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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮
夜明けの空の下 7
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「フウマ」
俺とテアールが話し込んでいると、リノが俺に話しかけてきた。この路地裏に来てからリノが話しかけてくるのは初めてだ。
「なんだい、リノ?」
「この騒ぎを鎮めたい……その……私も。今度は危ない真似はできる限りしないようにするから……手伝わせて!」
ちゃんと冷静なリノに戻っているようだった。
俺はリノに心配されないように、とりあえず顔の血を袖でごしごしと拭っておいた。気休め程度だが。
「ああ、ありがとう」
リノの頭を撫でようとした瞬間、港の方から爆音が響き、俺の手が止まった。
「こんな悪夢みたいな光景を……俺たちだけで止められるのか……?」
俺はつい不安を口にしていた。あのナラクの生み出した恐ろしい幻覚を思い出したのだ。もしナラクが「天国」ではなく「地獄」をイメージして幻術を使用していれば、きっとこのような光景が見えたのではなかろうか。
「これは悪夢じゃないよ」
リノが俺を元気づけるように微笑んだ。
「現実の光景。……だからきっと止められる。悪夢なら一人で立ち向かわなくちゃいけない。けど――」
リノは仲間たちを見回した。
やれやれというように苦笑するセーレアとオゥバァ。恐怖を必死に抑え込んでいる様子のテアール。
(そうだ……これはあのナラクの生み出した幻覚とは違う……現実なんだ)
ここにいる四人だけじゃない。リリィだっている。ラインハルトだっている。彼らに従っている者たちや協力している者たちだって大勢いるだろう。
どんどん騒ぎが大きくなるというのは、ただ単に全員が街を捨てて逃げようとしているからではない。争いを止めよう、街を守ろう、誰かを救おう――。そう思って、行動しているからなんだ。
ずっと悲鳴と怒声ばかりのように思えていた周囲の声の中に、誰かを励ます声、誰かを助けようとする声、そんな声がいくつも混じっていることに気づけた。
シノビである俺の聴覚は鋭いが、先程までそんな優しく力強い声がまったく聞こえていなかった。そんなものないと思い込んでいたためだろう。
「すぅ-……はぁー…………」
目を閉じて思いきり深呼吸する。
ジッチャンの声を思い出す。
――よいか。シノビは冷静であることが何よりも重要だ。
この騒ぎを起こしている連中は、何が目的だろう。
どこにいるだろう。
冷静になって一つずつ考える。
王国史情報室過激派ならば、復讐かもしれない。だとすれば、この都市のどこかにいるだろう。
あのナラクの残党などならば……やはり俺に対する復讐かもしれないな。
だとしたら、俺が原因なのか。俺がいなければ、この水産都市エレフィンはこんな酷いことにならずに済んだのか。そんなふうに自分を責めそうになる気持ちを頭を振ってかき消す。違う。元からナラクはこの都市で人体実験を散々行っていた。明るみに出なかったのは気づいた者たちは皆殺されてしまったからだろう。王国史情報室だってそうだ。大勢の者たちが知らなかったから口の端に上らなかっただけ。
俺は俺のやることをやるだけだ。
両目を開ける。
まるで今まで両目が血で塞がっていたかのような気分だ。今はクリアにすべてがよく見える気がする。
「行こうか……。敵はおそらく騒ぎの中心にいる。船の爆破が止まらないなら、そこに敵がいるはずだ。まずはそいつを――叩く」
俺の力強い声に、セーレアとオゥバァ、リノが続く。リノはテアールとここで隠れて待っていてもらおうかと思ったが、そっちの方が心配な気がした。
俺たち四人は、またも炎が躍る戦いの舞台に戻ったのだった。
俺とテアールが話し込んでいると、リノが俺に話しかけてきた。この路地裏に来てからリノが話しかけてくるのは初めてだ。
「なんだい、リノ?」
「この騒ぎを鎮めたい……その……私も。今度は危ない真似はできる限りしないようにするから……手伝わせて!」
ちゃんと冷静なリノに戻っているようだった。
俺はリノに心配されないように、とりあえず顔の血を袖でごしごしと拭っておいた。気休め程度だが。
「ああ、ありがとう」
リノの頭を撫でようとした瞬間、港の方から爆音が響き、俺の手が止まった。
「こんな悪夢みたいな光景を……俺たちだけで止められるのか……?」
俺はつい不安を口にしていた。あのナラクの生み出した恐ろしい幻覚を思い出したのだ。もしナラクが「天国」ではなく「地獄」をイメージして幻術を使用していれば、きっとこのような光景が見えたのではなかろうか。
「これは悪夢じゃないよ」
リノが俺を元気づけるように微笑んだ。
「現実の光景。……だからきっと止められる。悪夢なら一人で立ち向かわなくちゃいけない。けど――」
リノは仲間たちを見回した。
やれやれというように苦笑するセーレアとオゥバァ。恐怖を必死に抑え込んでいる様子のテアール。
(そうだ……これはあのナラクの生み出した幻覚とは違う……現実なんだ)
ここにいる四人だけじゃない。リリィだっている。ラインハルトだっている。彼らに従っている者たちや協力している者たちだって大勢いるだろう。
どんどん騒ぎが大きくなるというのは、ただ単に全員が街を捨てて逃げようとしているからではない。争いを止めよう、街を守ろう、誰かを救おう――。そう思って、行動しているからなんだ。
ずっと悲鳴と怒声ばかりのように思えていた周囲の声の中に、誰かを励ます声、誰かを助けようとする声、そんな声がいくつも混じっていることに気づけた。
シノビである俺の聴覚は鋭いが、先程までそんな優しく力強い声がまったく聞こえていなかった。そんなものないと思い込んでいたためだろう。
「すぅ-……はぁー…………」
目を閉じて思いきり深呼吸する。
ジッチャンの声を思い出す。
――よいか。シノビは冷静であることが何よりも重要だ。
この騒ぎを起こしている連中は、何が目的だろう。
どこにいるだろう。
冷静になって一つずつ考える。
王国史情報室過激派ならば、復讐かもしれない。だとすれば、この都市のどこかにいるだろう。
あのナラクの残党などならば……やはり俺に対する復讐かもしれないな。
だとしたら、俺が原因なのか。俺がいなければ、この水産都市エレフィンはこんな酷いことにならずに済んだのか。そんなふうに自分を責めそうになる気持ちを頭を振ってかき消す。違う。元からナラクはこの都市で人体実験を散々行っていた。明るみに出なかったのは気づいた者たちは皆殺されてしまったからだろう。王国史情報室だってそうだ。大勢の者たちが知らなかったから口の端に上らなかっただけ。
俺は俺のやることをやるだけだ。
両目を開ける。
まるで今まで両目が血で塞がっていたかのような気分だ。今はクリアにすべてがよく見える気がする。
「行こうか……。敵はおそらく騒ぎの中心にいる。船の爆破が止まらないなら、そこに敵がいるはずだ。まずはそいつを――叩く」
俺の力強い声に、セーレアとオゥバァ、リノが続く。リノはテアールとここで隠れて待っていてもらおうかと思ったが、そっちの方が心配な気がした。
俺たち四人は、またも炎が躍る戦いの舞台に戻ったのだった。
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