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第Ⅳ章 天国へ至る迷宮
勇者パーティー加入依頼
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「早速だが、依頼内容を伝えよう」
冒険者ギルド3階にある組合長の執務室の中、俺とリノは、組合長である壮年の男と対面していた。
「勇者パーティーに入って欲しい」
重々しく放たれた男の言葉に、俺は目を丸くした。
あり得ない依頼内容に耳を疑い、組合長の顔をまじまじと見る。
アレクサンダーの事を思い出して胸に鈍い痛みが走る。
一緒にフェルノとエリーゼ、アイリーンのことなども思い出し、その痛みはどんどん酷くなっていく。
……8ヶ月以上経った今でも、彼らのことを思い出すと胸が張り裂けそうだ。
隣に座る幼い外見の少女――リノが、細かく震える俺の手をそっと握ってくれた。
なんとか落ち着いた俺は、平静を装って問いかけた。
「……勇者パーティーへの加入依頼……ですか?」
懐かしい響き。
1年ほど前にも、目の前の男の口から聞いたセリフだった。
だが、亡くなったアレクサンダー以外に勇者はいない。それは周知の事実だ。
アレクサンダーしかいなかったからこそ、あれほどちやほやされ、権力者たちと癒着できていたのだ。
組合長はまだ壮年といえる年齢で、撫でつけられたブラウンの髪には、白いものはほとんど交じっていない。
しかし、度重なる心労から疲れ切ってしまったのだろう。錯乱するほどに。
(……それも仕方ないことかもしれないな……)
痛ましい組合長から視線をそらす。
組合長の背後に見えるひび割れた窓ガラスの向こうに――
瓦礫の山となった民家や安宿に鞍替えした穴の空いた奴隷商館などが見えた。
そんな中、立ち上っている炊き出しの煙は、まるで8ヶ月前の大混乱の時に見た放火された犯行現場のようだ。
〈治癒神の御手教会〉の教義にある不信心者が増えた際に迎えるという終末の世界のような荒廃した光景だ。
(これがかつては、秩序と神聖さを体現していた宗教都市ロウの今の姿か……)
俺への指名依頼の内容が錯乱したとしか思えない内容だったのも、こんな状態の都市で長く生活しているせいだろう。
しかも聞くところによると、組合長は宗教都市ロウに残った唯一の統率された武力集団である冒険者組合を使って、治安維持活動や炊き出しなどを幅広く行なっているそうなのだ。
「その……組合長……冒険者たちを主導して街の治安を維持するのも大切ですが、たまにはゆっくりと休まれた方が……」
「まだまだ私は大丈夫だ。天国には行かないさ」
組合長が元冒険者らしい快活な笑みを浮かべたのを見て、ホッとしたのも束の間――
「だが君には行ってもらう必要があるかもしれないがね、天国に」
(……本当に大丈夫なんだろうか?)
組合長の体だけでなく、心の方も心配した。
◇◇◇あとがき◇◇◇
お久しぶりです。
第Ⅲ章が完結してから、早いもので8ヶ月ほどが過ぎました。
時間が経ったので、話の内容を忘れてしまった人もいるかと思いますが、続きを書くことにしました。
初めての大長編(というと笑われそうですが)、私としては17万文字を超える作品は初めてで、文字数・連載期間ともに今でも自己最高記録です。
以前にも書きましたが、ここまで書けたのは、半分は読んでくれた皆様のおかげだと思います。もう半分は「純粋に自分の好きな物語を書けた」ことも大きいです。
相変わらず賞狙いだとどうしても賞の傾向と対策を練ってしまいますし、読者の顔色を窺って話を書くとモチベーションが維持できなくなるようです。
なので今回も、「最難関ダンジョン」に限っては、書きたい話を書きます。
この度、無事書籍が刊行されそうなので、興味のある人は近況ボードをご覧ください。
書籍化のウリやポイントなどを紹介していこうと思っています。
よろしくお願いします。
冒険者ギルド3階にある組合長の執務室の中、俺とリノは、組合長である壮年の男と対面していた。
「勇者パーティーに入って欲しい」
重々しく放たれた男の言葉に、俺は目を丸くした。
あり得ない依頼内容に耳を疑い、組合長の顔をまじまじと見る。
アレクサンダーの事を思い出して胸に鈍い痛みが走る。
一緒にフェルノとエリーゼ、アイリーンのことなども思い出し、その痛みはどんどん酷くなっていく。
……8ヶ月以上経った今でも、彼らのことを思い出すと胸が張り裂けそうだ。
隣に座る幼い外見の少女――リノが、細かく震える俺の手をそっと握ってくれた。
なんとか落ち着いた俺は、平静を装って問いかけた。
「……勇者パーティーへの加入依頼……ですか?」
懐かしい響き。
1年ほど前にも、目の前の男の口から聞いたセリフだった。
だが、亡くなったアレクサンダー以外に勇者はいない。それは周知の事実だ。
アレクサンダーしかいなかったからこそ、あれほどちやほやされ、権力者たちと癒着できていたのだ。
組合長はまだ壮年といえる年齢で、撫でつけられたブラウンの髪には、白いものはほとんど交じっていない。
しかし、度重なる心労から疲れ切ってしまったのだろう。錯乱するほどに。
(……それも仕方ないことかもしれないな……)
痛ましい組合長から視線をそらす。
組合長の背後に見えるひび割れた窓ガラスの向こうに――
瓦礫の山となった民家や安宿に鞍替えした穴の空いた奴隷商館などが見えた。
そんな中、立ち上っている炊き出しの煙は、まるで8ヶ月前の大混乱の時に見た放火された犯行現場のようだ。
〈治癒神の御手教会〉の教義にある不信心者が増えた際に迎えるという終末の世界のような荒廃した光景だ。
(これがかつては、秩序と神聖さを体現していた宗教都市ロウの今の姿か……)
俺への指名依頼の内容が錯乱したとしか思えない内容だったのも、こんな状態の都市で長く生活しているせいだろう。
しかも聞くところによると、組合長は宗教都市ロウに残った唯一の統率された武力集団である冒険者組合を使って、治安維持活動や炊き出しなどを幅広く行なっているそうなのだ。
「その……組合長……冒険者たちを主導して街の治安を維持するのも大切ですが、たまにはゆっくりと休まれた方が……」
「まだまだ私は大丈夫だ。天国には行かないさ」
組合長が元冒険者らしい快活な笑みを浮かべたのを見て、ホッとしたのも束の間――
「だが君には行ってもらう必要があるかもしれないがね、天国に」
(……本当に大丈夫なんだろうか?)
組合長の体だけでなく、心の方も心配した。
◇◇◇あとがき◇◇◇
お久しぶりです。
第Ⅲ章が完結してから、早いもので8ヶ月ほどが過ぎました。
時間が経ったので、話の内容を忘れてしまった人もいるかと思いますが、続きを書くことにしました。
初めての大長編(というと笑われそうですが)、私としては17万文字を超える作品は初めてで、文字数・連載期間ともに今でも自己最高記録です。
以前にも書きましたが、ここまで書けたのは、半分は読んでくれた皆様のおかげだと思います。もう半分は「純粋に自分の好きな物語を書けた」ことも大きいです。
相変わらず賞狙いだとどうしても賞の傾向と対策を練ってしまいますし、読者の顔色を窺って話を書くとモチベーションが維持できなくなるようです。
なので今回も、「最難関ダンジョン」に限っては、書きたい話を書きます。
この度、無事書籍が刊行されそうなので、興味のある人は近況ボードをご覧ください。
書籍化のウリやポイントなどを紹介していこうと思っています。
よろしくお願いします。
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