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第Ⅲ章 王国の争い

元勇者パーティーの後日談その9――アレクサンダーの思い

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「……………………ハァ」

フェルノが出て行った。

口から出るのは溜息だけだ。

頭んなかは空っぽ。

「……………………………………………………ハァ」

部屋の隅にいて背中を壁に預けているだけで安心する。

冒険者だった頃は闇を見通す目を当たり前のように持ってた。
それが今じゃ貧民窟の夜の闇さえ恐れる。

こうして暴動が起きても何も行動を起こせない。

リーダーとして指示する相手もいない。

かつて俺を持ち上げてたギルド職員たちも、第二王女の臣下だった連中も、誰も俺様のことを見向きしない。

「俺様は…………――強い。限りなく無敵にちか」

木造の建築物が、火事か暴徒の破壊活動かによって、倒壊する凄まじい音が尻と背中を通じて、振動と騒音として伝わってきた。

「――ひっ」

――誰だ。

さっきの悲鳴は誰だ。

情けない悲鳴を上げやがって。

(……俺だ。俺様の悲鳴だ……)

「あぁ…………うぅう…………ぁあぁ…………」

溜息ばかり吐くのをやめたと思ったら、今度は意味のない呻き声ばかりが延々と出てくる。

意味のある言葉は出ないし、頭の中は空転するばかりだ。何も建設的な手が浮かばない。

部下がいれば。
捨て駒がいれば。
命令できる対象がいれば。

「……そうだ。俺様は、生まれついての王者なのだ。だからこそ下々の者がするような生活を営むのが不得手なのだ」

パァッと心の中が明るくなる。

俺はついに真理に到達したに違いない。

「そうか。なるほどな。……かつてエリーゼやフェルノ、メイドたちにかしずかれているいた頃は何もかも上手くいった。そして上手くいかなくなったのも、そのためだったんだ。……なんだ、単純なことだ。真理とは単純明快なものなのだな」

このことを誰かに伝えたい。

――俺様にかしずけ、と。



ふらふらとした足取りでボロ小屋から出る薄汚れた男。意味もなくニタニタとした笑みが無精髭に半ば隠れた唇に浮かび、目だけが爛々と輝いている。

安酒で酔っ払った浮浪者か、心を完全に病んだ貧民窟の住人か。どっちにしろこの貧民窟ではありふれた存在だった。

「――俺様は特別な存在だ! 王者だッ!!」

さぁひざまずけ! と怒鳴る男の前を、何十人もの民衆が逃げ惑い、駆け抜けていった。

アレクサンダーの背後で、ぎりぎり建っていたボロ小屋が隣の建物が崩れるのに巻き込まれて、土埃を上げてぺしゃんこになった。
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