最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた

文字の大きさ
上 下
103 / 263
第Ⅳ章 天国へ至る迷宮

リリィ 3

しおりを挟む
「……やはり、動いたか」

落胆とともに、あぐらをかいていた俺は、汁を飲み干し、椀を地面に置いた。

走行中の馬車の中、3人の目を盗んで何かをすることはできない。
もし何かするつもりなら、昼食休憩中だろうとは思っていた。

予想していたにもかかわらず、落胆したことに驚いた。
思ったより気を許していたらしい。
一応、踏み込まないように注意していたつもりだったのだが……。

なんとなく、ただ悪いだけの少女ではないという気もする。

「先輩? どうかしたんですか?」

突然、食事を手早く済ませた俺を見て、イーサーは驚いた顔をしている。

「ちょっとした用事だ」

「ああ。トイレですか」

「それだったらいいんだけどな……」

イーサーが俺の返事に不思議そうにして何か言いかけたが、俺は遠ざかりつつある気配を追うことにした。



ひと仕事終えた少女は、目の覚めるような金髪のポニーテールをかき上げた。

その表情には、野盗団に怯えていた様子も、魔法兵であるということに引け目を感じていた様子もない。

確かな自信としたたかさを感じさせる表情は、まるで女スパイのようだった。

(まるで、じゃないか……おそらくスパイだ)

俺は、少女――リリィが伝書鳩で送った暗号文に目を落とした。

暗号化されているが、〈解読〉はシノビスキルにある。

その報告文を読みながら、森の中をリリィに向かってまっすぐ歩く。

リリィはこちらに気づいたらしく、息を呑む音が聞こえた。

「……フウマさん。どうしてこちらに?」

「念が入ってるな。伝書鳩を木に括りつけて用意した奴は、俺の知覚できる範囲にさえいない。ということは、買い付け隊の進路を予測し、あらかじめこの辺りで昼食をとると予想していたことになる。……まあ、もっとも買い付けに行ったのも1度や2度じゃないだろうから、予測することもそう難しくもない、か……」

「何をおっしゃってるんです?」

俺は小さな紙切れから顔を上げ、その紙切れをかざしてみせる。

「これに見覚えは?」

微笑んでいたリリィの表情が強張った。

「飛翔する鳩からどうやって、って顔だな。……良いことを教えてやる。『〈影走り〉飛燕』……それが、この紙切れを手に入れたスキルの名だ」

聞いたこともないスキルの名称に、リリィは反応もできない様子だ。

「簡単に言えば、影から影に移動する〈影走り〉の派生系の技だ。といっても、あるシノビが特別な使い方を編み出し、そう名付けただけだがな」

俺は木切れを2つ拾って、空に向かって同時に投げた。

「こうして自分が投げた物体に、もう一方の物体の影を落とす。そして、その影に〈影走り〉を使用して転移する。いわばこの使い方を『〈影走り〉飛燕』と呼んでるんだ。他にも『〈影走り〉奈落』なんかもある。これは非常に高い位置に相手を連れて〈影走り〉で転移し、相手だけを置き去りにして、自分は元の場所に戻るっていう使い方だ。当然相手は上空から叩き落とされることになる。……こんなふうに〈影走り〉と一口にいっても、いろいろな使い方ができるってわけだ。……前にも言ったけど、創意工夫で能力の幅を広げるってのはいいことだと思うよ。『〈影走り〉奈落』の生みの親、ナラクを尊敬してるんだ」

俺とリリィの間に、木切れが2つ落ちた。

「さて、この暗号文にある『王国史情報室』ってのはなんだ? ……アイリーンと何か関係があるのか?」

自分の声に悲しみが満ちるのがわかった。

リリィの緊張感が少し薄れた様子だった。

「……あなた、何者?」

「元勇者パーティーのメンバーで盗賊だ。……そして、今はそれとは別の存在としてここに立っている」

俺は普段は抑えている存在感や威圧感、殺気を放った。

証拠も押さえているし、飛ぶ鳥からあっさりと紙切れを奪い取るという能力も示した。わざわざ技まで説明した。

これで思いとどまってほしいと願った。
無駄な抵抗はしてほしくない。

「……話せるなら、話してほしい。王国史情報室と君の目的について」
「私は――――」



「やっ! フウマさん! それにリリィも! いったいどこにいたんですか? 心配して……」

走って近づいてきたラスクは、俺の顔色を見て足を止めた。

「悪い。ちょっとだけ用事ができた。……ここで待っていてほしい」
「待つ、ですか。……ですが買い付けは宗教都市ロウの生命線で……」
「頼む」

いつもは朗らかな顔中に、皺をいっぱい寄せて考え込んだラスクは、しばらくして力強く頷いた。

「わかりました。……でも、1日しか待てません。遅れたり、買い付ける物資が不足したりすれば、餓死者までは出ませんが、物資が予定通り入らなかったという事実によって、暴動が起こる可能性があるんです。……それくらいピリピリしているんです。もし俺たちが物資を持ち逃げしたとか、宗教都市ロウを見放したとか、そんな流言が広がれば、大惨事がまた巻き起こるかもしれない……」

「わかった。できる限り早く戻るよ。ありがとう」

駆け出した俺は、ラスクやリリィの視線を感じなくなると、〈影走り〉を使用した。
『〈影走り〉飛燕』で、あっさりと太い川を越えた俺は、何事もなかったかのようにひたすら走り続けた。

「……最難関ダンジョン『天涯』に、謎に満ちた『天国』、そして偽勇者パーティー……もうお腹いっぱいだってのに…………」

思わず愚痴が漏れる。
とはいえ――。

「これはアイリーンの置き土産みたいなものでもあるし……俺が解決するのが筋か――」
しおりを挟む
感想 146

あなたにおすすめの小説

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

職業・遊び人となったら追放されたけれど、追放先で覚醒し無双しちゃいました!

よっしぃ
ファンタジー
この物語は、通常1つの職業を選定する所を、一つ目で遊び人を選定してしまい何とか別の職業を、と思い3つとも遊び人を選定してしまったデルクが、成長して無双する話。 10歳を過ぎると皆教会へ赴き、自身の職業を選定してもらうが、デルク・コーネインはここでまさかの遊び人になってしまう。最高3つの職業を選べるが、その分成長速度が遅くなるも、2つ目を選定。 ここでも前代未聞の遊び人。止められるも3度目の正直で挑むも結果は遊び人。 同年代の連中は皆良い職業を選定してもらい、どんどん成長していく。 皆に馬鹿にされ、蔑まれ、馬鹿にされ、それでも何とかレベル上げを行うデルク。 こんな中2年ほど経って、12歳になった頃、1歳年下の11歳の1人の少女セシル・ヴァウテルスと出会う。凄い職業を得たが、成長が遅すぎると見捨てられた彼女。そんな2人がダンジョンで出会い、脱出不可能といわれているダンジョン下層からの脱出を、2人で成長していく事で不可能を可能にしていく。 そんな中2人を馬鹿にし、死地に追い込んだ同年代の連中や年上の冒険者は、中層への攻略を急ぐあまり、成長速度の遅い上位職を得たデルクの幼馴染の2人をダンジョンの大穴に突き落とし排除してしまう。 しかし奇跡的にもデルクはこの2人の命を救う事ができ、セシルを含めた4人で辛うじてダンジョンを脱出。 その後自分達をこんな所に追い込んだ連中と対峙する事になるが、ダンジョン下層で成長した4人にかなう冒険者はおらず、自らの愚かな行為に自滅してしまう。 そして、成長した遊び人の職業、実は成長すればどんな職業へもジョブチェンジできる最高の職業でした! 更に未だかつて同じ職業を3つ引いた人物がいなかったために、その結果がどうなるかわかっていなかった事もあり、その結果がとんでもない事になる。 これはのちに伝説となる4人を中心とする成長物語。 ダンジョン脱出までは辛抱の連続ですが、その後はざまぁな展開が待っています。

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

47歳のおじさんが異世界に召喚されたら不動明王に化身して感謝力で無双しまくっちゃう件!

のんたろう
ファンタジー
異世界マーラに召喚された凝流(しこる)は、 ハサンと名を変えて異世界で 聖騎士として生きることを決める。 ここでの世界では 感謝の力が有効と知る。 魔王スマターを倒せ! 不動明王へと化身せよ! 聖騎士ハサン伝説の伝承! 略称は「しなおじ」! 年内書籍化予定!

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。 「ヨシュア……てめえはクビだ」 ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。 「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。 危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。 一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。 彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。