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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮
苔の化け物 1
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俺は深夜、滝の裏側にある小道を走っていた。
『天涯』に続くこの道は、利用者が多いらしく、湿った地面に無数の足跡が残っている。
ひさしのように出っ張った岩のお陰で、濡れることはない。滝は左側を流れ落ちている。
「少し……懐かしかったな」
通行料を取る門番の目を盗んで門を抜ける時、幼い頃にイタズラしたことを思い出したのだ。
アイリーンの発案で、俺は睡眠中のジッチャンのヒゲを切り落とそうとした。
(……あの時だけは……ほんと、怒られたなあ……)
アイリーンも一緒になってジッチャンに怒られためずしい思い出だ。
今思うと、おそらくアイリーンは〈最上位職〉フウマの裏をかけるのか調べていたんだろう。
物思いにふけっていると天涯の入り口にすぐに着いた。
「ここが入り口か……」
見た目は、普通のダンジョンの入り口。特徴といえば岩肌に苔が生えていることくらい。
だが、ジッチャンの寝室に忍び込んだ時と同じような緊張感を感じる。
おかげで白昼夢も見ないから助かってるんだが。
(……これはやばそうだな……)
第六感が訴えかけてくる。
俺はほんの一瞬躊躇ったが、天涯に踏み込んだ。
ダンジョン攻略から約二時間後。
かなり本気で移動した俺は、最奥と思しき場所に到達した。本来なら熟練したパーティーでも二日はかかるだろう。
『天涯』が数多ある普通のダンジョンの一つだった頃、最奥とされていた場所だ。冒険者ギルド組合長から手に入れた情報だった。
真っ先にそこを確認しに来たが、どうやら正解だったらしい。
俺は、呆れたようにため息をついた。
(……またこの花か……)
目の前のには確かに『天国』と見紛うほどの美しい光景が広がっている。
天井には光る苔。白い小さな花が咲き乱れ、水晶が林立する。
小さな白い花――〈過去見幻草〉は、天国のような幻覚を見せることも可能だった。
「これが財宝『天国』で確定か。……実に嫌味なネーミングセンスだ。誰が『天国』なんて噂を流したのか……まさか、またアイリーン絡みとか言わないよな……」
俺は白い小さな花畑に不似合いな怪物を見つめる。
「あれが例の苔の化け物なのか?」
ラインハルトから聞いていた通り、苔に覆われた人型をしている。
てっきり巨体を思い浮かべていたので、俺とそう変わらない背丈というのが少し意外だった。
「〈過去見幻草〉の中毒症状に陥ってるな……」
苔の化け物は〈過去見幻草〉を貪り食っていた。
あのびっしりと生えた苔も、ひと目見ただけで危険な雰囲気を感じた。
俺は自分の手の平を見つめた。
(冷や汗か……じっちゃんの寝室に忍び込んで以来かもな……)
俺は苔の化け物に向かって一歩踏み出した。
『天涯』に続くこの道は、利用者が多いらしく、湿った地面に無数の足跡が残っている。
ひさしのように出っ張った岩のお陰で、濡れることはない。滝は左側を流れ落ちている。
「少し……懐かしかったな」
通行料を取る門番の目を盗んで門を抜ける時、幼い頃にイタズラしたことを思い出したのだ。
アイリーンの発案で、俺は睡眠中のジッチャンのヒゲを切り落とそうとした。
(……あの時だけは……ほんと、怒られたなあ……)
アイリーンも一緒になってジッチャンに怒られためずしい思い出だ。
今思うと、おそらくアイリーンは〈最上位職〉フウマの裏をかけるのか調べていたんだろう。
物思いにふけっていると天涯の入り口にすぐに着いた。
「ここが入り口か……」
見た目は、普通のダンジョンの入り口。特徴といえば岩肌に苔が生えていることくらい。
だが、ジッチャンの寝室に忍び込んだ時と同じような緊張感を感じる。
おかげで白昼夢も見ないから助かってるんだが。
(……これはやばそうだな……)
第六感が訴えかけてくる。
俺はほんの一瞬躊躇ったが、天涯に踏み込んだ。
ダンジョン攻略から約二時間後。
かなり本気で移動した俺は、最奥と思しき場所に到達した。本来なら熟練したパーティーでも二日はかかるだろう。
『天涯』が数多ある普通のダンジョンの一つだった頃、最奥とされていた場所だ。冒険者ギルド組合長から手に入れた情報だった。
真っ先にそこを確認しに来たが、どうやら正解だったらしい。
俺は、呆れたようにため息をついた。
(……またこの花か……)
目の前のには確かに『天国』と見紛うほどの美しい光景が広がっている。
天井には光る苔。白い小さな花が咲き乱れ、水晶が林立する。
小さな白い花――〈過去見幻草〉は、天国のような幻覚を見せることも可能だった。
「これが財宝『天国』で確定か。……実に嫌味なネーミングセンスだ。誰が『天国』なんて噂を流したのか……まさか、またアイリーン絡みとか言わないよな……」
俺は白い小さな花畑に不似合いな怪物を見つめる。
「あれが例の苔の化け物なのか?」
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「〈過去見幻草〉の中毒症状に陥ってるな……」
苔の化け物は〈過去見幻草〉を貪り食っていた。
あのびっしりと生えた苔も、ひと目見ただけで危険な雰囲気を感じた。
俺は自分の手の平を見つめた。
(冷や汗か……じっちゃんの寝室に忍び込んで以来かもな……)
俺は苔の化け物に向かって一歩踏み出した。
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