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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮
情報の少ない魔族領
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「申し訳ありません。フウマさん。お力になれなくて」
「いや。リリィが謝る必要はないよ」
「王国史情報室の活動範囲は、人間領に限定されていました。フウマさんの求めている魔族領については、私も一般的なこと以上は知らないんです」
ここは村長宅。つまり俺の家だ。
今日は外部の協力者を集めて話し合いをする日だった。
シノビノサト村内での相談はもう十分に行った。
結論は単純。
魔の山だけの土地では不足というものだ。
人手はある。
水産都市エレフィンで難民となっていたのは、元は農奴だったりする者が少なくないからだ。畑を耕したり、種を撒いたりという作業自体は単純なので、皆すぐに慣れるだろう。
問題は土地だった。
「シノビノサト村の土地だけでは、数百人もの受け入れは不可能。だから魔族領に目を向けるというのは、ある意味、道理が通っているかもしれません」
「そうだろ?」
「ですが、魔族領は一筋縄ではいかないと……思います」
ちょっと言いづらそうにしながらも、そう言い切った。
リリィの返事は、かなり意外なことだった。
王国史情報室で俺について知り、さらには共に戦った。
その結果、俺の戦闘能力については、相当理解していると思っていたのだが。
そんな疑問を浮かべていると、オゥバァの「連れてきたわよー」という声が聞こえてきた。
大きな足音と共に現れたのは、髭面の中年冒険者イーサー。
「おう。先輩。久しぶりだな」
その後に続いているのは、何やら話し込んでいる様子のベテラン冒険者のラスクと、水産都市エレフィンで難民たちをまとめていたラインハルトだ。
「お久しぶりです、フウマさん」
相変わらず腰が低いラスク。
「遅くなってすまない」
ラインハルトは凛々しい男装だった。おそらくその方が難民たちを導きやすいからだろう。
ラインハルトが女だと知っているのは、おそらく俺を含め、かなり少数のはずだ。
俺は彼らに座るように勧めた。
彼らを案内してきたオゥバァとセーレアも話し合いに興味があるのか腰を下ろした。
「魔の山もずいぶんと安全になりましたね」
ラスクは話し合いが始まると、開口一番そう言った。
B級のベテラン冒険者らしく、モンスターに関することが気になるらしい。
「ははは……」
俺は苦笑した。
ラスクはそんな俺を見て不思議そうにした。
「ラスク……あれは別に安全確保のためにそうしたわけじゃないんだ」
一部のモンスターの肉は食用に堪えうる。そのため、食料不足で狩りまくってしまったのだ。
そう説明すると、ラスクも先ほどの俺と同じような、なんともいえない苦笑をした。
「なるほど……そういう事情でしたか」
「けどよぉ、先輩。真面目な話。ちょいとキメラの数が少なすぎるぜ? 俺くらいのボンクラ冒険者でも、うっかりするとシノビノサト村まで辿り着けるかもしれねえ」
イーサーは髭面を歪めて真剣にそう訴えてきた。
「ありがとう、イーサー」
「お、おう」
イーサーは照れたようにごま塩頭をかいた。
「イーサーの言うことは正しい。今までは、樹海とモンスターが天然の結界のようになって、シノビノサト村を隠していた。けど、今は麓にいる少数のキメラを抜けてしまえば、あとは樹海だけ。以前のように昼でも暗い樹海の中をモンスターを警戒しながら歩く必要性はかなり薄れてしまった。……確かに、ここまで辿り着ける部外者も出てくるかもしれない」
今のところ、人間領にそんな余力はない。
度重なる大混乱のせいだ。
だが、もし何らかの目的が生まれて、しっかりと準備を整えられたら、踏破されてもおかしくない。
だからこそ、人間領側を刺激したくなかった。
「それで俺は、これから人間領ではなく、魔族領でどうにか食料調達をできないかと考えているんだ」
俺のセリフに、イーサーとラスクは顔を見合わせた。
ラインハルトは真剣な様子で話を聞いているが、無言だった。彼女は元農民。そのため魔族領の知識を持たないのだろう。
「魔族領については未知。せいぜい、不毛の大地よりはマシですが、人間領とは比べものにならないくらい荒れた土地だってことくらいしかわかりませんよね?」
ラスクの質問に俺は頷く。
俺も魔族領は、痩せた土地であるということくらいしか知らない。
わざわざ向かったことなどないのだ。
「あとは、寒冷ってことですかね? ……おそらく沿岸部は、水産都市エレフィンなんかと一緒で、暖かい海風の影響で、多少マシでしょうが」
イーサーも首を捻っている。
一般的に知られていること以上の情報がないためだろう。
セーレアも肩をすくめた。
「私も知らないかな。生存競争を過酷な土地で行ってるとしか。……昔、追われる身になったことはあるけど、さすがに魔族領には踏み込まなかったわ」
「どうしてだ?」
「単純に、人間のいない土地で人間が暮らすってのは無茶があるからよ」
「なるほど。人間領での魔族みたいな扱いになる可能性があるからか」
「そういうこと。それに、土地が痩せ細ってるってかなり大きな問題よ。例えばモンスターや人間なんかに襲われなくても、ただ食べ物がないってだけで人って死んじゃうんだから」
確かにその通りだ。
人間たち全員の意見が出たためだろう。
ただ一人のダークエルフに視線が集まった。
オゥバァは先ほどから何か意見がある様子だったが、ずっと無言だったのだ。
「いや。リリィが謝る必要はないよ」
「王国史情報室の活動範囲は、人間領に限定されていました。フウマさんの求めている魔族領については、私も一般的なこと以上は知らないんです」
ここは村長宅。つまり俺の家だ。
今日は外部の協力者を集めて話し合いをする日だった。
シノビノサト村内での相談はもう十分に行った。
結論は単純。
魔の山だけの土地では不足というものだ。
人手はある。
水産都市エレフィンで難民となっていたのは、元は農奴だったりする者が少なくないからだ。畑を耕したり、種を撒いたりという作業自体は単純なので、皆すぐに慣れるだろう。
問題は土地だった。
「シノビノサト村の土地だけでは、数百人もの受け入れは不可能。だから魔族領に目を向けるというのは、ある意味、道理が通っているかもしれません」
「そうだろ?」
「ですが、魔族領は一筋縄ではいかないと……思います」
ちょっと言いづらそうにしながらも、そう言い切った。
リリィの返事は、かなり意外なことだった。
王国史情報室で俺について知り、さらには共に戦った。
その結果、俺の戦闘能力については、相当理解していると思っていたのだが。
そんな疑問を浮かべていると、オゥバァの「連れてきたわよー」という声が聞こえてきた。
大きな足音と共に現れたのは、髭面の中年冒険者イーサー。
「おう。先輩。久しぶりだな」
その後に続いているのは、何やら話し込んでいる様子のベテラン冒険者のラスクと、水産都市エレフィンで難民たちをまとめていたラインハルトだ。
「お久しぶりです、フウマさん」
相変わらず腰が低いラスク。
「遅くなってすまない」
ラインハルトは凛々しい男装だった。おそらくその方が難民たちを導きやすいからだろう。
ラインハルトが女だと知っているのは、おそらく俺を含め、かなり少数のはずだ。
俺は彼らに座るように勧めた。
彼らを案内してきたオゥバァとセーレアも話し合いに興味があるのか腰を下ろした。
「魔の山もずいぶんと安全になりましたね」
ラスクは話し合いが始まると、開口一番そう言った。
B級のベテラン冒険者らしく、モンスターに関することが気になるらしい。
「ははは……」
俺は苦笑した。
ラスクはそんな俺を見て不思議そうにした。
「ラスク……あれは別に安全確保のためにそうしたわけじゃないんだ」
一部のモンスターの肉は食用に堪えうる。そのため、食料不足で狩りまくってしまったのだ。
そう説明すると、ラスクも先ほどの俺と同じような、なんともいえない苦笑をした。
「なるほど……そういう事情でしたか」
「けどよぉ、先輩。真面目な話。ちょいとキメラの数が少なすぎるぜ? 俺くらいのボンクラ冒険者でも、うっかりするとシノビノサト村まで辿り着けるかもしれねえ」
イーサーは髭面を歪めて真剣にそう訴えてきた。
「ありがとう、イーサー」
「お、おう」
イーサーは照れたようにごま塩頭をかいた。
「イーサーの言うことは正しい。今までは、樹海とモンスターが天然の結界のようになって、シノビノサト村を隠していた。けど、今は麓にいる少数のキメラを抜けてしまえば、あとは樹海だけ。以前のように昼でも暗い樹海の中をモンスターを警戒しながら歩く必要性はかなり薄れてしまった。……確かに、ここまで辿り着ける部外者も出てくるかもしれない」
今のところ、人間領にそんな余力はない。
度重なる大混乱のせいだ。
だが、もし何らかの目的が生まれて、しっかりと準備を整えられたら、踏破されてもおかしくない。
だからこそ、人間領側を刺激したくなかった。
「それで俺は、これから人間領ではなく、魔族領でどうにか食料調達をできないかと考えているんだ」
俺のセリフに、イーサーとラスクは顔を見合わせた。
ラインハルトは真剣な様子で話を聞いているが、無言だった。彼女は元農民。そのため魔族領の知識を持たないのだろう。
「魔族領については未知。せいぜい、不毛の大地よりはマシですが、人間領とは比べものにならないくらい荒れた土地だってことくらいしかわかりませんよね?」
ラスクの質問に俺は頷く。
俺も魔族領は、痩せた土地であるということくらいしか知らない。
わざわざ向かったことなどないのだ。
「あとは、寒冷ってことですかね? ……おそらく沿岸部は、水産都市エレフィンなんかと一緒で、暖かい海風の影響で、多少マシでしょうが」
イーサーも首を捻っている。
一般的に知られていること以上の情報がないためだろう。
セーレアも肩をすくめた。
「私も知らないかな。生存競争を過酷な土地で行ってるとしか。……昔、追われる身になったことはあるけど、さすがに魔族領には踏み込まなかったわ」
「どうしてだ?」
「単純に、人間のいない土地で人間が暮らすってのは無茶があるからよ」
「なるほど。人間領での魔族みたいな扱いになる可能性があるからか」
「そういうこと。それに、土地が痩せ細ってるってかなり大きな問題よ。例えばモンスターや人間なんかに襲われなくても、ただ食べ物がないってだけで人って死んじゃうんだから」
確かにその通りだ。
人間たち全員の意見が出たためだろう。
ただ一人のダークエルフに視線が集まった。
オゥバァは先ほどから何か意見がある様子だったが、ずっと無言だったのだ。
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