろした。
「イヌガミ?」
ぐぅ~!
と、イヌガミのお腹の音が盛大に鳴った。
巨大な狼の姿になっているため、胃袋も大きいのか、凄い音だった。
「走りづめでお腹が減りました。若様……」
無言だったのはお腹が減っていたためらしい。
「ぷっ……」
「若様?」
「あははははっ! ……まったく、こっちが真剣に悩んでるっていうのに」
頭の毛がぐしゃぐしゃになるまで撫でてやる。
「けど、イヌガミの言う通りだ。まずは俺たちがメシを食わないとな」
数百年前から続く出来事について思い悩んだりするより、まずは自分たちがしっかりと生き抜かないといけないのだ。
手持ちの水も多いわけじゃない。
さっさと食事を済ませてイヌガミの言う通り水場を探すべきだろう。
持ってきた食料と水で食事することにした。
楽しい旅の始まり。
そう思っていた俺の口から漏れたのは、オゥバァから聞いた治癒神のセリフだった。
村にいた時は、そんなの世迷い言か、冗談か何かのように思えていた。
だが、魔族領の中、枯れ果てた川に沿ってイヌガミに乗って走る俺は、なんとなくうっすらとだが、治癒神の思考がわかってきた。
「若様。このままでは危険です」
イヌガミや俺は、飲み食いする必要がある。
どれほど強くても、生物である以上は。
「この川は、昨日今日干上がったという感じではありません。噂以上に、魔族領は過酷な土地のようであります。水がなくては我らといえど……」
肌を刺すような冷たい風。
乾いた大地。
栄養分も少なそうな赤茶けた土。
草くらいなら、ところどころ生えているが、人間領ならよく見かける森は、こちらではまだ一切見かけていない。
「水源の確保を優先した方がよろしいかと……若様?」
俺が返事をしないので、イヌガミが背中の俺に不思議そうに問いかけていた。
「あ。……悪い、イヌガミ。ちょっとぼうっとしてた」
「左様ですか。しかし、食事は重要であります」
いつになく真剣なイヌガミの声。
おそらくこの大地というか、空気のピリピリした感じの影響だろう。
正直、まだ知り合って間もないが、どこかふざけた空気の時の方がイヌガミは多い。
そんなイヌガミがこんな雰囲気になるほど、魔族領の空気は重かったのだ。
ときおり遠目に、魔族らしき人影を見つけた。
だが、とりあえず適当な集落でも探そうと思っていた俺は、イヌガミをまっすぐ北に走らせていた。
モンスターに出くわさないというのは、本来なら安全な道というべきだ。だが、水源や草木、小動物が少なすぎて、モンスターさえ生きられないとなると、話がまったく変わってくる。
むしろ、モンスターが多数生息する魔の山の緑が恋しいくらいだ。
「なあ、イヌガミ。『五百年かけて魔族を滅ぼす』……その方法って、なんだと思う?」
「…………」
「俺は……最初眉唾だと思った。特定の種族を滅ぼすなんてそう簡単なことじゃない。俺やお前はかなり強い部類に入る。ひょっとしたら、世界でも最強クラスの存在かもしれない。……けど、そんな『魔族を滅ぼす』みたいな真似はできないだろう」
イヌガミは先ほどから無言だ。
「けど、治癒神は違ったのかもしれない。いや、違ったんだろう。……俺では、死後、数百年も残るような大組織を作るなんて真似はできない。まるで想像がつかない。けど、治癒神には数百年後が見えていたんだろう。……おそらく『五百年かけて魔族を滅ぼす』と言ったのは、この北方の過酷な大地に、魔族たちを押しやるという方法のことだ。押しやるだけでいい。封じ込めるだけでいい。殺すんじゃない。衰退させるんだ。……俺は、怖いよ、イヌガミ。そこまでする意志が――……」
俺はイヌガミの頭を見下ろした。
「イヌガミ?」
ぐぅ~!
と、イヌガミのお腹の音が盛大に鳴った。
巨大な狼の姿になっているため、胃袋も大きいのか、凄い音だった。
「走りづめでお腹が減りました。若様……」
無言だったのはお腹が減っていたためらしい。
「ぷっ……」
「若様?」
「あははははっ! ……まったく、こっちが真剣に悩んでるっていうのに」
頭の毛がぐしゃぐしゃになるまで撫でてやる。
「けど、イヌガミの言う通りだ。まずは俺たちがメシを食わないとな」
数百年前から続く出来事について思い悩んだりするより、まずは自分たちがしっかりと生き抜かないといけないのだ。
手持ちの水も多いわけじゃない。
さっさと食事を済ませてイヌガミの言う通り水場を探すべきだろう。
持ってきた食料と水で食事することにした。
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