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第Ⅲ章 王国の争い

元勇者パーティーの後日談その13――エリーゼの本気

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「予定通り、ですか……」

地下下水道にある支柱の1本を切り倒すのを命じたエリーゼは独り言ちた。

獣人の屈強な男たちが、太い石の柱に斧を入れている。四人がかりで前後左右からだ。斧の音が響くと同時に、天井からぱらぱらと砂が落ちてくる。

この支柱を切り倒すのは危険な任務だが、街や正規軍に甚大な被害を与えられるため、鬱憤と怒りの溜まっていた男たちに迷いはない。彼らの首には奴隷の証である首輪こそないものの、首輪の跡がしっかりと刻まれていた。あるものはそこだけ毛が縮れ、あるものはそこだけ赤く腫れている。

エリーゼは半狂乱になって命さえも恐れず斧を振る男たちから目をそらし、頭上に目を向けた。

地下下水道――。

一般には、ただの汚い排水の流れる場所というイメージだ。

だが実際は、もしもの際の宗教都市ロウの幹部が逃げ出すための地下通路の役目も持っていた。これは知る者は当然幹部しかいない――ついこの前までは。

その非常に重要な極秘の情報を、エリーゼは惜しげもなく、エルフや魔族、獣人の配下にばらまいた。それも彼女が彼らの信頼を大きく得るのに役立った。

今も地図を壁にあて、ランプで照らしながら、さまざまな種族が顔を寄せ合って、計画を見直している。

エリーゼの立てた計画は、非常に綿密なものだった。

第一に、その幹部が逃げるために使える都市外に続く下水道の通路を崩落させて潰すこと。

――それでまず逃げ場をなくす。

第二に、主要な道路も地盤沈下させるように支柱を壊して回ったのだ。馬車はもちろん、歩行さえも困難なように。

無論、裏道もあれば、建物の中だって移動できる。
だがそうした狭い場所は、しっかりと火の手が回るようにしていた。

(……フフフフ…………)

エリーゼは、なぜか人を殺そうとすると凄まじく頭の回転が早くなることに気づいていた。まるで人というか、生命全体を呪い殺したいという衝動が、全身から突き上げてくるかのように。

今では、まるで頭上の地面を這い回る生物たちの動きさえつぶさに感じられるような気さえした。

第三に行っているのは、その「囲い」をどんどん小さくしていくことだ。

暴徒、派閥の違う血まみれになった各組織、一般の奴隷や貧民窟の住人たち。

彼らをどんどん、どんどん、一か所に集めていく。

(……さて、最後にどうなるかしら……?)

最大の不安要素であるフウマのことは、それほど心配していない。

エリーゼは、彼のことを彼以上によく知る存在から、どういう妨害工作が有効か聞かされていた。

(例えば、あえて殺さず、火の手だけを上げさせるとかね)

彼ならば、彼ならばきっと涙ぐみながらも、救いの手を差し伸べるだろう。その手が例え届かないと直感していようとも。

「……さまざまな種族、さまざまな派閥……それらが集まって、この苦境を手と手を取り合って乗り越えられるというのなら、……それはそれで――いいえ、それこそが唯一のわたくしの敗北でしょう」

エリーゼの大胆な作戦の大前提は「生物は絶対に分かり合えない」というものだ。

もしこのピンチを逆にきっかけとして、種族を越え、組織の利害を越えて手を取り合うようなことがあれば、こんな騒ぎなど鎮圧される。

だが実際は、そうはならない。

血まみれの軍隊同士――しかもついさっきまで暴徒を殺していたような者たちが、戦場さながらの殺気立った場所で、いきなり遭遇するのだ。
回れ右して来た方向を戻るなら、まだマシというレベル。

「手を取り合うなど……ククク……手を取り合うなど…………フフフフフ……」

あまりのあり得なさに、エリーゼは笑いをこらえることができない。

皮肉なことに、もし世界中の人々が、フウマのようであれば、この争いなどあっという間に鎮圧される。だが実際は違う。

支柱が崩れた。

それからしばらく間があり、ゴゴゴゴゴッという不気味な振動と音と共に、支柱が支えていた辺りの天井がゆっくりと陥没してくる――そう見えた瞬間、

ドシャァァァァ……、と。
土砂と敷石と肉塊が落ちてくる。ばらばらと燃えた木片が落ちてきたのは、建物が崩れてきたためだろう。

さすがにここまで生き残った獣人たちだった。
支柱が壊れた瞬間に飛びのくように逃げたため、その崩落に巻き込まれたものはいない。

その土砂と敷石、木片の残骸の山がかすかにうごめく。おそらく地面に落下して、固い石や木にもみくちゃにされたものの生き残った者がいたらしい。だが所詮たかが数人だろう。

「さぁ、次に行きますよ。時間がありません」

いくら炎と崩落によって包囲網を作ってあるとはいえ、永遠にそんなものは続かない。燃えるものがなくなれば、炎の勢いも弱まる。
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