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第Ⅲ章 王国の争い
元勇者パーティーの後日談その24――疲労して偶然見つける
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疲労、というものは、神から与えられた贈り物だと、最近セーレアは思うようになっていた。
自らが優れた青魔道士として、この世の摂理に反する治癒を行えるからこそ、そう思うのかもしれない。
「オゥバァ……? どう、リノちゃん、いそう?」
ここは〈天雷の塔〉――だった建造物の真下。相変わらず高いところが好きな彼女は、元は門柱だったらしき柱に立ち、手を水平に額に当てて周囲を見回している。あんなポーズ取らなくても、十分目はきくだろうに……。
「うーーん?」
ぐるぐるとその場で器用に回っている。かなり高い位置に立っているが、落ちそうには見えない。
「いそう……いる……いるはず……、でもいない」
意味不明なことをつぶやいている。
ヤバイ。
元々コミュニケーション能力がそれほど高くないし、相性だって良くないと思っている同行人が、おかしなことを言いだした。
「気配は……するのよねぇ……ずっと……。風に聞いても『いる』としか答えないし……。新しく吹く風さえ知ってるってことは、どこか箱みたいな中に隠れてるってこともないだろうし……」
風としゃべるとか、やばい。ほんとに大丈夫だろうか?
心配になるが、あまり心配し過ぎるとヘソを曲げそうだ。適度な距離感を意識しないと、近づきすぎた野良猫のように逃げる習性があることを学んでいた。
自らの思索に戻る。
疲労が贈り物などというのは、たいていの人はおかしいと思うだろう。
けど、彼女はもっとおかしなものをシノビノサト村で目にした。フウマだ。
彼は「疲労」という言葉を聞いて、「疲労……?」と不思議そうにキョトンとしたのだ。
彼にとって疲労とは、慣れないスキルを使った際の反動――それもごく一時的なものという認識だったのだ。
疲れがたまる、などということはないらしい。
肉体的な困難は、人が動くことを億劫にする。例えば、人を殺すのにだって、多少は体力がいるだろう。体力がいる行為には、多少ストッパーがかかる。面倒くさいと思う心理や腕を振り上げる労力など。
けど、彼にはそれがない。
思った瞬間――瞬時にまばたきほどの時間で終えることができるのだ。
疲労は人をイラつかせ、臆病にさせ、五感を鋭くさせ、邪念を抱かせる。
だからこそ、疲労の中動く、逃げ惑う者たちも戦う者たちも、皆、己に勝つ必要がある。
己の心に負け、体を動かすことをやめれば……そこで止まるのだ。
だがフウマはどうだろう。
彼は、克己心がない。
己の心に克つ必要などないのだ。1度も運動をしたことがないようなブヨブヨに膨らんだ脆弱な心を、精悍でしなやかな筋肉に覆われた肉体に持っているのかもしれない。
(……疲労しない男、か――)
何気なく空を仰いで、視界に何かかすめた。塔の最上部から身を乗り出すようにして、どこかを見つめている少女を。
「いたーーーっ!」
「きゃぁ!」
可愛らしい叫びを上げたオゥバァが草むらに頭から落ちて行った。亡き母が「猿も木から落ちる」と不思議なことを言っていたが、たぶんこういうことを言うのだろうと、初めて気づいた。
猿扱いされたとは知らないだろうが、オゥバァは整った顔を真っ赤にしてこっちに近づいてきた。
「リノちゃんがいたわ!」
リノのいる方を指さしてみせた。
自らが優れた青魔道士として、この世の摂理に反する治癒を行えるからこそ、そう思うのかもしれない。
「オゥバァ……? どう、リノちゃん、いそう?」
ここは〈天雷の塔〉――だった建造物の真下。相変わらず高いところが好きな彼女は、元は門柱だったらしき柱に立ち、手を水平に額に当てて周囲を見回している。あんなポーズ取らなくても、十分目はきくだろうに……。
「うーーん?」
ぐるぐるとその場で器用に回っている。かなり高い位置に立っているが、落ちそうには見えない。
「いそう……いる……いるはず……、でもいない」
意味不明なことをつぶやいている。
ヤバイ。
元々コミュニケーション能力がそれほど高くないし、相性だって良くないと思っている同行人が、おかしなことを言いだした。
「気配は……するのよねぇ……ずっと……。風に聞いても『いる』としか答えないし……。新しく吹く風さえ知ってるってことは、どこか箱みたいな中に隠れてるってこともないだろうし……」
風としゃべるとか、やばい。ほんとに大丈夫だろうか?
心配になるが、あまり心配し過ぎるとヘソを曲げそうだ。適度な距離感を意識しないと、近づきすぎた野良猫のように逃げる習性があることを学んでいた。
自らの思索に戻る。
疲労が贈り物などというのは、たいていの人はおかしいと思うだろう。
けど、彼女はもっとおかしなものをシノビノサト村で目にした。フウマだ。
彼は「疲労」という言葉を聞いて、「疲労……?」と不思議そうにキョトンとしたのだ。
彼にとって疲労とは、慣れないスキルを使った際の反動――それもごく一時的なものという認識だったのだ。
疲れがたまる、などということはないらしい。
肉体的な困難は、人が動くことを億劫にする。例えば、人を殺すのにだって、多少は体力がいるだろう。体力がいる行為には、多少ストッパーがかかる。面倒くさいと思う心理や腕を振り上げる労力など。
けど、彼にはそれがない。
思った瞬間――瞬時にまばたきほどの時間で終えることができるのだ。
疲労は人をイラつかせ、臆病にさせ、五感を鋭くさせ、邪念を抱かせる。
だからこそ、疲労の中動く、逃げ惑う者たちも戦う者たちも、皆、己に勝つ必要がある。
己の心に負け、体を動かすことをやめれば……そこで止まるのだ。
だがフウマはどうだろう。
彼は、克己心がない。
己の心に克つ必要などないのだ。1度も運動をしたことがないようなブヨブヨに膨らんだ脆弱な心を、精悍でしなやかな筋肉に覆われた肉体に持っているのかもしれない。
(……疲労しない男、か――)
何気なく空を仰いで、視界に何かかすめた。塔の最上部から身を乗り出すようにして、どこかを見つめている少女を。
「いたーーーっ!」
「きゃぁ!」
可愛らしい叫びを上げたオゥバァが草むらに頭から落ちて行った。亡き母が「猿も木から落ちる」と不思議なことを言っていたが、たぶんこういうことを言うのだろうと、初めて気づいた。
猿扱いされたとは知らないだろうが、オゥバァは整った顔を真っ赤にしてこっちに近づいてきた。
「リノちゃんがいたわ!」
リノのいる方を指さしてみせた。
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