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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮

自称美少女冒険者たち 6

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まるで空中に浮遊するように高々と跳んだ走竜ゴア。

その背に横座りになっていたリノは、その勢いによってふわりと浮いた。

リノとゴアが離れる。

すると、リノから伝わっていた赤いオーラが、ゴアに伝わらなくなった。

走竜ゴアは、自分が5メートル以上もジャンプしていることに気づくと、「ぐえぇえ!」という情けない声を上げて、足をバタバタした。

当然、そんな真似をすればバランスを崩す。

そうでなくても、高所からの落下の衝撃に耐えられるように馬車は造られていない。

運が悪ければ、このまま地面に激突して横倒しになるかもしれない。

「やれやれ……詰めが甘いのは誰に似たんだか……」

積み荷に腰掛けたオゥバァは、細剣の切っ先を軽く浮かしただけで、魔法を正確に発動した。

風の魔法を繊細に扱うことで、傾いた馬車の状態を直し、着地の衝撃をほとんど吸収した。

「ありがとうございます!」

リノがオゥバァに礼を言い、テアールに視線を移した。
人差し指を唇に当て、片目をつぶった。

「テアールさん。ゴアの跳躍のことは……ナイショですよ?」

どこか色っぽささえ感じる仕草に、テアールは一瞬、ぽうっと赤くなった。

頬を勢い良く叩き、テアールは自分に言い聞かせた。

「正気に戻れ、自分。年上好きだろ!」

叩いたせいで赤くなった頬をしたテアールは、大声で叫んだ。

「なんだかゴアの調子もいいみたいだし、このまま水産都市エレフィンまで行きましょう!」

「いえ。逃げ切れたと思ったら、適当なところで止まってください」

リノの意外なセリフに、セーレアが声を上げた。

「リノちゃん?」

一番フウマを追うことに熱心だった彼女が竜車を止めるように指示を出したのだ。

適当な岩陰で休むと、その理由が判明した。

ゴアは息切れを起こし、這いつくばっていた。

リノはゴアの長い首を撫でながら「ごめんなさい」と呟いた。

「なるほど。無理やり力を引き出した反動ってわけね」

オゥバァは、魔力切れを起こした魔道士のような状態のゴアを見て呟いた。



リノは1人でぼうっと焚き火を見ていた。昼間のゴアのことを思い出して。

セーレアは夕飯の当番で、オゥバァは見張り役だ。

「リノさん」

テアールがリノの隣に座り、話しかけた。

「リノさんってエルフの血を引いているんですか?」

「え?」

「エルフは見た目と年齢が合わないですからね。……どこかリノさんって自分より年上の気がして……」

「どうでしょうか……」

リノは遠い目をする。

「年というのを、どう数えるかによります」

「それは……?」

「例えば、寝ている間も年を取っていると考えますか?」

「そりゃまあ」

「生き物なら、冬眠をする間も年を取っていると考えるでしょう」

「ええ」

「けど、眠っている期間がとても長く、まったく意識がないとしたら?」

「……ええっと……よくわかりませんが、精神的にも肉体的にも年を取らないと?」

「……正直、私もよくわかりません。……ただ、目覚める時は、大きな変革をもたらす時代であるから、精神的には凄く成長しやすいのかもしれません。普通なら一生に1度あるかないかという動乱の時にしか存在し得ないのですから」

「…………」

「すみません。訳のわからないことを言って」

「いえ。……こうして旅をしていると不思議な出来事に結構出会うんですよ。今日のゴアの大跳躍だってそうだし……」

「そう……ですね」

「それでも、私はあまり気にしません」

気負ったふうもなく、はっきりとした物言いに、リノは思わずテアールに顔を向けた。

夜風に揺れる焚き火が、リノの横顔に濃い陰影を作る。

「だって、みんな、この世界に生きてるじゃないですか」

「…………」

「もちろん、『みんなこの世界に生きているから仲間だ』なんて言いませんよ? 襲ってくるモンスターもいるし、野盗に酷い目に遭わされたの1度や2度じゃない。けど、やっぱりどこか憎めないんです」

「酷い目にあわされたのに、ですか?」

「そうなんですよ……。自分でも不思議なんですがね。……商人をやめようと思ったこともないわけじゃないんですけど、でもやっぱ続けてる。確固たる意志があるようにも、ただ流されているだけのようにも感じられる」

「ふふ。やっぱりどこかフウマに似てますね」

「フウマ……さん、ですか。たまに出る名前ですね。セーレアさんやオゥバァさんと共通のお知り合いですか」

「はい! 大切な人です!」

饒舌だったテアールが急に黙り込んだ。
彼の若い横顔に、焚き火が深い陰影をつけた。
それはどこか苦悩する若者の表情に見えた。
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