最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた

文字の大きさ
上 下
133 / 263
第Ⅳ章 天国へ至る迷宮

苔の化け物 2

しおりを挟む
「強者の雰囲気があるな、この苔の化け物……」

 知性の欠片も感じられない様子なのに、妙な威圧感を感じる。上位竜に匹敵しそうなほどだ。
 『天涯』に入ろうとした時から感じていた嫌な気配は、この怪物のものだったらしい。

 ある程度距離を取った状態で、俺は苔の化け物に〈手刀〉の衝撃波を放った。
 第六感とでもいおうか。不用意に近づくのは危険だと直感したのだ。

「なっ……!?」

 驚いたことに、苔の化け物は〈手刀〉の衝撃波を予想していたかのように避けた。

 ――早い。
 猿のような動きだ。最奥にいくつもある水晶の柱を足場にして飛び跳ねる。
 そして、こちらの背後に回ろうとしてきた。

(……猿っていうより……)

 俺は背後を取られないように移動する。
 苔の化け物の動きを観察しているうちに違和感が増していく。知性がほとんど感じられず、動きが乱雑になっているが、確かに修練の跡が見えた。
 ただ、老いか病かその動きに無駄が多く、どこかで見たことのあるその動きの正体に確信が持てなかった。

 俺の背後に立つ水晶に音もなく着地した瞬間――

(……まさか……シノビか!?)

 内心、動揺した。
 だが、やることに変わりはない。

 俺は背後を取られたが慌てず、振り向きざま、心持ちゆっくりと〈手刀〉を放つ。
 わざと遅い〈手刀〉を放ったため、苔の化け物は回避してカウンターを狙おうとしてきた。
 だが、これは初歩的なフェイントだ。
 理由はわからないが、苔の化け物は〈手刀〉に反応してきた。なので今度は普通に蹴りだ。スキルではない。

「!」

 苔の化け物はしゃべれないのか、言葉にならない声を上げて避けようとした。
 だが、フェイントに気づくのが遅い。ただの蹴りでも相手の動きを一瞬止めるには十分。
 相手の腹に一撃入った瞬間、〈手刀〉を叩き込んだ。もちろん今度はフェントじゃない。

(弱い……)

 蹴りと〈手刀〉で苔の一部が剥げ、地肌のようなものが見える。人間の肌のようだ。本当にシノビの可能性が高い。

 苔の化け物は一般人では目で追うのも難しい速度で下がろうとする。熟練冒険者パーティーでも一撃入れるのは難儀な素早さだろう。

 けど……それだけだ。

(知能がなければフェイントに簡単に引っかかる。相手の技や罠を警戒しなくてもいい)

 この差は極めて大きい。

(ただ動きがちょっと速くて、変則的なだけの怪物程度なら楽勝だな)

 俺は苔の化け物に向かって、素早く踏み込んだ。
 その際、踏みしめた小さな白い花がいくつも舞う。
 苔の化け物にまた攻撃が決まり、苔が飛び散る。

(……なんであんな嫌な気配がしたんだろ?)  

 ふと疑問が湧いた。
 これならよほどオゥバァのが手強い。

 しばらく続いた戦闘の後。両手を切り落とした苔の怪物が、両膝をついた。肩口から赤い血が吹き出している。

「お前は何者だ? シノビなのか?」

 返事はない。
 言葉を発しなかったことや戦術が欠片もなかったところを見ると、知能はないのだろうか……。

(元シノビだと思うんだが……)

 おそらく抜け忍だろう。
 なんにせよ、理性を失って怪物に成り果ててしまった以上、とどめを刺すしかない。
 痛みくらいは感じているはずだ。さっさと倒してあげるべきだろう。

「これで、とどめだ」

 首を落とそうと近づいた俺は、初めて苔の化け物の目に知性の光をかすかに見た。
 奴は明らかにチャンスを狙って、技を放ってきた。それは知性のない化け物ではありえないことだった。

 相手は口からドラゴンのようにブレスを吐いてきた。

(火遁か……!?)

 白い煙のようなものを吐き出したので、炎を警戒したが、熱さも痛みもない。

(白い……霧……?)

 相手の意外な攻撃に心理的な衝撃を受けていた俺を、更なる衝撃が襲う。

「フ……ウマ……」

 初めて化け物が意味のある言葉を口にした。それも俺の名前を。いや、〈最上位職〉フウマのことか?

「フウマ……フウマ……フウマ……フウマフウマフウマ…………フウマァァアアア!!」

 忌々しそうに。嬉しそうに。待ち焦がれていたかのように。何度も何度も呼んだ。 
 化け物の狂気に満ちた様子に気を取られていたため、足元がふらつき始めるたのに気づくのが遅れた。

「……っ!」

 なんだ、これ!?

「足……ふら……ついて……まさか――」

 苔の化け物は、〈過去見幻草〉を牧草を食べる牛のごとく貪り食っていた。

(あの白い霧は〈過去見幻草〉の成分か!?)
 
 幼い頃、ジッチャンに修行の一環で幻覚をかけられたことを思い出した。その時にそっくりだ。気持ち悪さを突き抜けた先にある一種の心地よさ。これが危険なのだ。まるで肉体の重さも、心のたがも、何もかも失う感じ……。

「……フウマに……勝ったぞ」

 そう耳に響いた気がした。
 空耳だったのかどうか……それさえも、もうわからなかった。
しおりを挟む
感想 146

あなたにおすすめの小説

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

職業・遊び人となったら追放されたけれど、追放先で覚醒し無双しちゃいました!

よっしぃ
ファンタジー
この物語は、通常1つの職業を選定する所を、一つ目で遊び人を選定してしまい何とか別の職業を、と思い3つとも遊び人を選定してしまったデルクが、成長して無双する話。 10歳を過ぎると皆教会へ赴き、自身の職業を選定してもらうが、デルク・コーネインはここでまさかの遊び人になってしまう。最高3つの職業を選べるが、その分成長速度が遅くなるも、2つ目を選定。 ここでも前代未聞の遊び人。止められるも3度目の正直で挑むも結果は遊び人。 同年代の連中は皆良い職業を選定してもらい、どんどん成長していく。 皆に馬鹿にされ、蔑まれ、馬鹿にされ、それでも何とかレベル上げを行うデルク。 こんな中2年ほど経って、12歳になった頃、1歳年下の11歳の1人の少女セシル・ヴァウテルスと出会う。凄い職業を得たが、成長が遅すぎると見捨てられた彼女。そんな2人がダンジョンで出会い、脱出不可能といわれているダンジョン下層からの脱出を、2人で成長していく事で不可能を可能にしていく。 そんな中2人を馬鹿にし、死地に追い込んだ同年代の連中や年上の冒険者は、中層への攻略を急ぐあまり、成長速度の遅い上位職を得たデルクの幼馴染の2人をダンジョンの大穴に突き落とし排除してしまう。 しかし奇跡的にもデルクはこの2人の命を救う事ができ、セシルを含めた4人で辛うじてダンジョンを脱出。 その後自分達をこんな所に追い込んだ連中と対峙する事になるが、ダンジョン下層で成長した4人にかなう冒険者はおらず、自らの愚かな行為に自滅してしまう。 そして、成長した遊び人の職業、実は成長すればどんな職業へもジョブチェンジできる最高の職業でした! 更に未だかつて同じ職業を3つ引いた人物がいなかったために、その結果がどうなるかわかっていなかった事もあり、その結果がとんでもない事になる。 これはのちに伝説となる4人を中心とする成長物語。 ダンジョン脱出までは辛抱の連続ですが、その後はざまぁな展開が待っています。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~

WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
 1~8巻好評発売中です!  ※2022年7月12日に本編は完結しました。  ◇ ◇ ◇  ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。  ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。  晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。  しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。  胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。  そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──  ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?  前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!

俺を凡の生産職だからと追放したS級パーティ、魔王が滅んで需要激減したけど大丈夫そ?〜誰でもダンジョン時代にクラフトスキルがバカ売れしてます~

風見 源一郎
ファンタジー
勇者が魔王を倒したことにより、強力な魔物が消滅。ダンジョン踏破の難易度が下がり、強力な武具さえあれば、誰でも魔石集めをしながら最奥のアイテムを取りに行けるようになった。かつてのS級パーティたちも護衛としての需要はあるもの、単価が高すぎて雇ってもらえず、値下げ合戦をせざるを得ない。そんな中、特殊能力や強い魔力を帯びた武具を作り出せる主人公のクラフトスキルは、誰からも求められるようになった。その後勇者がどうなったのかって? さぁ…

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。