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第Ⅲ章 王国の争い
元勇者パーティーの後日談その21――勇者再誕
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〈天雷の塔〉のてっぺんから足元を見下ろしていたリノは、忘れられないアレクサンダーの声を聞き、思わず目を向けた。
立ち上る火の手も、うごめく人々も、かなり小さい。だがリノは、フウマにも内緒にしていたが、かなり視力が良かった。ついでにいえば、腕力にも優れている。あのシノビノサト村にいるキメラでさえ、1体であれば自力で屠れるくらいに。
すべてを話していないのは信じていないから、というよりも、これまで生きてきた辛酸の多い人生ゆえの無意識の判断だった。
リノの視線の先には、およそ30人前後の武力集団同士が激突していた。建物の陰に隠れてよく見えないところもあるので、もしかしたらもっといるかもしれない。
アレクサンダーが率いているのは、血まみれの装備を身につけた赤い軍団。
陽光を浴び白っぽく見える甲冑を身につけた騎士団の白い軍団。
赤と白の対決。
アレクサンダーは後方で指揮を執り、軍団を次々に分散していく。
集団で戦うことや真正面から戦うことに慣れきっていた騎士団は、最終的に10に分裂したアレクサンダーの部隊の変則的な動きに対応できないでいる。
ここは貧民窟に近い。彼らにとっては慣れ親しんだ街だ。王都から派遣された騎士たちに地の利はない。
アレクサンダー自身も当然狙われるが、果敢に戦いを挑んでいた。
「……ちっ。てめぇらみてぇに命令されるがまま動く人形はタチが悪いぜ」
アレクサンダーの声に、リノは思わず同意を覚えた。
せっかく燃える家屋から助け出し、路上に並べて、水を飲まし、傷の手当てをした老若男女の傷病者たち。
彼らをカボチャ畑のカボチャを踏みつけるように、重い甲冑をまとった騎士達が踏みしめていく。当然頭部を踏まれれば、踏まれたカボチャのごとくなる。
そこには、愛も正義も何もないように見えた。
一方、アレクサンダーの方には、正義も愛も、確かにあった。愛は己に対する自己愛であり、正義は自分勝手で功利主義的な側面が強かったが。
アレクサンダーの部隊は、非常に抵抗したが、正規軍は強かった。獣人の爪が立たない鎧に、刃のかけた武器をへし折るほどの名剣。彼らの練度も武装も、明らかに一般的な騎士とは違っていたのだ。
結局、アレクサンダーは十数人の騎士団に、たった一人で取り囲まれることになった。
周囲にいるのは、虫の息となった獣人たちのみ。まともに動ける味方はいなくなったのだ。
「投降するならば、命だけは助けてやろう。元勇者よ」
「ちっ。名前もわからねぇ三下相手に、俺様が追い詰められるとはな」
「これでも、王宮で会ったことがあるのだがね」
兜を外したその騎士団の隊長と思しき者をアレクサンダーは見つめた。
「……そうか。そういやいたな。……確か、亡くなった第一王女に義理立てしてたとかいうヘンクツジジイが」
「ジジイというほどの年でもないし、第一王女殿下は生きてらっしゃったがな。――で、返事は?」
「断る!」
アレクサンダーは満身創痍に見える血まみれの肉体で俊敏に動き、相手に突っ込もうとした――
だが騎士団の隊長は元より、両脇に控えていた剣を構えていた騎士も、そんな捨て身の動きを予測していた。
「うぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
かつてない怒号を上げ、アレクサンダーは走る。
己の手足がちぎれても構わん、とばかりに。
彼の体が、淡く黄金色に輝いた。
「俺は、勇者じゃねぇ! もう勇者でなくなった!! だが――俺は俺様だぁぁぁああああああ!!」
アレクサンダーの動きは、騎士達の予想をはるかに上回っていた。
宙を舞う騎士の隊長の首。それは驚愕に目を見開かれていた。
「燃えろ!」
アレクサンダーの一声で宙を舞う生首が爆散した。
頭上から降り注ぐ脳味噌や頭蓋骨の欠片、肉片などに思わず目をつぶったり、手をかざして避けようとしたりした騎士たちも次々に斬り殺していく。
動くたびに、動きが良くなっていく。
「……フウマの技……破られた」
遥か上からその様子を見ていた元魔王は、勇者の誕生を確かに感じた。
時間経過によって減衰する呪いや毒の類だったのかもしれない。
だが違う。とリノは直感した。
「……たぶん、自らの意志の力で……破った」
自らにかけられた強力な呪縛を、窮地にて、己の意志一つでそれを打ち破ってみせた。
それを他の人がなんと呼ぶかリノは知らない。
だが彼女なら、そんな存在を――。
「勇者……」
復活した勇者アレクサンダーが血まみれの剣を握りしめたまま、胸を張り、天に向かって吠えた。
立ち上る火の手も、うごめく人々も、かなり小さい。だがリノは、フウマにも内緒にしていたが、かなり視力が良かった。ついでにいえば、腕力にも優れている。あのシノビノサト村にいるキメラでさえ、1体であれば自力で屠れるくらいに。
すべてを話していないのは信じていないから、というよりも、これまで生きてきた辛酸の多い人生ゆえの無意識の判断だった。
リノの視線の先には、およそ30人前後の武力集団同士が激突していた。建物の陰に隠れてよく見えないところもあるので、もしかしたらもっといるかもしれない。
アレクサンダーが率いているのは、血まみれの装備を身につけた赤い軍団。
陽光を浴び白っぽく見える甲冑を身につけた騎士団の白い軍団。
赤と白の対決。
アレクサンダーは後方で指揮を執り、軍団を次々に分散していく。
集団で戦うことや真正面から戦うことに慣れきっていた騎士団は、最終的に10に分裂したアレクサンダーの部隊の変則的な動きに対応できないでいる。
ここは貧民窟に近い。彼らにとっては慣れ親しんだ街だ。王都から派遣された騎士たちに地の利はない。
アレクサンダー自身も当然狙われるが、果敢に戦いを挑んでいた。
「……ちっ。てめぇらみてぇに命令されるがまま動く人形はタチが悪いぜ」
アレクサンダーの声に、リノは思わず同意を覚えた。
せっかく燃える家屋から助け出し、路上に並べて、水を飲まし、傷の手当てをした老若男女の傷病者たち。
彼らをカボチャ畑のカボチャを踏みつけるように、重い甲冑をまとった騎士達が踏みしめていく。当然頭部を踏まれれば、踏まれたカボチャのごとくなる。
そこには、愛も正義も何もないように見えた。
一方、アレクサンダーの方には、正義も愛も、確かにあった。愛は己に対する自己愛であり、正義は自分勝手で功利主義的な側面が強かったが。
アレクサンダーの部隊は、非常に抵抗したが、正規軍は強かった。獣人の爪が立たない鎧に、刃のかけた武器をへし折るほどの名剣。彼らの練度も武装も、明らかに一般的な騎士とは違っていたのだ。
結局、アレクサンダーは十数人の騎士団に、たった一人で取り囲まれることになった。
周囲にいるのは、虫の息となった獣人たちのみ。まともに動ける味方はいなくなったのだ。
「投降するならば、命だけは助けてやろう。元勇者よ」
「ちっ。名前もわからねぇ三下相手に、俺様が追い詰められるとはな」
「これでも、王宮で会ったことがあるのだがね」
兜を外したその騎士団の隊長と思しき者をアレクサンダーは見つめた。
「……そうか。そういやいたな。……確か、亡くなった第一王女に義理立てしてたとかいうヘンクツジジイが」
「ジジイというほどの年でもないし、第一王女殿下は生きてらっしゃったがな。――で、返事は?」
「断る!」
アレクサンダーは満身創痍に見える血まみれの肉体で俊敏に動き、相手に突っ込もうとした――
だが騎士団の隊長は元より、両脇に控えていた剣を構えていた騎士も、そんな捨て身の動きを予測していた。
「うぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
かつてない怒号を上げ、アレクサンダーは走る。
己の手足がちぎれても構わん、とばかりに。
彼の体が、淡く黄金色に輝いた。
「俺は、勇者じゃねぇ! もう勇者でなくなった!! だが――俺は俺様だぁぁぁああああああ!!」
アレクサンダーの動きは、騎士達の予想をはるかに上回っていた。
宙を舞う騎士の隊長の首。それは驚愕に目を見開かれていた。
「燃えろ!」
アレクサンダーの一声で宙を舞う生首が爆散した。
頭上から降り注ぐ脳味噌や頭蓋骨の欠片、肉片などに思わず目をつぶったり、手をかざして避けようとしたりした騎士たちも次々に斬り殺していく。
動くたびに、動きが良くなっていく。
「……フウマの技……破られた」
遥か上からその様子を見ていた元魔王は、勇者の誕生を確かに感じた。
時間経過によって減衰する呪いや毒の類だったのかもしれない。
だが違う。とリノは直感した。
「……たぶん、自らの意志の力で……破った」
自らにかけられた強力な呪縛を、窮地にて、己の意志一つでそれを打ち破ってみせた。
それを他の人がなんと呼ぶかリノは知らない。
だが彼女なら、そんな存在を――。
「勇者……」
復活した勇者アレクサンダーが血まみれの剣を握りしめたまま、胸を張り、天に向かって吠えた。
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