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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮
自称美少女冒険者たち 5
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関所の高い壁が見る見る迫ってくる。
山賊たちが倒木や岩などで造ったため見栄えは悪い。
だが、頑強そうだった。
「ッ! ゴアっ! 止まれぇえ! このバカ馬ぁあ!!」
テアールが必死の表情で思いっきり手綱を引く。
停止の指示を無視したゴアは、血走った目をしたまま全速力で駆けている。
にやにやと関所の前に陣取っていた山賊たちも、竜車のあまりの勢いに真っ青になって逃げ出し始めるほどだ。
「ダメ! このままじゃぶつかる!」
セーレアが叫んだ。
荷縄を握り締め、積み荷にしがみついた。
混乱の中、オゥバァはリノの様子に目を見張っていた。
リノの青い目が赤くなっていく――。
〈火の小神〉の加護の色ではなく、鮮血のような色だ。
リノは、ひらりとゴアの背に飛び乗った。
横座りして、ゴアの首筋に触れた。
赤い揺らめきは、リノの目から全身に広がっており、さらにリノの手を伝ってゴアの全身にも広がっていく……。
リノはゴアの首筋を優しく撫でながら問いかけた。
「大丈夫。行けるよね?」
先程まで恐慌状態のため足取りが乱れ、首を上下させた不安定な走り方で、関所にぶつかろうとしていたゴアが、まるで軍馬のように冷静な動きに変わった。
ゴアの目に力が蘇っていた。
一人と一匹が見据える先には、5メートルを超える関所がある。
「かつての大戦で、あなた達は主力だったのだから」
どこか悲しみに彩られたリノの独白と同時に、ゴアは高く高く跳躍した。
まるで飛び立つ瞬間の竜のように見えた。
竜車からは、ぽかんと口を開いた山賊たちが見下ろせた。
ゴアの飼い主のテアールも、大きな岩と倒木を飛び越えたゴアに驚いていた。
関所は、竜車では絶対に越えられない高さがあるはずだった。
時間が止まったようにさえ感じられる長い滞空時間。
あまりの激しい動きによって、リノのリボンがほどけた。
リノは、御者台から身を乗り出すように振り向き、赤いリボンを掴んだ。
リノはその瞬間、怯えたような顔をした山賊の一人と目が合った気がした。
◇ ◇ ◇
「親分! 今すぐ馬を――」
馬を取りに走ろうとした山賊の副頭目に、山賊の頭目は答えた。
「もういい。そこまでだ」
山賊の頭目は、まだリノがいた辺りを見つめていた。
竜車は、関所を越えて走り去っていく。
関所の門は開いたものの、追う者はいない。
誰もが先程の走竜の信じられない跳躍を見て、茫然としていたのだ。
「親分?」
副頭目が怪訝そうに問いかけた。
てっきりメンツを潰されたと怒鳴り散らしてすぐさま追いかけると思っていたのだ。
「分が悪い。……さっきの見たか?」
「え?」
「リボンがほどけた嬢ちゃんにはツノがあった。魔族だ」
「はぁ」
副頭目は「魔族など珍しくもない」という顔で頷く。
「本物の魔族だ」
頭目の声には畏怖の感情が混じっていた。
「本物の……魔族?」
副頭目は不思議そうに呟いた。
「おい」
頭目は、リノのいた辺りから副頭目に視線を移した。
「魔族ってのを誤解しちゃいないか? 今、人間領で見かけるのは、大戦で囚われた一兵卒の魔族、そいつらの子孫だ。とっくの昔に心も折られてるし、力も大してない。だが……」
頭目は、目の辺りの大きな傷をかいた。
「魔族領にいる魔族の中には、強い者も当然いる。……昔、魔族領に逃げ込んだ手下がいたんだ。山賊の稼ぎをたんまり持ち逃げしてな。俺は手下たちと共に追いかけた。……魔族っていやぁ、奴隷根性が骨身に染み付いた、ガリガリに痩せ細った連中ってイメージが強かったからな。恐怖なんかなかった」
だが、と頭目は続けた。
「その間違いに気づいたのは、俺が片目を失い、連れていた手下数人を惨殺された後だった。赤い目をして、全身に赤いオーラをまとった魔族によって、全員殺されたんだ。俺は大金を取り返すこともできず、ひたすら逃げた。その魔族は結局、魔族領を出てまで追いかける気はなかったんだろう。俺は助かった。なんとか、命だけはな……」
「ホントの話なんですかい?」
「気持ちはわかる。だが、さっきの跳躍を見ただろ」
副頭目は黙り込んだ。
頭目は落ちていた磨き抜かれた銅貨を拾って、へっ、と笑った。
「金をずいぶん大切にしている奴らみたいだ。だが、思い切りもいい奴らだ。……追いかけてどうこうするには手間もかかる。今回はこれで勘弁してやろう」
ぴん、と銅貨を親指で弾き、掴んでポケットにしまった頭目は、追おうとする手下たちを止めるために大声を張り上げた。
山賊たちが倒木や岩などで造ったため見栄えは悪い。
だが、頑強そうだった。
「ッ! ゴアっ! 止まれぇえ! このバカ馬ぁあ!!」
テアールが必死の表情で思いっきり手綱を引く。
停止の指示を無視したゴアは、血走った目をしたまま全速力で駆けている。
にやにやと関所の前に陣取っていた山賊たちも、竜車のあまりの勢いに真っ青になって逃げ出し始めるほどだ。
「ダメ! このままじゃぶつかる!」
セーレアが叫んだ。
荷縄を握り締め、積み荷にしがみついた。
混乱の中、オゥバァはリノの様子に目を見張っていた。
リノの青い目が赤くなっていく――。
〈火の小神〉の加護の色ではなく、鮮血のような色だ。
リノは、ひらりとゴアの背に飛び乗った。
横座りして、ゴアの首筋に触れた。
赤い揺らめきは、リノの目から全身に広がっており、さらにリノの手を伝ってゴアの全身にも広がっていく……。
リノはゴアの首筋を優しく撫でながら問いかけた。
「大丈夫。行けるよね?」
先程まで恐慌状態のため足取りが乱れ、首を上下させた不安定な走り方で、関所にぶつかろうとしていたゴアが、まるで軍馬のように冷静な動きに変わった。
ゴアの目に力が蘇っていた。
一人と一匹が見据える先には、5メートルを超える関所がある。
「かつての大戦で、あなた達は主力だったのだから」
どこか悲しみに彩られたリノの独白と同時に、ゴアは高く高く跳躍した。
まるで飛び立つ瞬間の竜のように見えた。
竜車からは、ぽかんと口を開いた山賊たちが見下ろせた。
ゴアの飼い主のテアールも、大きな岩と倒木を飛び越えたゴアに驚いていた。
関所は、竜車では絶対に越えられない高さがあるはずだった。
時間が止まったようにさえ感じられる長い滞空時間。
あまりの激しい動きによって、リノのリボンがほどけた。
リノは、御者台から身を乗り出すように振り向き、赤いリボンを掴んだ。
リノはその瞬間、怯えたような顔をした山賊の一人と目が合った気がした。
◇ ◇ ◇
「親分! 今すぐ馬を――」
馬を取りに走ろうとした山賊の副頭目に、山賊の頭目は答えた。
「もういい。そこまでだ」
山賊の頭目は、まだリノがいた辺りを見つめていた。
竜車は、関所を越えて走り去っていく。
関所の門は開いたものの、追う者はいない。
誰もが先程の走竜の信じられない跳躍を見て、茫然としていたのだ。
「親分?」
副頭目が怪訝そうに問いかけた。
てっきりメンツを潰されたと怒鳴り散らしてすぐさま追いかけると思っていたのだ。
「分が悪い。……さっきの見たか?」
「え?」
「リボンがほどけた嬢ちゃんにはツノがあった。魔族だ」
「はぁ」
副頭目は「魔族など珍しくもない」という顔で頷く。
「本物の魔族だ」
頭目の声には畏怖の感情が混じっていた。
「本物の……魔族?」
副頭目は不思議そうに呟いた。
「おい」
頭目は、リノのいた辺りから副頭目に視線を移した。
「魔族ってのを誤解しちゃいないか? 今、人間領で見かけるのは、大戦で囚われた一兵卒の魔族、そいつらの子孫だ。とっくの昔に心も折られてるし、力も大してない。だが……」
頭目は、目の辺りの大きな傷をかいた。
「魔族領にいる魔族の中には、強い者も当然いる。……昔、魔族領に逃げ込んだ手下がいたんだ。山賊の稼ぎをたんまり持ち逃げしてな。俺は手下たちと共に追いかけた。……魔族っていやぁ、奴隷根性が骨身に染み付いた、ガリガリに痩せ細った連中ってイメージが強かったからな。恐怖なんかなかった」
だが、と頭目は続けた。
「その間違いに気づいたのは、俺が片目を失い、連れていた手下数人を惨殺された後だった。赤い目をして、全身に赤いオーラをまとった魔族によって、全員殺されたんだ。俺は大金を取り返すこともできず、ひたすら逃げた。その魔族は結局、魔族領を出てまで追いかける気はなかったんだろう。俺は助かった。なんとか、命だけはな……」
「ホントの話なんですかい?」
「気持ちはわかる。だが、さっきの跳躍を見ただろ」
副頭目は黙り込んだ。
頭目は落ちていた磨き抜かれた銅貨を拾って、へっ、と笑った。
「金をずいぶん大切にしている奴らみたいだ。だが、思い切りもいい奴らだ。……追いかけてどうこうするには手間もかかる。今回はこれで勘弁してやろう」
ぴん、と銅貨を親指で弾き、掴んでポケットにしまった頭目は、追おうとする手下たちを止めるために大声を張り上げた。
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