最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた

文字の大きさ
上 下
100 / 263
第Ⅳ章 天国へ至る迷宮

意外な再会

しおりを挟む
白昼夢に怯えた俺は、かつて攻略した最難関ダンジョンに向かった。
宗教都市ロウの乗合馬車の出発まで時間を潰すためだ。
水産都市エレフィンまで1人で移動する気にはなれなかった。

最難関ダンジョンの最深部までの往復を全力で行ったので、白昼夢を見ることはなかった。
ただ、なぜか最深部に焼け焦げた財宝が転がっていて驚いたが。

崩れた城門から歪に差し込む朝日に照らされながら、俺は瓦礫の山となった乗合馬車の停留所で待っていた。
することもないので、ひび割れた足元の地面を見つめていると、ふいに声をかけられた。

「こんなとこで何してんだ? 組合長ギルドマスターから依頼を受けたって聞いたんだが……」

顔を上げると、困惑顔を浮かべた髭面の男が見えた。

この前、俺に足を引っ掛けようとしてきた冒険者に成り立てのゴロツキだった。

俺は親しげな雰囲気に混乱した。
少なくとも喧嘩を売られているわけではないだろう。

返事をせずにいると、男は名乗った。

「あぁ、そういやまだ名乗ってなかったな……イーサーだ。あと昨日は悪かった。最近冒険者になりたがる奴が多くて、ふるいにかける役割を担ってたんだ。ちなみにD級冒険者だよ、先輩」
「先輩……」

早朝の強風と白昼夢の孤独感に冷たくなっていた俺の心が、じぃんと温かくなった。

無精髭を生やした四十男が、なぜか愛おしくてたまらなくなった。

「それで、後輩はこんなところで何してるんだ?」
「質問で質問で返すなよ先輩。俺も依頼を受けたんだ。買い付け隊の護衛兼荷運びだ。知ってるのかどうか知らないが、今、宗教都市ロウにはやって来る商人がいない」
「ああ、そうらしいな」

以前、聞き込みしたらそのように聞いた。

「で、そこまで知ってる先輩なら、当然、乗合馬車が出てないってこともわかってるよな?」
「え?」
「今の宗教都市ロウには乗合馬車は来ない。すっ飛ばされてるんだ、この街だけはな」

考えてみれば当然のことだ。
無法地帯と言われている都市に、乗合馬車が来るわけがない。
気落ちした俺を気遣うように、イーサーが買い付け隊の馬車に乗ればいいと提案してきた。買い付け隊の隊長も許してくれるだろう、と。

俺は二つ返事でこれを受けた。1人で移動すると、どうしても白昼夢に苛まれてしまうのだ。

買い付け隊の集合地に向かうと、俺がイーサーに絡まれそうになった時に助けてくれたベテランのB級冒険者もいた。
イーサーの口ぶりや俺のことを伝える様子から、彼がこの隊のリーダーだとわかった。

「フウマさん! おはようございます」

どこか敬意の感じる声を発したベテランの声に、空箱や大きな袋などを積み込んでいた男たちが一斉にこちらを振り向いた。

女の姿がないのは、少しでも隊が襲われる確率を減らすためだろう。
女は略奪の対象になりやすいので、女連れだと、野盗団などに襲われる確率が高くなるのだ。

「ああ……お、おはよう」

当たり前のように挨拶されたが、こういう経験は実は初めてだった。

アレクサンダーが颯爽と肩で風を切り、その後にエリーゼとフェルノが続き、それに3歩遅れるようにして俺……という勇者パーティーを見て、俺に挨拶してくる怖いもの知らずなどいなかったのだ。

俺に挨拶するためにアレクサンダーの進行を妨げたなら、ぶん殴られるに違いなかった。

「そういえば自己紹介がまだでしたね、俺はラスク。この買い付け隊のリーダーをしています」

無精髭を生やした男が多い現在の宗教都市ロウの冒険者の中で、ラスクは珍しく綺麗に髭を剃っていた。
おそらく今朝も丁寧に髭を剃ったんだろう。髪型もどことなく整っている。

俺が顎の辺りを見ていることに気づいた男は、顎を撫でながら笑った。

「あぁ、髭を剃ってるのが気になりますか? 俺はこの隊のリーダーとして、行商人や商家との交渉を任されているんです。だから身だしなみには気をつけているんですよ」

なるほど、と俺は頷いた。
意外と好意的な冒険者の視線が集まる中、ラスクが俺に近寄ってきて耳元で囁いた。

「イーサーから聞きました。馬車に同乗することは構いませんが、水産都市エレフィンまではおそらく行かないと思います。買い付けの状況次第ですが、……よろしいですか?」
「ああ、問題ない」

途中まででも白昼夢を見ないなら十分ありがたい。

ただなぜ小声で話しかけられたのかわからず困惑していると、それに気づいたらしくラスクは説明してくれた。

「例の場所の情報は、あまり一般には広めたくないんです。ありもしない希望にすがりたくなる者たちが、この街にも溢れてますからね」

気休め程度ですが、とラスクは口にした。

確かに、人の口には戸が立てられないし、おそらく大部分の者たちは「天国に至る迷宮」について知っているはずだ。

それでも、何度も話題にすれば余計に興味を引いてしまうだろう。
ましてこの街の顔となった冒険者ギルド組合長が、この件を重く受け止めていて、俺に指名依頼を出したと知れたら、いろいろな意味でまずい。

(俺が元勇者パーティーのメンバーだってことも、組合長の依頼で『天涯』に向かうってことも、黙っている必要があるかもな……)

俺は気を引き締め直した。




◇◇◇あとがき◇◇◇

むさ苦しい展開は今回だけで、次回は可愛い女の子が登場する予定です。

「書籍版のウリ その2」を近況ボードにて公開しました。
ちなみに今回は分割せずに済みました。
しおりを挟む
感想 146

あなたにおすすめの小説

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

追放された回復術師は、なんでも『回復』できて万能でした

新緑あらた
ファンタジー
死闘の末、強敵の討伐クエストを達成した回復術師ヨシュアを待っていたのは、称賛の言葉ではなく、解雇通告だった。 「ヨシュア……てめえはクビだ」 ポーションを湯水のように使える最高位冒険者になった彼らは、今まで散々ポーションの代用品としてヨシュアを利用してきたのに、回復術師は不要だと考えて切り捨てることにしたのだ。 「ポーションの下位互換」とまで罵られて気落ちしていたヨシュアだったが、ブラックな労働をしいるあのパーティーから解放されて喜んでいる自分に気づく。 危機から救った辺境の地方領主の娘との出会いをきっかけに、彼の世界はどんどん広がっていく……。 一方、Sランク冒険者パーティーはクエストの未達成でどんどんランクを落としていく。 彼らは知らなかったのだ、ヨシュアが彼らの傷だけでなく、状態異常や武器の破損など、なんでも『回復』していたことを……。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。