上 下
129 / 263
第Ⅳ章 天国へ至る迷宮

王国史情報室の介入 4

しおりを挟む
「さすが暗部の人間だな」

 俺は奴らを見た。
 全員生きている。

 奴らは懐から木彫りの人形を取り出して確認した。
 ちょうどその時、木彫りの人形が次々に砕けていく。
 奴らはそれを見て青い顔になった。 

(たぶん身代わりにダメージを受けてくれるマジックアイテムなんだろうな)

 亡くなったアレクサンダーたちでさえ持っていなかったところを見ると、極めて高価なマジックアイテムのはずだ。

 奴らが呆然としている中、俺は静かに声をかけた。
 
「さて、どうする?」

 フクロウたちはビクッと、砕けた木彫りの人形から顔を上げた。

 フクロウの顔は特徴がないと思ったが、化粧で誤魔化していたらしい。化粧が水で流れ、ホクロとソバカスが見えた。

(たぶん顔を覚えられにくくするための努力なんだろうな……)

 ずぶ濡れになっているせいもあるだろうが、一気に秘密組織の構成員っぽさがなくなった。

「夜空で聞いた質問だが――」

 俺はおもむろに空を見上げた。

「返事は? ……嫌だと言うなら、今度は草地にでも落としてみようと思うんだが……」
 
 ゆっくりと顔を戻した俺は、奴らをじっと見た。

 奴らは勢い込んで「もう二度と近づかない! まっとうに生きる!」というようなことを口々に悲鳴のように叫んだ。
 足早に去っていく彼らを見送った後、俺はリリィを見つめて、一つため息を吐いた。

「リリィ……正直、君が俺を裏切って、奴らに俺の情報を流したのが一番のショックなんだが……」

 リリィは心外な!というように怒った顔をした。

「いきなりなのは悪かったと思いますけど……深夜、大勢で宿に押しかけられて、か弱い乙女としては、他にどうする方法があったって言うんですか?」

 リリィがか弱いかどうかはともかくとして。

(他に選択肢がなかったというのはその通りかもな)

 仮に、リリィが俺を利用するのは不可能だと説明しても、あいつらは納得しなかったに違いない。

「まあ、確かにそうだな」

 頭をかく。
 どうにも締まらない。

(裏切られたわけじゃないのか……良かった……)

 ちょっと口元がにやけそうになったので注意する。

 俺とリリィのやり取りを黙って聞いていたラインハルトは、話が一段落したした知ると俺に尋ねてきた。

「貴殿は本当に……『天涯』を攻略してくれるのか?」

「ああ」

 当たり前のように頷く俺を見て、ラインハルトは頼りなく思ったのかもしれない。
 もしくは、難しさを理解していないのかと感じたようだ。

「確かに貴殿は凄い。先程の戦いも、私の理解を超えるものだった。……だが、最近報告された苔の化け物は異常な強さだったそうだ」

「苔の化け物?」

「ああ。ダンジョンの奥でたくさんの王国兵たちが犠牲になったらしい。苔の化け物は知能が低いらしく、目撃者が二人生きて帰って来れたんだ」

「知能が低いなら大したことないんじゃ……」

「王国兵たちが二百人で侵入したのにニ人しか生きて帰ってこられなかったのにか?」

 俺は驚いた。

「そんな情報……冒険者ギルドではなかったが……」

「本当につい最近の話だ」

「なるほどな」

「ついでに言えば、その王国兵たちは、『天国』に強い興味を抱いた王家が派遣したもので、装備も練度もそれなりのものだったようだ。なのに二百人近くも亡くなった」

「苔の化け物、ね……」

 S級冒険者として活動していたため、それなりにモンスターに詳しいが、そんな強力な苔の生えたモンスターなど知らない。それに、ラインハルトがモンスターの名前を言わないということは、おそらく生き残りたちもそのモンスターの名前がわからなかったのだろう。

 とすると、その未知のモンスターが未帰還率急上昇の理由――つまり、最難関ダンジョンに認定された理由か。

(……良かったというべきかな)
 
 王国史情報室に続いて、また人間相手だと気が滅入るからな。

「よし。モンスター相手なら気楽だ。『天涯』を今から攻略してくる」

 『天涯』に一人で向かう俺に、ラインハルトだけでなく、リリィもどこか不安そうな目を向けてきた。
しおりを挟む
感想 146

あなたにおすすめの小説

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

神眼のカードマスター 〜パーティーを追放されてから人生の大逆転が始まった件。今さら戻って来いと言われてももう遅い〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「いいかい? 君と僕じゃ最初から住む世界が違うんだよ。これからは惨めな人生を送って一生後悔しながら過ごすんだね」 Fランク冒険者のアルディンは領主の息子であるザネリにそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 父親から譲り受けた大切なカードも奪われ、アルディンは失意のどん底に。 しばらくは冒険者稼業をやめて田舎でのんびり暮らそうと街を離れることにしたアルディンは、その道中、メイド姉妹が賊に襲われている光景を目撃する。 彼女たちを救い出す最中、突如として【神眼】が覚醒してしまう。 それはこのカード世界における掟すらもぶち壊してしまうほどの才能だった。 無事にメイド姉妹を助けたアルディンは、大きな屋敷で彼女たちと一緒に楽しく暮らすようになる。 【神眼】を使って楽々とカードを集めてまわり、召喚獣の万能スライムとも仲良くなって、やがて天災級ドラゴンを討伐するまでに成長し、アルディンはどんどん強くなっていく。 一方その頃、ザネリのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 ダンジョン攻略も思うようにいかなくなり、ザネリはそこでようやくアルディンの重要さに気づく。 なんとか引き戻したいザネリは、アルディンにパーティーへ戻って来るように頼み込むのだったが……。 これは、かつてFランク冒険者だった青年が、チート能力を駆使してカード無双で成り上がり、やがて神話級改変者〈ルールブレイカー〉と呼ばれるようになるまでの人生逆転譚である。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

勇者パーティーを追放された俺は辺境の地で魔王に拾われて後継者として育てられる~魔王から教わった美学でメロメロにしてスローライフを満喫する~

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
主人公は、勇者パーティーを追放されて辺境の地へと追放される。 そこで出会った魔族の少女と仲良くなり、彼女と共にスローライフを送ることになる。 しかし、ある日突然現れた魔王によって、俺は後継者として育てられることになる。 そして、俺の元には次々と美少女達が集まってくるのだった……。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

超時空スキルを貰って、幼馴染の女の子と一緒に冒険者します。

烏帽子 博
ファンタジー
クリスは、孤児院で同い年のララと、院長のシスター メリジェーンと祝福の儀に臨んだ。 その瞬間クリスは、真っ白な空間に召喚されていた。 「クリス、あなたに超時空スキルを授けます。 あなたの思うように過ごしていいのよ」 真っ白なベールを纏って後光に包まれたその人は、それだけ言って消えていった。 その日クリスに司祭から告げられたスキルは「マジックポーチ」だった。

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。 「ヨシュア……てめえはクビだ」 ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。 「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。 危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。 一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。 彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。