最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた

文字の大きさ
上 下
38 / 263
登場人物等・書籍化関連

「最難関ダンジョン」2巻のウリ

しおりを挟む
 
 そもそも、ドックに収容されて乾電池になっている俺がどうしてエアーフリートを操作できるんだろう。
 これがギア・フィーネ、ギア3から使える『ハッキング』。
 ギア4になっていることで、精度と効果範囲が広がっている。
 俺如きの知識でもここまでのことが容易くできるのだから、ギア4の恐ろしさと危険性は相当だ。
 万能感とはこういうことを言うんだろう。

「ぐっ」

 でも、あまりもたない——!
 鼻と目と耳から、血が止まらなくなってきた。
 毛細血管がぶちぶちいっているのがわかる。
 神経が敏感になり続けて、熱い。
 これ以上続ければ、本当に人間辞めそう。

『あれぇ? もう人間辞めちゃうの? 早くない?』
「! デュレオ……?」
『レナの歌をもっとよく聴きなよ。それとも俺の歌の方がいい? どっちでもいいから、歌い手の歌をよく聴きな。確かに歌い手はブースターではあるけど、それだけじゃない。ちゃんと聴くことができれば、脳波の同調を整える力もある』
「……!」
『ちゃんと深呼吸して、口で。肺に酸素入れて、心臓で血を全身に行き渡らせて——感じて。歌を』

 その波動を。

「っ!」

 海? いや、大地、地平線?
 青い、青い空……夕焼け?
 違う、朝焼け……青い、群青の空に、なんだ?
 時間がすごい速度で進んでる?
 俺は今どうなってるんだ!?

『驚いた。こんなに早く“ここ”に辿り着くなんてな』
『兄さんはずいぶんあなたを気に入ったんですね』
「!?」

 ハッとした。
 目の前には真っ白な空間。
 ど、どこだここ!?
 あたりを見回すと、一人の男が近づいてきた。
 群青色の髪と不適な笑みを浮かべた金の目の男。
 こいつ、知ってる。俺。
 いや、初対面といえば初対面なんだが、全身がゾワゾワと泡立つ。
 でも、もう一人女の子みたいな声がしなかったか?
 男以外を見ようにも、白光りしていて明確に姿を確認できたのはこの男だけ。

「こ、ここは、なんだ!? 俺はエアーフリートの中のイノセント・ゼロの中にいたはずなのに!」
『イノセント・ゼロ。やっぱりまた四号機か。あれだけなーんでおかしいんだろうなぁ? 設計スタンスは五機とも同じなんだけど』
『育った環境ではありませんか? 四号機はよい登録者に恵まれ、すぐに“歌い手”を得ましたから』
『そういうものか。だが、存外お前の考えた“歌い手”システムは上手くいっている。導入は正解だったな』
「……なんの、話をしている!? お前は誰だ!」

 先ほどの万能感を一瞬で取り上げられたのだ、警戒もする。
 それに、多分これ肉体ではない。
 これは、なんだ?
 精神体?
 本当にどこだよ、ここ!
 いくら俺が美人に弱いからって、今回ばかりは揺るがされたりしないぞ。

『そうそう、普通そういう質問をするんだよ! ここにこられるのは各機各登録者一回きりなんだからさ! それなのに二号機と五号機の登録者としたら、今忙しい、ってさっさと帰っていくんだから』
「っ」

 茶化されている?
 二号機と五号機って、シズフさんとラウト?
 今忙しいって帰っていくって、容易に想像がつくなぁ。

『ここはブレス・トワ・アース。現代を生きるあなたたちが、結晶大陸クリステル・アースと呼ぶ世界の中心部』
『そして俺様こそがギア・フィーネの創造主にしてブレス・トワ・アースで世界を“運営”する代理神の一人! 王苑寺ギアン様だ! 崇め奉れよ!』
「……」

 ああ……ああ……!
 なんかそんな気はしていたけど、やっぱりこの男が王苑寺ギアン!
 それにしても、どうしてこんなに吐き気が止まらないんだ。
 この男が、気持ち悪くて仕方ない!
 デュレオが人を殺したのを見た時以上の拒絶感。
 思わず口を押さえてしまう。

「どうして俺をここに……」
『どうして! それは違う! ギア・フィーネはギア4に上がった時点で登録者をココへ招くようプログラムしてあるんだ。登録者はわけもわからず選ばれて、世界の都合で戦わせられるだろう? でもそれは仕方ない! 愚かな為政者どもが、ギア・フィーネの真の価値を理解しないまま戦わせるのだから!』
「そんなことを聞いてるんじゃない! ここはいったいなんなんだ!? なんで俺はここに連れてこられてるんだよ!」
『ハハ! 頭の悪いガキだな。ここは、最初で最後の俺への謁見の場! 聞きたいことになんでも答えてやろう。たとえばどうしてギア・フィーネを作ったのか、とかな! みんな知りたいだろう?』

 テンション高っけ。
 それに、なぜか異様な嫌悪感を抱く。
 一刻もここから立ち去りたい。
 もしかして、シズフさんとラウトもこんな気持ちだったのかな。
 でも、それなら誰よりも早くここにきたであろう、三号機の登録者——ザード・コアブロシアと、さっきから名前の出ない四号機の登録者、アベルトさんはなにかを質問したのか?
 っていうか、なんだよ、ブレス・トワ・アースとか、惑星の中心部とか。

「聞きたいことは、山のようにある、けど……質問制限とかあるの?」
『ないぜ』
『でも、あなたの体はあまりギア4に耐えられていません。一つだけにした方がいいと思います。もしくは、このままなにも聞かずに戻るのを推奨します』
「っ」
しおりを挟む
感想 146

あなたにおすすめの小説

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

職業・遊び人となったら追放されたけれど、追放先で覚醒し無双しちゃいました!

よっしぃ
ファンタジー
この物語は、通常1つの職業を選定する所を、一つ目で遊び人を選定してしまい何とか別の職業を、と思い3つとも遊び人を選定してしまったデルクが、成長して無双する話。 10歳を過ぎると皆教会へ赴き、自身の職業を選定してもらうが、デルク・コーネインはここでまさかの遊び人になってしまう。最高3つの職業を選べるが、その分成長速度が遅くなるも、2つ目を選定。 ここでも前代未聞の遊び人。止められるも3度目の正直で挑むも結果は遊び人。 同年代の連中は皆良い職業を選定してもらい、どんどん成長していく。 皆に馬鹿にされ、蔑まれ、馬鹿にされ、それでも何とかレベル上げを行うデルク。 こんな中2年ほど経って、12歳になった頃、1歳年下の11歳の1人の少女セシル・ヴァウテルスと出会う。凄い職業を得たが、成長が遅すぎると見捨てられた彼女。そんな2人がダンジョンで出会い、脱出不可能といわれているダンジョン下層からの脱出を、2人で成長していく事で不可能を可能にしていく。 そんな中2人を馬鹿にし、死地に追い込んだ同年代の連中や年上の冒険者は、中層への攻略を急ぐあまり、成長速度の遅い上位職を得たデルクの幼馴染の2人をダンジョンの大穴に突き落とし排除してしまう。 しかし奇跡的にもデルクはこの2人の命を救う事ができ、セシルを含めた4人で辛うじてダンジョンを脱出。 その後自分達をこんな所に追い込んだ連中と対峙する事になるが、ダンジョン下層で成長した4人にかなう冒険者はおらず、自らの愚かな行為に自滅してしまう。 そして、成長した遊び人の職業、実は成長すればどんな職業へもジョブチェンジできる最高の職業でした! 更に未だかつて同じ職業を3つ引いた人物がいなかったために、その結果がどうなるかわかっていなかった事もあり、その結果がとんでもない事になる。 これはのちに伝説となる4人を中心とする成長物語。 ダンジョン脱出までは辛抱の連続ですが、その後はざまぁな展開が待っています。

俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~

風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。