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第Ⅲ章 王国の争い
元勇者パーティーの後日談その14――招かれざる者たち
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「……はぁ、なんでいきなり底が抜けるのよ、底が」
青い髪についた土埃を払い、立ち上がる。
自らの癒しの力がなかったら、歩けなくなっていたところだ。
「だいじょうぶー?」
薄情な知り合いの声が聞こえる。
さらさらと砂ぼこりが落ちてくる天井のいびつな円を見上げると、建物のてっぺんに立った銀髪のダークエルフが見えた。
「オゥバァ、あなたねぇ、せめて助けようとするくらいは……」
「ここだけじゃないみたい……」
綺麗に切り揃えられた銀髪の前髪に水平にした手を当て、遠くを見回すダークエルフ。
彼女のすらりとした足は、倒壊寸前の建物の上にあっても、まったく微動だにしない。
「何が、ここだけじゃない、なのよ」
「地面の底が抜けてるのは」
「は、や、く、それ言いなさいよ! ずっと1人だけ上を移動してたんだから、気づいてたでしょ!?」
「いいえ。……うーむ」
オゥバァは考え込んでいる。
見た目は14、5の小娘だが、エルフやダークエルフは外見の年はあまり取らない。
思慮深いところもある彼女は、しばらく悩んだ後、「失敗したかなー……」とつぶやいた。
「何が?」
ぺっぺっ、と上を向いたせいで口に入った砂を吐き出し、水魔法で作り出した水球で口をゆすぐ。
ごろごろ喉を鳴らしていると、
「これ……人工的ね。しかもすっごい意図的。……この貧民窟……ううん、宗教都市ロウごと陥落させようとしてるみたい」
「ごぼほぉ……っ!」
あんまりなセリフに、うがい中の水を吹き出してしまった。
「ハァッ?」
セーレアの脳裏には、神代マジックアイテム並みと呼ばれる白亜の2重の城壁が浮かぶ。度重なるドラゴンやワイバーンの襲撃を受けても、〈天雷〉があったとはいえ、ほとんど傷らしい傷が見当たらない壁なのだ。
「……え? 上位竜でさえ撃退した大都市よ? 王城並みの防衛力があるとか謳われる」
「でも最大の武器を失った上に、外部から横方向じゃなくて、内部から縦方向っていうあり得ない攻撃に連続してさらされているもの」
セーレアは改めて自分の落ちた場所を見回す。
地下下水道のはずだが、予想より遥かに綺麗だった。天井は高く、通路も広い。ただ狭い横道が何本もあり、迷路のようになっていた。
(迷路のよう、じゃなくて、本当に迷路としての機能もあるのかも……)
「うわぁ……」
セーレアが思わず口から呻きを漏らすと、うんうんとダークエルフが頷く声が聞こえてきた。
「だから言ったじゃない。変な気を起こして、フウマやリノを助けようなんてしないで、高みの見物でもしてればいいって」
セーレアの望みは、もうほとんど叶った。
母のかたきも、なし崩し的に討てたし、癒しの力を持つとはいえ、見ず知らずの他人を危険だらけの中助けて回りたいと思うほどお人好しでもなかった。
母を失い、最も権力からほど遠い青魔道士にになってからというもの、周囲の人間は冷たかった。冒険者組合での扱いも悪く、悪徳奴隷商人に捕まって売り払われそうになったこともある。
無論、そういう時は、丁重に攻撃魔法で撃退、もしくは瞬殺したが。
青魔道士が攻撃魔法を完全に使いこなすなどとは夢にも思わない連中は、あっさりと死んでくれた。
「……とりあえず、リノちゃんだけは見つけましょう」
あの少女のことは、なぜか放っておけなかった。
フウマは、……うん。べつにいいだろう。放っておいても。心の痛みに転げまわっているかもしれないが、死にはしない。
リノもいるのなら、しっかりと慰めているだろう。彼女はああ見えて頼りになるのだ。
「行くわ」
「地下はパス」
「でも、私、地上に戻れないもの」
「引っ張るってのも、難しいかしら……。ロープ探して来ようか?」
「そう? お願い」
セーレアはそう答えてから、オゥバァがいなくなると、自分の落ちてきた残骸の山を見回す。
かすかに生きている者がいた。人ではない。獣人が1人に魔族が2人。
「はぁ……オゥバァに見られたら、きっと無駄に魔力を使うなー、って文句言われるわね」
達観した知人のダークエルフを思い浮かべ、溜息を漏らしながらも、手の平に魔力を集めて癒しの輝きを放ち、傷を負った獣人と魔族の元に、つまらなそうな足取りで近づいた。
◇◇◇あとがき◇◇◇
そろそろ終盤に向けてプロットを整理しようと思います。(といっても相変わらず一部の伏線はぶん投げる予定ですが)
おそらくここからは2日に1度の更新になります。
実はこの「後日談」は、最終話から書いています。
昔大好きな作家さんがインタビューで「最終話から書く方法」というのを語っていて、当時の私は「そんなの絶対ムリ! というか書けない……!」と絶句してました。
まぁ、実際試してみると、面白い効果がありました。もし何か文章を書く機会があったら、結論から書くのを試してみると良いかもしれません。
では、残り短い間ですが、お付き合い下さい。
青い髪についた土埃を払い、立ち上がる。
自らの癒しの力がなかったら、歩けなくなっていたところだ。
「だいじょうぶー?」
薄情な知り合いの声が聞こえる。
さらさらと砂ぼこりが落ちてくる天井のいびつな円を見上げると、建物のてっぺんに立った銀髪のダークエルフが見えた。
「オゥバァ、あなたねぇ、せめて助けようとするくらいは……」
「ここだけじゃないみたい……」
綺麗に切り揃えられた銀髪の前髪に水平にした手を当て、遠くを見回すダークエルフ。
彼女のすらりとした足は、倒壊寸前の建物の上にあっても、まったく微動だにしない。
「何が、ここだけじゃない、なのよ」
「地面の底が抜けてるのは」
「は、や、く、それ言いなさいよ! ずっと1人だけ上を移動してたんだから、気づいてたでしょ!?」
「いいえ。……うーむ」
オゥバァは考え込んでいる。
見た目は14、5の小娘だが、エルフやダークエルフは外見の年はあまり取らない。
思慮深いところもある彼女は、しばらく悩んだ後、「失敗したかなー……」とつぶやいた。
「何が?」
ぺっぺっ、と上を向いたせいで口に入った砂を吐き出し、水魔法で作り出した水球で口をゆすぐ。
ごろごろ喉を鳴らしていると、
「これ……人工的ね。しかもすっごい意図的。……この貧民窟……ううん、宗教都市ロウごと陥落させようとしてるみたい」
「ごぼほぉ……っ!」
あんまりなセリフに、うがい中の水を吹き出してしまった。
「ハァッ?」
セーレアの脳裏には、神代マジックアイテム並みと呼ばれる白亜の2重の城壁が浮かぶ。度重なるドラゴンやワイバーンの襲撃を受けても、〈天雷〉があったとはいえ、ほとんど傷らしい傷が見当たらない壁なのだ。
「……え? 上位竜でさえ撃退した大都市よ? 王城並みの防衛力があるとか謳われる」
「でも最大の武器を失った上に、外部から横方向じゃなくて、内部から縦方向っていうあり得ない攻撃に連続してさらされているもの」
セーレアは改めて自分の落ちた場所を見回す。
地下下水道のはずだが、予想より遥かに綺麗だった。天井は高く、通路も広い。ただ狭い横道が何本もあり、迷路のようになっていた。
(迷路のよう、じゃなくて、本当に迷路としての機能もあるのかも……)
「うわぁ……」
セーレアが思わず口から呻きを漏らすと、うんうんとダークエルフが頷く声が聞こえてきた。
「だから言ったじゃない。変な気を起こして、フウマやリノを助けようなんてしないで、高みの見物でもしてればいいって」
セーレアの望みは、もうほとんど叶った。
母のかたきも、なし崩し的に討てたし、癒しの力を持つとはいえ、見ず知らずの他人を危険だらけの中助けて回りたいと思うほどお人好しでもなかった。
母を失い、最も権力からほど遠い青魔道士にになってからというもの、周囲の人間は冷たかった。冒険者組合での扱いも悪く、悪徳奴隷商人に捕まって売り払われそうになったこともある。
無論、そういう時は、丁重に攻撃魔法で撃退、もしくは瞬殺したが。
青魔道士が攻撃魔法を完全に使いこなすなどとは夢にも思わない連中は、あっさりと死んでくれた。
「……とりあえず、リノちゃんだけは見つけましょう」
あの少女のことは、なぜか放っておけなかった。
フウマは、……うん。べつにいいだろう。放っておいても。心の痛みに転げまわっているかもしれないが、死にはしない。
リノもいるのなら、しっかりと慰めているだろう。彼女はああ見えて頼りになるのだ。
「行くわ」
「地下はパス」
「でも、私、地上に戻れないもの」
「引っ張るってのも、難しいかしら……。ロープ探して来ようか?」
「そう? お願い」
セーレアはそう答えてから、オゥバァがいなくなると、自分の落ちてきた残骸の山を見回す。
かすかに生きている者がいた。人ではない。獣人が1人に魔族が2人。
「はぁ……オゥバァに見られたら、きっと無駄に魔力を使うなー、って文句言われるわね」
達観した知人のダークエルフを思い浮かべ、溜息を漏らしながらも、手の平に魔力を集めて癒しの輝きを放ち、傷を負った獣人と魔族の元に、つまらなそうな足取りで近づいた。
◇◇◇あとがき◇◇◇
そろそろ終盤に向けてプロットを整理しようと思います。(といっても相変わらず一部の伏線はぶん投げる予定ですが)
おそらくここからは2日に1度の更新になります。
実はこの「後日談」は、最終話から書いています。
昔大好きな作家さんがインタビューで「最終話から書く方法」というのを語っていて、当時の私は「そんなの絶対ムリ! というか書けない……!」と絶句してました。
まぁ、実際試してみると、面白い効果がありました。もし何か文章を書く機会があったら、結論から書くのを試してみると良いかもしれません。
では、残り短い間ですが、お付き合い下さい。
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