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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮
王国史情報室の介入 4
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「さすが暗部の人間だな」
俺は奴らを見た。
全員生きている。
奴らは懐から木彫りの人形を取り出して確認した。
ちょうどその時、木彫りの人形が次々に砕けていく。
奴らはそれを見て青い顔になった。
(たぶん身代わりにダメージを受けてくれるマジックアイテムなんだろうな)
亡くなったアレクサンダーたちでさえ持っていなかったところを見ると、極めて高価なマジックアイテムのはずだ。
奴らが呆然としている中、俺は静かに声をかけた。
「さて、どうする?」
フクロウたちはビクッと、砕けた木彫りの人形から顔を上げた。
フクロウの顔は特徴がないと思ったが、化粧で誤魔化していたらしい。化粧が水で流れ、ホクロとソバカスが見えた。
(たぶん顔を覚えられにくくするための努力なんだろうな……)
ずぶ濡れになっているせいもあるだろうが、一気に秘密組織の構成員っぽさがなくなった。
「夜空で聞いた質問だが――」
俺はおもむろに空を見上げた。
「返事は? ……嫌だと言うなら、今度は草地にでも落としてみようと思うんだが……」
ゆっくりと顔を戻した俺は、奴らをじっと見た。
奴らは勢い込んで「もう二度と近づかない! まっとうに生きる!」というようなことを口々に悲鳴のように叫んだ。
足早に去っていく彼らを見送った後、俺はリリィを見つめて、一つため息を吐いた。
「リリィ……正直、君が俺を裏切って、奴らに俺の情報を流したのが一番のショックなんだが……」
リリィは心外な!というように怒った顔をした。
「いきなりなのは悪かったと思いますけど……深夜、大勢で宿に押しかけられて、か弱い乙女としては、他にどうする方法があったって言うんですか?」
リリィがか弱いかどうかはともかくとして。
(他に選択肢がなかったというのはその通りかもな)
仮に、リリィが俺を利用するのは不可能だと説明しても、あいつらは納得しなかったに違いない。
「まあ、確かにそうだな」
頭をかく。
どうにも締まらない。
(裏切られたわけじゃないのか……良かった……)
ちょっと口元がにやけそうになったので注意する。
俺とリリィのやり取りを黙って聞いていたラインハルトは、話が一段落したした知ると俺に尋ねてきた。
「貴殿は本当に……『天涯』を攻略してくれるのか?」
「ああ」
当たり前のように頷く俺を見て、ラインハルトは頼りなく思ったのかもしれない。
もしくは、難しさを理解していないのかと感じたようだ。
「確かに貴殿は凄い。先程の戦いも、私の理解を超えるものだった。……だが、最近報告された苔の化け物は異常な強さだったそうだ」
「苔の化け物?」
「ああ。ダンジョンの奥でたくさんの王国兵たちが犠牲になったらしい。苔の化け物は知能が低いらしく、目撃者が二人生きて帰って来れたんだ」
「知能が低いなら大したことないんじゃ……」
「王国兵たちが二百人で侵入したのにニ人しか生きて帰ってこられなかったのにか?」
俺は驚いた。
「そんな情報……冒険者ギルドではなかったが……」
「本当につい最近の話だ」
「なるほどな」
「ついでに言えば、その王国兵たちは、『天国』に強い興味を抱いた王家が派遣したもので、装備も練度もそれなりのものだったようだ。なのに二百人近くも亡くなった」
「苔の化け物、ね……」
S級冒険者として活動していたため、それなりにモンスターに詳しいが、そんな強力な苔の生えたモンスターなど知らない。それに、ラインハルトがモンスターの名前を言わないということは、おそらく生き残りたちもそのモンスターの名前がわからなかったのだろう。
とすると、その未知のモンスターが未帰還率急上昇の理由――つまり、最難関ダンジョンに認定された理由か。
(……良かったというべきかな)
王国史情報室に続いて、また人間相手だと気が滅入るからな。
「よし。モンスター相手なら気楽だ。『天涯』を今から攻略してくる」
『天涯』に一人で向かう俺に、ラインハルトだけでなく、リリィもどこか不安そうな目を向けてきた。
俺は奴らを見た。
全員生きている。
奴らは懐から木彫りの人形を取り出して確認した。
ちょうどその時、木彫りの人形が次々に砕けていく。
奴らはそれを見て青い顔になった。
(たぶん身代わりにダメージを受けてくれるマジックアイテムなんだろうな)
亡くなったアレクサンダーたちでさえ持っていなかったところを見ると、極めて高価なマジックアイテムのはずだ。
奴らが呆然としている中、俺は静かに声をかけた。
「さて、どうする?」
フクロウたちはビクッと、砕けた木彫りの人形から顔を上げた。
フクロウの顔は特徴がないと思ったが、化粧で誤魔化していたらしい。化粧が水で流れ、ホクロとソバカスが見えた。
(たぶん顔を覚えられにくくするための努力なんだろうな……)
ずぶ濡れになっているせいもあるだろうが、一気に秘密組織の構成員っぽさがなくなった。
「夜空で聞いた質問だが――」
俺はおもむろに空を見上げた。
「返事は? ……嫌だと言うなら、今度は草地にでも落としてみようと思うんだが……」
ゆっくりと顔を戻した俺は、奴らをじっと見た。
奴らは勢い込んで「もう二度と近づかない! まっとうに生きる!」というようなことを口々に悲鳴のように叫んだ。
足早に去っていく彼らを見送った後、俺はリリィを見つめて、一つため息を吐いた。
「リリィ……正直、君が俺を裏切って、奴らに俺の情報を流したのが一番のショックなんだが……」
リリィは心外な!というように怒った顔をした。
「いきなりなのは悪かったと思いますけど……深夜、大勢で宿に押しかけられて、か弱い乙女としては、他にどうする方法があったって言うんですか?」
リリィがか弱いかどうかはともかくとして。
(他に選択肢がなかったというのはその通りかもな)
仮に、リリィが俺を利用するのは不可能だと説明しても、あいつらは納得しなかったに違いない。
「まあ、確かにそうだな」
頭をかく。
どうにも締まらない。
(裏切られたわけじゃないのか……良かった……)
ちょっと口元がにやけそうになったので注意する。
俺とリリィのやり取りを黙って聞いていたラインハルトは、話が一段落したした知ると俺に尋ねてきた。
「貴殿は本当に……『天涯』を攻略してくれるのか?」
「ああ」
当たり前のように頷く俺を見て、ラインハルトは頼りなく思ったのかもしれない。
もしくは、難しさを理解していないのかと感じたようだ。
「確かに貴殿は凄い。先程の戦いも、私の理解を超えるものだった。……だが、最近報告された苔の化け物は異常な強さだったそうだ」
「苔の化け物?」
「ああ。ダンジョンの奥でたくさんの王国兵たちが犠牲になったらしい。苔の化け物は知能が低いらしく、目撃者が二人生きて帰って来れたんだ」
「知能が低いなら大したことないんじゃ……」
「王国兵たちが二百人で侵入したのにニ人しか生きて帰ってこられなかったのにか?」
俺は驚いた。
「そんな情報……冒険者ギルドではなかったが……」
「本当につい最近の話だ」
「なるほどな」
「ついでに言えば、その王国兵たちは、『天国』に強い興味を抱いた王家が派遣したもので、装備も練度もそれなりのものだったようだ。なのに二百人近くも亡くなった」
「苔の化け物、ね……」
S級冒険者として活動していたため、それなりにモンスターに詳しいが、そんな強力な苔の生えたモンスターなど知らない。それに、ラインハルトがモンスターの名前を言わないということは、おそらく生き残りたちもそのモンスターの名前がわからなかったのだろう。
とすると、その未知のモンスターが未帰還率急上昇の理由――つまり、最難関ダンジョンに認定された理由か。
(……良かったというべきかな)
王国史情報室に続いて、また人間相手だと気が滅入るからな。
「よし。モンスター相手なら気楽だ。『天涯』を今から攻略してくる」
『天涯』に一人で向かう俺に、ラインハルトだけでなく、リリィもどこか不安そうな目を向けてきた。
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