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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮

自称美少女冒険者たち 1

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「えぇーっ!」

ダン、と商店のカウンターをセーレアは両手で叩いた。

「さっき払った代金って、馬車本体のものなの? 馬は? 馬いないと走らないじゃない!」

そんなの当たり前だろ、という顔をして、店主は店の奥に消えてしまった。

「まあ、仕方ないよね。欲張りすぎだよ。いくら野盗を倒したお金がある、って言っても、馬付きで買える金額じゃなかったでしょ」

「くっそぉー! それならもっと値切ってやればよかった!」

地団駄を踏むセーレアに、リノは尋ねた。

「あの……」

気遣うような素振りながら、深刻そうな表情も見せていた。

「……つまり、フウマを追うのは、この田園都市ヨポーツクまでが限界ということですか?」

「彼が本気で移動してたら、正直、馬があっても無理だろうけどね」

オゥバァは店からさっさと出ていき、徐々に高くなっていく朝日を眺めた。

「深夜から朝までの強行軍でここまで来たけど、足がないんじゃ……」

「あのー。お困りのようですね」

突然声をかけられ、店の外に出た一行は、その相手を見つめた。

ニコニコとした笑顔を浮かべた若い男だった。

「あなた方は、早朝早々に冒険者登録をした『美少女冒険者パーティー』の皆さんですよね」

「ええ。よく知ってるわね」

オゥバァが応じる。

「噂があっという間に街中に広まるほど、おもしろ……いえ……素晴らしいご活躍とふさわしいパーティー名でしたからね」

「それはありがと」

「それで、私、行商人をしているテアールと申すのですが、竜車を持っておりました」

「ほんとですか!?」

胡散臭そうに見ていたリノの顔が輝いて、テアールに身を乗り出す。

竜車というのは、文字通り竜と名のつく魔獣に引かせる馬車のようなもののことだ。

勇ましい名前ほどスピードは出ないが、それでも馬車とは比べ物にならない。

「私たち、ここまで利用した馬がもう走れなくなって困ってたんです! しっかりと馬を休ませればまた走れるようになるとは言われたんですけど、待てなくて!」

「それはよかった!」

両腕を大きく上げて、喜びを露わにするテアール。

満面の笑みを浮かべて、リノの手を取った。

「私も困ってたんです」

「ん?」

「リノちゃんリノちゃん」

セーレアがリノの肩をつんつんした。

「交代」

「はい?」

リノに代わって、テアールの前に出たセーレアは厳しい表情で質問した。

「さっき、『竜車を』って過去形で言ったわよね?」

「たははは……お気づきでしたか」

テアールは帽子を取ると、寝癖のようなものがついた頭をかいた。

たぶんろくに水浴びもしていないのだろう。かなり盛大に癖がついていた。

「ええ。走竜――ゴアって名前なんですけど……ゴアは無事だったんですが、残念ながら荷台の方が……」

「それって、要するに竜車じゃなくて、ただ走竜がいるだけって言わない?」

「ええ。ですから、竜車を持っていたと過去形で申し上げたんです。……しかし、ここにちょうど馬車の本体部分だけを持っている方がいらっしゃる! そして、私には走竜が! そしてお互いに水産都市フィルフィラまで急いでいる! 完璧じゃないですか! 力を合わせましょう!」

「合体させるのは馬車の方だけどね。……どうする、リノちゃん、オゥバァ?」

「私はどっちでもいいよ」

「私はぜひお願いしたいです! 急ぎますから」

「オッケー! それでね、行商人しか知らないし、使わないような山間の道があるんだ。君たち噂じゃ『天涯』に向かうんだろ? ちょうどまったく同じ目的地で最高だね! ああ、これを知ったのは君たちが早朝から冒険者ギルドで登録した際に話したためさ! 商人は情報も命だからね。あ、そうそう、これはたいしたことじゃないんだけど、その近道って、山賊がよく出るらしいんだ。野盗団を壊滅させるほどの腕前だし、期待してるよ。もちろん、これは商売抜きさ! 旅は道連れ世は情けってね!」

早口でまくし立てられて、目を白黒させたリノに、セーレアはそっと耳打ちした。

「要するに護衛代は払わない。たまたま私たちと目的地が一緒なだけだ、って言いたいわけ」

リノはその言葉に大きくため息をついた。
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