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第Ⅲ章 王国の争い
元勇者パーティーの後日談その23――黒と赤の世界を歩く真っ白な男
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焦げ、煤け、焼け爛れた黒。
自らの流血、敵の返り血の赤。
黒と赤に染まる世界の中、身綺麗な、青年と少年の中間くらいの年齢の男が歩いていた。
始め、アイリーン率いられている一団は、アイリーンが親しげに抱擁した相手に対し、内面では敵意と訝しさを抱いていた。
だが、今は、赤魔道士のように赤い衣になった魔道士たちも、美しかった鎧を乾いた血で塗装した騎士たちも、恐怖を抱いていた。
宗教都市ロウを襲ったドラゴンよりも、戦時下と呼べる状況をのんきに歩いているフウマと呼ばれる男が恐ろしい。
彼の両手は、――綺麗だ。
手の平はもちろん、指先も爪も綺麗なままだった。
対して、己達はどうだ? と行軍中の騎士の1人は自問する。崩れた高い家屋と立ち上る煙、どこからか聞こえてくる叫び声……。そんな中を歩く騎士たちの手は血みどろまみれだった。
まつげにこびりついた、血が、重い。
1度まぶたを閉じると、下まぶたと上まぶたがくっつき、2度開かないのではないかという埒もない恐怖心さえ浮かぶ。
だが実際に閉じて、そのまま視界が闇に染まったら――と考えると、とてもではないが試しにつぶってみる気にはならない。
開かぬまぶたを血みどろまみれの手で擦る勇気などなかった。
だから、歩く。
目を見開き――地獄のような光景の中を……。自分の中に湧き起こる恐怖や不安と戦いながら。
だが――。
「……それでさ、この前、露天風呂を大きく改装したんだ。アレクサンダー達との戦いで壊されちゃったし、ほとんど修理も終わってたんだけどさ」
フウマの言葉に、アイリーンは沈痛な面持ちを浮かべたまま答えた。
「それは……素敵ね、フウマ」
「うん。アイリーンは風呂好きだっただろ? だからさ……」
怖い……怖い怖い怖い怖い!
いやだ! いやだ! いやだ! いやだ! いやだ!
やっと騎士たちや魔道士たちは、伝播するように己の指揮官の恐ろしさに気づいた。
普通に話している。
落ち葉を踏みしめるように、ぽきぽきと鳴る誰かの指を踏み。
木漏れ日に目を細めるかのように、死体の焼けるにおい混じりの煙に目を細める。
怖い! 怖い! 怖い! 怖い! 怖い! 怖い! 怖い! 怖い!
(なんだ……これは? 何を俺たちは指揮官にしてきたんだ?)
ここにいるのは、薄幸の姫君などという幻想ではない。
かといって、宮中に掃いて捨てるほどいる権力欲に憑りつけらた俗物でもない。
ただ1人身綺麗な男は、気にした風もなく、その何かとこの黒と赤の世界を歩いていた。白い手のままで…………。
自らの流血、敵の返り血の赤。
黒と赤に染まる世界の中、身綺麗な、青年と少年の中間くらいの年齢の男が歩いていた。
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まつげにこびりついた、血が、重い。
1度まぶたを閉じると、下まぶたと上まぶたがくっつき、2度開かないのではないかという埒もない恐怖心さえ浮かぶ。
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開かぬまぶたを血みどろまみれの手で擦る勇気などなかった。
だから、歩く。
目を見開き――地獄のような光景の中を……。自分の中に湧き起こる恐怖や不安と戦いながら。
だが――。
「……それでさ、この前、露天風呂を大きく改装したんだ。アレクサンダー達との戦いで壊されちゃったし、ほとんど修理も終わってたんだけどさ」
フウマの言葉に、アイリーンは沈痛な面持ちを浮かべたまま答えた。
「それは……素敵ね、フウマ」
「うん。アイリーンは風呂好きだっただろ? だからさ……」
怖い……怖い怖い怖い怖い!
いやだ! いやだ! いやだ! いやだ! いやだ!
やっと騎士たちや魔道士たちは、伝播するように己の指揮官の恐ろしさに気づいた。
普通に話している。
落ち葉を踏みしめるように、ぽきぽきと鳴る誰かの指を踏み。
木漏れ日に目を細めるかのように、死体の焼けるにおい混じりの煙に目を細める。
怖い! 怖い! 怖い! 怖い! 怖い! 怖い! 怖い! 怖い!
(なんだ……これは? 何を俺たちは指揮官にしてきたんだ?)
ここにいるのは、薄幸の姫君などという幻想ではない。
かといって、宮中に掃いて捨てるほどいる権力欲に憑りつけらた俗物でもない。
ただ1人身綺麗な男は、気にした風もなく、その何かとこの黒と赤の世界を歩いていた。白い手のままで…………。
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