最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた

文字の大きさ
上 下
45 / 263
第Ⅱ章 赤魔道士組合の悪夢

保護する者と保護される者

しおりを挟む
赤い灯のように見えるものに、俺は手を伸ばし掴む。

「シィヤァ――ッ!」

赤く輝く双眸をした蛇がこちらを睨みつけて、牙をむく。ぼたぼたと落ちる紫色の液体は毒だ。

「よくジッチャンに連れられて、この毒を小瓶に集めたっけな……」

麻酔効果もあるため少量なら薬のような使い方もできる。シノビノサト村にはこれがある程度保管されている。

「おっ! 胴体の山羊もなかなか肥えていて美味そうだな」

蛇の尾が掴まれると、胴体の中央から生えている山羊が角で攻撃しようとしてくるが、そんなもの当たるはずもない。

「そもそも胴体に首から上だけ生えてるってどうなんだ……? 戦力的に見て」

毎回思うが、尻尾の毒蛇と頭部のライオンはともかく、胴体の山羊は戦闘力なさすぎだろう。

「お、おいっ! そこの少年……大丈夫なのか?」

暗闇の中、明かりもない森の奥から男の声がかかる。身長は低いが、髭もじゃの顔をしていた。そんな顔が4つも茂みの上に浮かぶように並んでいると、このキメラよりも不気味だった。

「ああ、大丈夫……」

返事をした瞬間を隙と思ったのか、こっちを窺っていた頭部のライオンがたてがみを揺らして食らいつこうとしてきた。

左の拳で側頭部を殴ると、簡単に気絶する。

慌てふためくように掴まれた毒蛇が右手の中で暴れるが問題ない。胴体の山羊は驚愕に目を見開いて、逃げるように首を後ろにそらしている。だが、この導きの光リーディング・ライトというキメラは、頭部のライオンが四足の主導権を握っているらしく、頭部が気絶すると足が動かなくなるのだ。

カクン、と四つの膝をついたキメラを見て、茂みがから出てきた俺の胸くらいの身長の男たちが口々に叫んだ。

「まさか……!」
「樹海の支配者を倒したのか!」

(樹海の支配者、って……)

導きの光リーディング・ライトは、毒蛇の尻尾は薬の調達源だし、胴体の山羊は美味だ。頭部のライオンだって皮もたてがみも衣類や敷物などに利用されている。

導きの光リーディング・ライトの放牧は、シノビノサト村の昔からの主要産業だ。ついでにいえば外部の者がシノビノサト村に気づかれないようにする狙いもある。

まぁ、もっとも導きの光リーディング・ライトは放牧されているつもりはないので、先程のように襲いかかってくるのだが。

(しかし珍しいな……。この辺りで導きの光リーディング・ライトが襲ってくるなんて……)

シノビノサト村付近にいる導きの光リーディング・ライトは、村に近づいて来ない。近づけば捕獲され、解体されると知っているからだ。

(……この男たちを追って、ある意味深追いしすぎたってことなのかもな……)

たまに調子に乗った導きの光リーディング・ライトが村にまで入り込もうとして、その辺にいる村人の夕飯の食卓に載せられることになる。

「助かった! ありがとう!」

「ありがとう! ありがとう!」と何度も全員が頭を下げる。
顔だけ見れば、自分より一回りか二回り年上だ。そんな者たちが土下座せんばかりに頭を下げるので落ち着かない気分になる。

「当たり前のことをしたまでだよ」

そう、当たり前のことだ。日常的ともいえる作業だった。

「困っている人を助けるのは当たり前ということか! 強いだけでなく素晴らしい心掛けじゃな!」

「えっ? ……えぇ……はぁ……まぁ」

なんとも歯切れの悪い返事しかできない。
なにせ当たり前といったのは、導きの光リーディング・ライトを捕獲するのは当たり前という意味だったのだが、物凄く良いように誤解されていた。

「わしらはドワーフ。わしの名前はトント。こっちがロント、そっちがリント、あっちがルントじゃ」

「そ、そうなんだ……」

(やばい。顔も名前も似てて、見分けがつきそうにない……)

「俺はフウマ。この先にある村で生活している」

「村!? こんなところに!?」

「あぁ……まぁ……」

滅多に、というか、初めてこの森の中で外部の者に会ったせいで迂闊なことを言ってしまった。

「先程これを落としたようだが、良いのか?」

髭を三つ編みにしたおしゃれな男が尋ねてきた。

差し伸ばしてきた手の平には、手のひらにすっぽり収まるくらいの赤黒い塊があった。

「変わった鉱石じゃな。わしらでも見たことがない」

「……だろうね」

神代マジックアイテムの核になっていた物だ。そりゃぁそこらに埋まっていたり、落ちていたりはしないだろう。

俺は毒蛇と山羊にもとどめを刺し、キメラを村に運んだ。意外なことにこの小柄なドワーフという種族は力持ちらしく、キメラを運ぶのをしっかりと手伝ってくれた。



「ほう。そうですか。村を襲われて……」

村の外れで、雷電と紫電というドラゴンの子供に見下ろされながら事情を説明したドワーフたちは全員がちょっと青い顔をしていた。

話を聞いているのはジッチャンだ。

皺くちゃで古木のような細い手足をしているが、はっきり言って俺と同じくらい強い。若い頃どれほど強かったのか想像もできないほどだ。

長い白い眉毛に隠れるような瞳で、じっとドワーフたちを見つめている。

それからこっちを見た。

(……ん?)

何か意味ありげな視線だったから、声をかけられるのかと思ったが、そんなことはなかった。

ジッチャンは口を開いた。

「では、どうでしょう……この村に一緒に住んでみては……」

「えっ?」

思わずそう口にしたのは俺。

村にはいくつも掟があり、そのひとつにみだりに外部の者を住まわせないというものがあった。

なにせ行くところがない、というか、指名手配されている奴隷たちやリノ、セーレアなんかでさえ、ジッチャンは村に置くのは初めはよしとしなかったのだ。

この村の周囲の環境は過酷だ。正直な話、導きの光リーディング・ライト相手に逃げ惑うしかないようなか弱い存在では、すぐに死ぬことになりかねない。

「ジッチャン……。俺がドワーフたちの村を確認してきて、ついでに彼らの仲間が生きていないかも調べて来ようか?」

「フウマ君に同感です。長老様! 私もここに新たな住人を増やすべきではないと思います! ……亜人ではありますけど……」

声を上げたのはアイリーンだ。

整った顔立ちや金髪碧眼というパーツは勇者アレクサンダーにどこか似ている。だがそれ以上に、気品が満ち溢れていた。

彼女は、俺の知らない事情でこの村にやってきて、ジッチャンの家――つまり俺の家に居候することになった。ガキの頃からの付き合いで、彼女の性格はよく知っている。

ジッチャンに面と向かって反論するのはかなり珍しかった。人間嫌いだから、人間に似た種族に対して忌避感を覚えているせいもだろうのだろうが。アイリーンが打ち解けている人間は、俺たちこの村の住人だけだ。

「……成長の時だ……。

「今はまだ、早すぎるのでは?」

「……激動が、来る」

ジッチャンとアイリーンは、短く、それでいて重々しく言葉を交わした。

アイリーンは、時々、村を率いるジッチャンと同じような威厳を漂わせる時がある。

初めて会ったほんの一桁の年齢の時から、その顔立ちには、何か犯しがたい威厳や覚悟のようなものが見え隠れしていた。

だからこそフラフラとしがちな俺は、そんな彼女に惹かれたのかもしれない。

アイリーンはジッチャンが折れないと悟ると、むっとした様子だったが口をつぐんだ。
なぜかこっちを軽く睨みつけてきた。
たぶんジッチャンなりに、俺のことを考えて、このドワーフの滞在を許すことにしたのだろう。

実際ドワーフ達は俺のことを心底尊敬しているようだった。
過酷な環境で生きる存在だからこそ、強さに対する純粋な憧れが強いのだろう。

城壁やマジックアイテムなどで守られた都市の人間にも、この村の強い村人たちにも向けられたことのないくすぐったい視線だった。

「俺が、彼らを案内するよ」

「うむ」

ジッチャンは重々しく頷いた。
それは簡単な言葉であっても絶対の決定。
アイリーンも他のみんなも口を挟めない。

こうしてドワーフたちは、竜たちなどに続き、俺の預かりとなった。
しおりを挟む
感想 146

あなたにおすすめの小説

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。