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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮
一人と一匹の魔族領への冒険の始まり
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「――よしっ、と!」
いろいろな食料や着替えなどを入れた背負い袋を背負う。
握り飯やお茶、バナナやキメラの肉なども入っているが、なんといってもメインは米や日本酒、醤油や味噌などの特産品だ。魔族領に住む者たちと交易する可能性もあるためだ。
「本当に……一人で行くの?」
心配そうなリノに、俺は微笑みかけ、頭を撫でた。
「いや。一人じゃないさ。イヌガミもいる」
見送りに来ている者たちが大勢いる。
元からいる村の住人に、宗教都市ロウで解放した奴隷たち。そして水産都市エレフィンから移住してきた難民たち。
彼らは一様に真剣な目をしている。
俺のこれからの旅に、今後のシノビノサト村の食料問題が大きく関わってくるからだ。
「イヌガミ。準備はいいか?」
「はっ。無論でございます、若様」
〈変化〉の術で、大きな狼の姿になったイヌガミの両脇には、荷物がくくりつけられている。
「イヌガミは……まあ、そこそこ頼りになるから大丈夫だ」
安心して待っているようにと告げる。
「お土産を何か持って帰ってくるよ、リノ」
「フウマ!」
リノが抱きついてきた。
「フウマが無事なら……それだけでいい」
「そ、そうか……」
「じゃあ、私は何か食べ物でも!」
「セーレアとは別の食べ物にしてね! できたら甘いのがいい!」
セーレアとオゥバァが口々にそんなことを言ってくる。
「了解した。何か珍しい食べ物でもあったら、持ってきてやるよ。その代わり村のこと頼んだぞ?」
「ええ。いってらっしゃい」
先ほどまでのふざけた様子は鳴りを潜め、セーレアは手を振ってきた。
「村のことは任せて。ラスクやイーサーとも顔見知りだし、冒険者ギルド組合長とも知り合いだからさ。もちろん、リリィやラインハルトとも。あんたがいなくても、それなりに上手く回していくわ。……食料も……まあ、増産できそうなところは頑張ってみる」
「ああ……! 頼む……!」
「セーレアが頑張るなら、私も少しくらいは頑張ろうかな。……また魔の山を一巡りして、食べられる植物でも探してくるよ。でもまあ、期待はあまりしないでね」
「うん。オゥバァも頼んだ」
それから村の住人の代表者たちに個別に挨拶する。
皆、ちゃんと役割分担して働いてくれるそうだ。
ありがたい。
「よし。行こうか、イヌガミ」
「ははっ!」
イヌガミは、初めての遠乗りに嬉しそうだ。
軽く黒い毛を掴んで、その背中に乗る。
今のイヌガミは、馬よりもずっと大きい。
村のみんなに手を振られて、俺とイヌガミ――一人と一匹の冒険は始まったのだった。
いろいろな食料や着替えなどを入れた背負い袋を背負う。
握り飯やお茶、バナナやキメラの肉なども入っているが、なんといってもメインは米や日本酒、醤油や味噌などの特産品だ。魔族領に住む者たちと交易する可能性もあるためだ。
「本当に……一人で行くの?」
心配そうなリノに、俺は微笑みかけ、頭を撫でた。
「いや。一人じゃないさ。イヌガミもいる」
見送りに来ている者たちが大勢いる。
元からいる村の住人に、宗教都市ロウで解放した奴隷たち。そして水産都市エレフィンから移住してきた難民たち。
彼らは一様に真剣な目をしている。
俺のこれからの旅に、今後のシノビノサト村の食料問題が大きく関わってくるからだ。
「イヌガミ。準備はいいか?」
「はっ。無論でございます、若様」
〈変化〉の術で、大きな狼の姿になったイヌガミの両脇には、荷物がくくりつけられている。
「イヌガミは……まあ、そこそこ頼りになるから大丈夫だ」
安心して待っているようにと告げる。
「お土産を何か持って帰ってくるよ、リノ」
「フウマ!」
リノが抱きついてきた。
「フウマが無事なら……それだけでいい」
「そ、そうか……」
「じゃあ、私は何か食べ物でも!」
「セーレアとは別の食べ物にしてね! できたら甘いのがいい!」
セーレアとオゥバァが口々にそんなことを言ってくる。
「了解した。何か珍しい食べ物でもあったら、持ってきてやるよ。その代わり村のこと頼んだぞ?」
「ええ。いってらっしゃい」
先ほどまでのふざけた様子は鳴りを潜め、セーレアは手を振ってきた。
「村のことは任せて。ラスクやイーサーとも顔見知りだし、冒険者ギルド組合長とも知り合いだからさ。もちろん、リリィやラインハルトとも。あんたがいなくても、それなりに上手く回していくわ。……食料も……まあ、増産できそうなところは頑張ってみる」
「ああ……! 頼む……!」
「セーレアが頑張るなら、私も少しくらいは頑張ろうかな。……また魔の山を一巡りして、食べられる植物でも探してくるよ。でもまあ、期待はあまりしないでね」
「うん。オゥバァも頼んだ」
それから村の住人の代表者たちに個別に挨拶する。
皆、ちゃんと役割分担して働いてくれるそうだ。
ありがたい。
「よし。行こうか、イヌガミ」
「ははっ!」
イヌガミは、初めての遠乗りに嬉しそうだ。
軽く黒い毛を掴んで、その背中に乗る。
今のイヌガミは、馬よりもずっと大きい。
村のみんなに手を振られて、俺とイヌガミ――一人と一匹の冒険は始まったのだった。
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