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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮
リリィ 19
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リリィの案内で、『天涯』の入り口を目指す途中、
「――そう私こそが……ラインハルトだ!」
難民キャンプにできた広場で、なぜか剣士風の若者が、そう名乗りを上げていた。
「なんだ? ……」
あれは? と続けようとした俺の声は、
「「「うおぉおおお!」」」
という聴衆である難民たちの歓声にかき消された。
難民の数は数百はいるだろう。
みんな熱に浮かされたような顔を浮かべている。
ラインハルトと名乗った若者は、台の上に立っているらしく難民たちの頭越しにもよく顔が見えた。
「私こそが『天涯』を攻略する勇者だ!!」
勇者? こいつがそうなのか……。
改めてラインハルトを見る。
優美な外見だな。その一方、瞳は意志が強そうで印象的だった。
アレクサンダーに似ているのは短めの金髪というところだけ。
「それにしてもラインハルトというのか……」
俺は思わず呟いた。
てっきり亡くなったアレクサンダーの名を騙っているのかと思ったが……。
死人の名を騙るほど悪い奴というわけではないらしい。
ちょっとだけ評価を改めるべきかもな。
うぉおおおお! とまたも歓声が上がった。
歓声がある程度静まった頃、ラインハルトは顔に汗を浮かべてまで叫ぶ。
「――私は必ず、財宝『天国』を見つけてみせる! そして……皆で共に『天国』に行こう!!」
……ん?
ふと先程の発言に、何か引っかかった。
なんだ? 何に違和感を覚えたんだ?
「「「うぉおおおおおおおおおおお!!」」」
最高潮を迎えた歓声に、俺の感じたかすかな違和感はかき消されてしまった。
まあ、いい……それよりも――。
俺はラインハルトに〈ステータス開示〉のスキルを使った。
まさか本当に勇者ってことはないよな?
まるでおとぎ話に出てくる高潔な勇者そのものに見えた。
だが――。
(……所詮おとぎ話は、おとぎ話だったわけか……)
俺は、リリィの肩を指先で叩いた。
振り向いたリリィに、指先で元来た道を示す。
もう聞く必要はないという俺の意思が伝わったらしく、リリィは俺の後についてきた。
「どうでしたか?」
リリィがそう尋ねるってことは、やはり彼女も勇者らしいと思ったんだろうな。
王国の暗部で活躍したスパイである彼女でさえ見抜けないということは、相当なもんだ。
だが、〈ステータス開示〉のスキルは非情だ。
「……ラインハルトのステータスには、はっきりと『称号:偽勇者』の記載があった。偽勇者で間違いない。ついでにいえば、職業は農民だそうだ」
「……そう……ですか……」
リリィは、まだラインハルトに声援を送っている難民たちを振り返り、やるせなさそうな表情を浮かべた。
俺も似たような気分だ。
正直、難民たちのことを思えば、ラインハルトが本物の勇者であった方が良かっただろう。
――とはいえ、仕事は仕事だ。
「俺はラインハルトに直接会って話をつけてくる」
「すぐですか?」
「いや。できれば二人きりの時がいい」
ラインハルトの演説が終わったらしく、大勢の聴衆がラインハルトに詰めかけている。
ラインハルトは聴衆たちに爽やかな笑顔で応じている。
「……となると、夜遅くになりそうですね」
「ああ。あの分だと取り巻きが常にいると思った方がいい」
リリィが一瞬、ラインハルトに鋭い視線を向けた。
「それと、お気づきですか? フウマさん」
「何がだ?」
「先程の演説……おかしなところがあったことに」
「おかしな?」
そういえば、どこかで引っかかった。
「……確か『天国』に関して……」
「その通りです。ラインハルトは財宝『天国』を場所として発言していました。『皆で共にに行こう』と言っていましたから」
「そうか」
俺もやっと違和感の正体に気づいた。
「リリィの言う通り不自然だな。『天涯』からの生還者がいないせいで、『天国』が物なのか場所なのかもはっきりしていないはず……なのに、場所と断言していた。つまり――」
「――『天涯』の関係者の可能性が高い」
「だな。……とりあえず目的の半分――偽勇者パーティーの件を今夜にでも片付けてくる。リリィは宿で待っていてくれ」
「わかりました。吉報を宿で待ってますね」
「――そう私こそが……ラインハルトだ!」
難民キャンプにできた広場で、なぜか剣士風の若者が、そう名乗りを上げていた。
「なんだ? ……」
あれは? と続けようとした俺の声は、
「「「うおぉおおお!」」」
という聴衆である難民たちの歓声にかき消された。
難民の数は数百はいるだろう。
みんな熱に浮かされたような顔を浮かべている。
ラインハルトと名乗った若者は、台の上に立っているらしく難民たちの頭越しにもよく顔が見えた。
「私こそが『天涯』を攻略する勇者だ!!」
勇者? こいつがそうなのか……。
改めてラインハルトを見る。
優美な外見だな。その一方、瞳は意志が強そうで印象的だった。
アレクサンダーに似ているのは短めの金髪というところだけ。
「それにしてもラインハルトというのか……」
俺は思わず呟いた。
てっきり亡くなったアレクサンダーの名を騙っているのかと思ったが……。
死人の名を騙るほど悪い奴というわけではないらしい。
ちょっとだけ評価を改めるべきかもな。
うぉおおおお! とまたも歓声が上がった。
歓声がある程度静まった頃、ラインハルトは顔に汗を浮かべてまで叫ぶ。
「――私は必ず、財宝『天国』を見つけてみせる! そして……皆で共に『天国』に行こう!!」
……ん?
ふと先程の発言に、何か引っかかった。
なんだ? 何に違和感を覚えたんだ?
「「「うぉおおおおおおおおおおお!!」」」
最高潮を迎えた歓声に、俺の感じたかすかな違和感はかき消されてしまった。
まあ、いい……それよりも――。
俺はラインハルトに〈ステータス開示〉のスキルを使った。
まさか本当に勇者ってことはないよな?
まるでおとぎ話に出てくる高潔な勇者そのものに見えた。
だが――。
(……所詮おとぎ話は、おとぎ話だったわけか……)
俺は、リリィの肩を指先で叩いた。
振り向いたリリィに、指先で元来た道を示す。
もう聞く必要はないという俺の意思が伝わったらしく、リリィは俺の後についてきた。
「どうでしたか?」
リリィがそう尋ねるってことは、やはり彼女も勇者らしいと思ったんだろうな。
王国の暗部で活躍したスパイである彼女でさえ見抜けないということは、相当なもんだ。
だが、〈ステータス開示〉のスキルは非情だ。
「……ラインハルトのステータスには、はっきりと『称号:偽勇者』の記載があった。偽勇者で間違いない。ついでにいえば、職業は農民だそうだ」
「……そう……ですか……」
リリィは、まだラインハルトに声援を送っている難民たちを振り返り、やるせなさそうな表情を浮かべた。
俺も似たような気分だ。
正直、難民たちのことを思えば、ラインハルトが本物の勇者であった方が良かっただろう。
――とはいえ、仕事は仕事だ。
「俺はラインハルトに直接会って話をつけてくる」
「すぐですか?」
「いや。できれば二人きりの時がいい」
ラインハルトの演説が終わったらしく、大勢の聴衆がラインハルトに詰めかけている。
ラインハルトは聴衆たちに爽やかな笑顔で応じている。
「……となると、夜遅くになりそうですね」
「ああ。あの分だと取り巻きが常にいると思った方がいい」
リリィが一瞬、ラインハルトに鋭い視線を向けた。
「それと、お気づきですか? フウマさん」
「何がだ?」
「先程の演説……おかしなところがあったことに」
「おかしな?」
そういえば、どこかで引っかかった。
「……確か『天国』に関して……」
「その通りです。ラインハルトは財宝『天国』を場所として発言していました。『皆で共にに行こう』と言っていましたから」
「そうか」
俺もやっと違和感の正体に気づいた。
「リリィの言う通り不自然だな。『天涯』からの生還者がいないせいで、『天国』が物なのか場所なのかもはっきりしていないはず……なのに、場所と断言していた。つまり――」
「――『天涯』の関係者の可能性が高い」
「だな。……とりあえず目的の半分――偽勇者パーティーの件を今夜にでも片付けてくる。リリィは宿で待っていてくれ」
「わかりました。吉報を宿で待ってますね」
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