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第Ⅲ章 王国の争い
元勇者パーティーの後日談その15――招かれざる者たち 2
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「チャンス……なのか?」
第二王女派の残党を引き連れた元王国騎士団副団長は、幾筋もの太い煙が上がり、数えきれないほどの細い煙が立ち上る戦場さながらの様相を呈してきた宗教都市ロウを近くの森から見やっていた。
以前は、最難関ダンジョンがあり、訪れる冒険者が何人もいた場所だ。
だが今は攻略されて財宝も持ち出されたとあって、あえて危険のあるこんな場所に布陣するものなどいなかった。
(そう――、今ここにいる我らは隠れているのでも潜んでいるのでもない。布陣しているのだ。戦略的な見地から攻勢に出るタイミングを見計らっているだけなのだ)
そう副団長は思う。
(……団長……)
亡くなった騎士団長は決していい男ではなかった。二枚目でなかったというわけではない。確かに、顔立ちもよく、地位もあったため、ご婦人方の受けは良かった。
だからといって、……部下の男たちにまで優しかったかというと……決してそうではない。
こうして思い返してみても、八つ当たり染みた拳の痛みくらいしか思い浮かばない。
だが、あえて副団長は言う。
「第一王女派に討たれた騎士団長のかたきを討つぞ」
「おおっ!」
野太い返事が森に上がる。
ここにいる騎士団の数は百数十といったところだ。
あのまま王都に残っても、ろくな目にあわないと感じ脱出してきた者たちだった。
運が良くても閑職に回されるだろう。運が悪ければ、秘密裏に殺されかねない。
特に副団長は己の地位の高さゆえに、命の危険があることを承知していた。
(実際のところ、騎士団長が誰に討たれたのかなどわからんのだがな……)
正直、亡き第二王女の夫君――元勇者アレクサンダーこそがもっとも疑わしいと思えた。
(そもそも時期的に考えておかしいしな。騎士団長が死んだのは第一王女派が勢いを取り戻すよりずいぶん前だ)
話が合わない。
そんなことはわかっていた。
副団長だけでなく、他の団員達も。
だが――。
だからこそ止まれない。
間違いに気づいていないものであれば、間違いに気づけば止まる。止まることもできる。
だが、はなっから間違えていると知っている者は、間違えを指摘されようが、どうしようが、もう止まることはない。
(火中に飛び込んでも得るものはないかもしれないが……だがしかし……。もう糧食もないしな。最低でも火事場泥棒の真似事くらいはしなくてはならん。まぁ、考えようによっては、あの宗教都市ロウは、我々に敵対する派閥――新王女派だ。敵拠点を襲うと思えばいいだろう)
さて。
と副団長は考えた。騎士には大義名分が必要なのだ。正しい行いをしているという。どういえば火事場泥棒を進んでするだろうか……。後日後ろ指を指されないような完璧な回答が欲しい。
……うむ。
「……これより、このままでは無駄に消失してしまうであろう物資――食料、高級品、宝石などの類を我々で『保護』するぞ」
うむ。いい出来だ。
……中位竜は目を覚ました。
己が強者であると、はっきりと自覚しているような悠然とした瞬きだった。
彼女がいるのは、宗教都市ロウから離れた山奥。山の頂上の木々に隠れていた。
度重なる〈天雷〉の威力を目の当たりとし、仲間達の屍のおかげで、アレの攻撃範囲の限界を見極めていた。
そのギリギリにいた。
逃げるためではない。
逃げるならギリギリではなく、もっと遠くに逃げる。
鎮魂のためではない。
鎮魂のためなら、その目にギラギラとした闘争心は宿らない。
「……時が来たか……人間どもめ……」
愚かさのつけを支払わせてやる、と中位竜は息巻いた。
自らより遥かに強い上位竜が滅ぼされ、下位竜が何やらとんでもない目に遭わされているらしいと知りつつも、彼女はひたすらチャンスをうかがっていた。
(人間は愚かだ。……いずれモンスターを襲い、殺すのに飽きて、自分たちで殺し合うだろうと思っていたが、予想より遥かに早かったな)
ドラゴンの寿命は長い。
かつてその寿命ゆえに知識に優れ、その知識ゆえに疎まれもした。
だがその寿命こそが、彼女が武器としたものだった。
「我が子の恨み、夫の無念、……晴らさせてもらおう」
彼女は、太古からある巨大なダンジョン付近に人間の武装集団が潜伏していることに気づいていた。
向こうは気づいてない。
なにせ彼女は、ここに隠れてもう百年ほどになるのだ。
全身は苔むし、竜の鱗は砂ぼこりや土をかぶって、ただの緑のある岩肌のようにしか見えなかった。
第二王女派の残党を引き連れた元王国騎士団副団長は、幾筋もの太い煙が上がり、数えきれないほどの細い煙が立ち上る戦場さながらの様相を呈してきた宗教都市ロウを近くの森から見やっていた。
以前は、最難関ダンジョンがあり、訪れる冒険者が何人もいた場所だ。
だが今は攻略されて財宝も持ち出されたとあって、あえて危険のあるこんな場所に布陣するものなどいなかった。
(そう――、今ここにいる我らは隠れているのでも潜んでいるのでもない。布陣しているのだ。戦略的な見地から攻勢に出るタイミングを見計らっているだけなのだ)
そう副団長は思う。
(……団長……)
亡くなった騎士団長は決していい男ではなかった。二枚目でなかったというわけではない。確かに、顔立ちもよく、地位もあったため、ご婦人方の受けは良かった。
だからといって、……部下の男たちにまで優しかったかというと……決してそうではない。
こうして思い返してみても、八つ当たり染みた拳の痛みくらいしか思い浮かばない。
だが、あえて副団長は言う。
「第一王女派に討たれた騎士団長のかたきを討つぞ」
「おおっ!」
野太い返事が森に上がる。
ここにいる騎士団の数は百数十といったところだ。
あのまま王都に残っても、ろくな目にあわないと感じ脱出してきた者たちだった。
運が良くても閑職に回されるだろう。運が悪ければ、秘密裏に殺されかねない。
特に副団長は己の地位の高さゆえに、命の危険があることを承知していた。
(実際のところ、騎士団長が誰に討たれたのかなどわからんのだがな……)
正直、亡き第二王女の夫君――元勇者アレクサンダーこそがもっとも疑わしいと思えた。
(そもそも時期的に考えておかしいしな。騎士団長が死んだのは第一王女派が勢いを取り戻すよりずいぶん前だ)
話が合わない。
そんなことはわかっていた。
副団長だけでなく、他の団員達も。
だが――。
だからこそ止まれない。
間違いに気づいていないものであれば、間違いに気づけば止まる。止まることもできる。
だが、はなっから間違えていると知っている者は、間違えを指摘されようが、どうしようが、もう止まることはない。
(火中に飛び込んでも得るものはないかもしれないが……だがしかし……。もう糧食もないしな。最低でも火事場泥棒の真似事くらいはしなくてはならん。まぁ、考えようによっては、あの宗教都市ロウは、我々に敵対する派閥――新王女派だ。敵拠点を襲うと思えばいいだろう)
さて。
と副団長は考えた。騎士には大義名分が必要なのだ。正しい行いをしているという。どういえば火事場泥棒を進んでするだろうか……。後日後ろ指を指されないような完璧な回答が欲しい。
……うむ。
「……これより、このままでは無駄に消失してしまうであろう物資――食料、高級品、宝石などの類を我々で『保護』するぞ」
うむ。いい出来だ。
……中位竜は目を覚ました。
己が強者であると、はっきりと自覚しているような悠然とした瞬きだった。
彼女がいるのは、宗教都市ロウから離れた山奥。山の頂上の木々に隠れていた。
度重なる〈天雷〉の威力を目の当たりとし、仲間達の屍のおかげで、アレの攻撃範囲の限界を見極めていた。
そのギリギリにいた。
逃げるためではない。
逃げるならギリギリではなく、もっと遠くに逃げる。
鎮魂のためではない。
鎮魂のためなら、その目にギラギラとした闘争心は宿らない。
「……時が来たか……人間どもめ……」
愚かさのつけを支払わせてやる、と中位竜は息巻いた。
自らより遥かに強い上位竜が滅ぼされ、下位竜が何やらとんでもない目に遭わされているらしいと知りつつも、彼女はひたすらチャンスをうかがっていた。
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だがその寿命こそが、彼女が武器としたものだった。
「我が子の恨み、夫の無念、……晴らさせてもらおう」
彼女は、太古からある巨大なダンジョン付近に人間の武装集団が潜伏していることに気づいていた。
向こうは気づいてない。
なにせ彼女は、ここに隠れてもう百年ほどになるのだ。
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