113 / 263
第Ⅳ章 天国へ至る迷宮
自称美少女冒険者たち 2
しおりを挟む
購入した馬車はもともと荷台が大きいものだったので、幌を取り外し、荷馬車風にするのにそれほど時間はかからなかった。
自らが使う日用品や食料は最小限。
代わりに、鬼のようにテアールが、田園都市ヨポーツクで買い叩いた食料を積み込みまくっていた。
「これは……やりすぎでしょう……」
セーレアがあごをがっくりと開けてつぶやく。
「セーレアにそのセリフを言わせるとは、――やるわね!」
妙な関心をしているオゥバァをよそに、リノは心配そうにテアールに尋ねた。
「これは欲張りすぎでは……」
荷物を積み込んでいる農夫たちに指示を出していたテアールは、リノの方を振り向いて大きく両腕を上げた。
「今、水産都市エレフィンでは、かつてないほどに食料品の価格が高騰しているんだ!」
セーレアがぼそっとオゥバァとリノに聞こえる程度の声で言った。
「金儲けのためってわけね」
オゥバァは「なるほど」と生真面目そうに頷いたが、リノの方は声も出ないほど唖然としていた。
実際、リノの身長よりも荷物を積み込んでいるのだ。二頭立ての馬車でも運ぶのは難しい量だろう。
「おい。ゴア! こっち来い! こら、バカ馬! 聞いてるのか!?」
身の丈2メートル以上ある巨大なトカゲが、地面に寝そべり、その辺の草を食べていた。
「バカ馬じゃなくて、バカ走竜とか、バカトカゲとかのがいいんじゃないかな」
オゥバァが見当違いなことを言っている中、テアールが走竜ゴアの轡を掴んで、無理やり立たせた。
「こいつ、命令は聞かないし、よくその辺の草を食べるし、休憩ばっかしたがるんだ」
リノは同情した様子で、ゴアに近づいた。
「仕方ありませんよ。こんな量の荷物を、きっと毎回運んでいるんでしょう? 休憩もしたがるようになりますよ」
リノのそんな同情心に引かれたのか、ゴアは爬虫類特有の怖い顔をしたまま、リノに顔を近づけた。
頬ずりするような仕草に見えた――。
竜車を引くのは走竜と呼ばれる魔獣だ。
「竜」という名がついているが、その実態はトカゲの魔獣。
見た目は翼のない竜のような姿をしているが、竜の吐息も使えないし、空も飛べないし、寿命も普通。
しかし、そのサイズはなかなか大きい。
荷馬車をつけられている走竜ゴアは、リノのお下げについた赤いリボンが気に入ったらしく、長い首を伸ばしてかじり出した。
「これはフウマにもらった物だからやめて!」
リノが頼み込んでいるが、草をもっさもっさと食む羊のような無の表情でゴアは赤いリボンをクチャクチャと噛んで、皺くちゃの涎まみれに変えていく。
「やめてって!」
リノが爪先立ちになり、なんとかゴアの首の根元辺りを平手で叩く。
ぺちん、と硬い鱗からいい音がした。
ぺちぺちと叩いているが、一向に気にしないゴア。
無の表情のまま。
涙目になってきたリノは、高速で平手を繰り出す。
べべべべべべ……!
と連続で叩いているが、ゴアは結局心ゆくまでリノのリボンを堪能したのだった。
そんな一行が竜車に乗って出発し、水産都市エレフィンへの近道である山間の道で、多勢の山賊に襲われたのはすぐのことだった。
自らが使う日用品や食料は最小限。
代わりに、鬼のようにテアールが、田園都市ヨポーツクで買い叩いた食料を積み込みまくっていた。
「これは……やりすぎでしょう……」
セーレアがあごをがっくりと開けてつぶやく。
「セーレアにそのセリフを言わせるとは、――やるわね!」
妙な関心をしているオゥバァをよそに、リノは心配そうにテアールに尋ねた。
「これは欲張りすぎでは……」
荷物を積み込んでいる農夫たちに指示を出していたテアールは、リノの方を振り向いて大きく両腕を上げた。
「今、水産都市エレフィンでは、かつてないほどに食料品の価格が高騰しているんだ!」
セーレアがぼそっとオゥバァとリノに聞こえる程度の声で言った。
「金儲けのためってわけね」
オゥバァは「なるほど」と生真面目そうに頷いたが、リノの方は声も出ないほど唖然としていた。
実際、リノの身長よりも荷物を積み込んでいるのだ。二頭立ての馬車でも運ぶのは難しい量だろう。
「おい。ゴア! こっち来い! こら、バカ馬! 聞いてるのか!?」
身の丈2メートル以上ある巨大なトカゲが、地面に寝そべり、その辺の草を食べていた。
「バカ馬じゃなくて、バカ走竜とか、バカトカゲとかのがいいんじゃないかな」
オゥバァが見当違いなことを言っている中、テアールが走竜ゴアの轡を掴んで、無理やり立たせた。
「こいつ、命令は聞かないし、よくその辺の草を食べるし、休憩ばっかしたがるんだ」
リノは同情した様子で、ゴアに近づいた。
「仕方ありませんよ。こんな量の荷物を、きっと毎回運んでいるんでしょう? 休憩もしたがるようになりますよ」
リノのそんな同情心に引かれたのか、ゴアは爬虫類特有の怖い顔をしたまま、リノに顔を近づけた。
頬ずりするような仕草に見えた――。
竜車を引くのは走竜と呼ばれる魔獣だ。
「竜」という名がついているが、その実態はトカゲの魔獣。
見た目は翼のない竜のような姿をしているが、竜の吐息も使えないし、空も飛べないし、寿命も普通。
しかし、そのサイズはなかなか大きい。
荷馬車をつけられている走竜ゴアは、リノのお下げについた赤いリボンが気に入ったらしく、長い首を伸ばしてかじり出した。
「これはフウマにもらった物だからやめて!」
リノが頼み込んでいるが、草をもっさもっさと食む羊のような無の表情でゴアは赤いリボンをクチャクチャと噛んで、皺くちゃの涎まみれに変えていく。
「やめてって!」
リノが爪先立ちになり、なんとかゴアの首の根元辺りを平手で叩く。
ぺちん、と硬い鱗からいい音がした。
ぺちぺちと叩いているが、一向に気にしないゴア。
無の表情のまま。
涙目になってきたリノは、高速で平手を繰り出す。
べべべべべべ……!
と連続で叩いているが、ゴアは結局心ゆくまでリノのリボンを堪能したのだった。
そんな一行が竜車に乗って出発し、水産都市エレフィンへの近道である山間の道で、多勢の山賊に襲われたのはすぐのことだった。
0
お気に入りに追加
4,196
あなたにおすすめの小説
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~
大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」
唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。
そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。
「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」
「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」
一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。
これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。
※小説家になろう様でも連載しております。
2021/02/12日、完結しました。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?
桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」
その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。
影響するステータスは『運』。
聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。
第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。
すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。
より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!
真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。
【簡単な流れ】
勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ
【原題】
『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』
迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜
サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。
父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。
そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。
彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。
その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。
「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」
そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。
これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。