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第Ⅲ章 王国の争い

元勇者パーティーの後日談その18――重い剣と重い足

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アレクサンダーは己の意志で生きているという自負がある。

生きるということは選択の連続だ。

目の前で、敵対した武装集団が立てこもる家屋を人質ごと焼き殺している最中なのも、その選択のひとつ。

アレクサンダーは、右腕に感じる剣が、ずっしりと重いことを実感していた。

単純に、腕力が衰えたせいもある。ボロ屋に引きこもり、ろくに体を動かさないせいでなまったのだ。

それだけでなく、勇者としての力を失ったことも大きい。

――そして何より――

(……これほど、人間、エルフ、魔族、獣人……を殺したのはさすがの俺も初めてだな……)

剣が重い。

物理的にだ。

血のりがびっしりとつき、錆びて欠けているボロい剣の刃に、肉片がへばりついている。元の重量より三割くらいは重くなっていることだろう。

体も似たようなものだ。
どしゃ降りの雨に降られれば、服が重くなるように、血肉の雨が降り注げば、自然、体は重くなる。

足を動かせば、ぬちゃぁ、と嫌な感触が足裏に広がる。
最初はさらさらだった血液も、時間の経過とともに粘着質なものに変わっていた。

アレクサンダーは重い足を動かし、重い剣を振り上げ、顔に大火傷を負って転がり出てきた獣人の頭をかち割った。

本来なら、それはアレクサンダーの仕事ではない。あくまで彼は指揮官だ。

だが当の強面の獣人が同じ獣人だからか、それとも全身に大火傷を負って死にかけていることに同情したからか、持っている斧でとどめを刺せずにいたのだ。

「さっさと殺せよ」

「……うっす。……その通りっすよねぇ……ここまで火傷を負ったらもう助からない。苦しまないように殺してやるのがせめてもの情けってもんで――」

「バカか、オマエ?」

心底呆れたという態度で、獣人の顔を睨みつける。よく見ると、顔や体に火傷の跡がある。古傷だ。

とすると、先程殺せなかったのは、同じような経験をしたゆえの同情心からだったらしい。

「お前は、さっきなんでそこに立ってた?」

「……は?」

「は、じゃねぇよ!」

アレクサンダーは思いっきり獣人の足を蹴りつける。

脛を蹴られた獣人は、痛みに引きつった顔をしたまま意味がわからないらしく、しょげて耳が垂れていた。

「お前は、ここから出てくる奴を殺すために立ってたわけだろ?」

「……そりゃ……もちろ――」

「だったら殺せよ」

言下に断言する。

「お前が、そこに立ったのはお前の意志だ。お前にそこに立つように俺は命じたが、拒否もしなかった。むしろ率先して立ったよな?」

「そりゃチームの仲間になったか――」

「じゃあ、そのチームってのに、お前が加わるように俺は頼んだか? 頼んできたのはお前だろ? お前の方から、こっちの集団が強そうだと思って、武器ぶら下げて仲間に加わったんだろ?」

「…………」

「……ちっ。……俺が一番むかつくのは、てめぇみたいな奴だ」

「次は――」

「人生に次なんてあるかよ」

動かなかった獣人を蹴り飛ばす。

新たに焼け出された敵の獣人と遭遇し、その先程口論していた獣人は噛み殺された。鋭い牙が、喉に突き立ち、血を吹き出して唖然とした表情のままくずおれていく。




◇◇◇あとがき◇◇◇

ここからちょこちょこ視点が変わります。代わりに、更新頻度が上がります。
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