最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた

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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮

夜明けの空の下 6

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「幻覚状態による痛覚無効、筋力強化、恐怖軽減……あとは暴走ってところかな?」

 オゥバァが指折り、先程の〈上位職〉同族殺人鬼シリアルキラーの状態について語っていた。

 ここは倉庫街の路地裏。細く切り取られた赤い夜空から、炎の明かりが差し込んでくる。

「ただ、あのバカみたいに強い奴とやり合う前に、何人か戦ったの。そっちはリノちゃんでもどうにか相手になれそうなくらいだったから……ちょっと油断しちゃった……」

 オゥバァが苦笑というには苦々しすぎる笑みを浮かべて少し俯いた。

「そう気落ちするな、オゥバァ」

 俺は彼女の煤けた銀髪を少し払ってあげた。
 オゥバァが顔を上げる。

「あの黒ずくめ……最初は意味がわからなかったが、シノビノサト村と関連付けてわかった。あれは初代が使っていたという装束だ」

「装束? 初代……」

 オゥバァはなぜか初代という言葉に引かれたようだった。だがそれよりもあの服装について説明しておくべきだろう。

「あれは、似たような格好をすることで、相手を油断させたり、中身を悟られにくくしたりする効果を狙ったものなんだ」

「……確かに、私も一人目二人目くらいまでは気をつけてたし、ステータス表示オープンを使ってたけど、似たようなのが次々に現れた時点で、もうステータスなんて確認しなかったもんね。まあ、そんな余裕もほとんどなかったせいもあるけど……」

 俺がオゥバァと情報共有を優先していると、セーレアが俺を肘でつついてきた。
 セーレアを見ると、セーレアは無言でリノに視線を向けた。

 リノは落ち込んでいる様子だった。
 今頃冷静になって自分がどれほど無茶をしたか、どれだけ仲間を危険にさらしていたかを理解したらしい。

(どうするかな……?)

 頭を掻く。
 慰めるべきな気もするが、リノが自分なりに気持ちを整理する時間を与えるべきという気もする……。
 そんなふうに悩んで、俺たち四人が無言になっていると、商人風の若い男が俺に話しかけてきた。確か、テアールだったか。

「初めまして……フウマさん……」

 テアールは笑みを浮かべていたが、表情通りの感情を抱いているわけではないと感じた。対人経験が足りないと常日頃から感じている俺に見抜かれるほど、テアールという商人が素人ということもないだろう。
 ときおりちらりとリノに向ける視線からも、なんとなく感情が読み取れた。リノの様子が心配なのだろう。

「こちらこそ初めまして。テアールさん……でしたっけ?」

「ええ。そうです。行商人をしておりまして。こちらの『美少女冒険者パーティー』の方々に護衛を依頼をしたんです」

「美少女冒険者パーティー?」

 ああ。そういえば……。

 俺はセーレアを見た。
 彼女はぺろっと舌を出していた。たぶん本人は可愛い顔をしているつもりだろう。俺から見ると、どこか憎たらしいような顔に見えなくもないのだが。

「セーレア。なんでそんな名前に?」

「名前って大事なのよ。実際、『美少女冒険者パーティー』って名前のおかげで噂が素早く広まり、テアールに出会えて、竜車にも同乗させてもらえたんだもん」

 なるほど。言われてみれば、以前出くわしたS級冒険者たちも大組織におもねるような名前にしていた。

「フウマさん。先程の怪物、おそらく港に出回っている『天国粉』と関係がありますよ」

 テアールが俺に真剣な目で訴えてきた。

「私は職業柄、いろいろな行商人と付き合っているのですが、港町で非合法な薬をばらまく売人たちがかなりいるという噂を聞いています」

(……あの老婆みたいな奴らか……)

 確かに『天国粉』を売っている奴がいた。
 その主成分は〈過去見幻草〉なのだ。

(……とすると……人体実験か)

 おぞましい結論に至る。
 小金目的で〈過去見幻草〉を含有した薬をばらまくのは危険すぎる。

(あの苔の化け物がしたんだろうか……たぶん、そうなんだろうな……)

 自らの肉体だけでなく、水産都市エレフィンを丸ごと巻き込むような実験を行っていたのだ。

(あのナラクと名乗ったシノビが、俺の知るナラクと同一人物だとしたら……そんな大規模な真似も可能かもな)

 俺では不可能だが、あのナラクならそれだけの手腕があってもおかしくない。シノビノサト村でシノビの技に革命を起こし、のちのシノビに多大な影響を与えた彼なら。

(そんな彼も……〈最上位職〉フウマにはなれなくて…………あんなふうになっちまったのかもな)

 フウマになれるのは「ちぃと」という特別な力を持っていた曾祖父の血を引いている者だけ。血縁なら必ずしもフウマになれるというわけでもないが、それが最低条件だったのだ。
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