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金無し、家無し、力無し
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燃え上がる屋敷から飛び出した二人は暗闇の中を駆け抜け、近くの湖畔へと辿り着いた。
エリスはいつも大きなリュックサックを背負っている。
「何とか持ち出せのは愛用の鍋とフライパンに裁縫道具と小麦粉、調味料ですね」
月明かりでリュックの中身を確認するエリス。まだ、周囲に魔獣が居るかも知れないのに、彼女はとても落ち着いていた。横で倒れ居てるのは久しぶりに全力疾走して、息が切れて、死にそうになっているマリクだった。
「主様・・・幾ら病弱だからと言っても、もう少し鍛えた方が良いですね」
「ぜぇ・・ぜぇ・・僕もそう思うよ」
マリクは何とか身体を起こす。
「それで・・・屋敷も失ってしまい・・・どうやら、主様は魔族に狙われているようですが、これからどうするおつもりですか?」
エリスの問い掛けにまだ、肩で息をしているマリクは考える。
「うーん・・・なんで、魔族は僕を狙っているのか・・・」
「そうですね。不可解ですね。すでに王国も無くなり、爵位も無いし、領地も無い主様を狙う理由がありません」
「まぁ・・・そうだね」
エリスにはっきりと言われて、少し凹むマリク。だが、そんな彼を他所にエリスは大剣に砥石を掛ける。
「朝になったら、街へ行きましょう。このままでは野垂れ死にます」
「野垂れ死に・・・そうだな。解った」
朝が訪れ、二人は街へと向かった。
街は魔族の襲撃を受けて、ボロボロであったが、生き残った人々によって復興が始まっていた。
この街は当然、マリクの家の領地であったが、病弱で殆ど、屋敷から出る事の無かった末弟のマリクを知る者は街には居なかった。だから、誰もマリクの事を気に掛ける事など無かった。
因みに事前にエリスからはシュナイダー家の事はあまり知られない方が良いと言われていたので、何となくあまり顔が見えないようにフードを被っていた。
「まずは仕事と住む場所を探さねばなりません」
エリスは色々と街中を見渡しながら、探すが、復興中の街で人を雇うような余裕のある者は居なかった。
夕刻が迫る。
仕事どころか、家も見付からない。
二人は途方に暮れながら、食事をする為に酒場に向かう。
酒場『エクレアの店』
ここは魔族に荒らされずに残った数少ない建物だ。
扉を開くと、陽気な笑い声と酒の匂いがした。
荒くれ者が集まる場所だった。
エリスも入った事は無かったが、まともに飯を食べれる場所はここぐらいしか残っていないのだ。
「あら?初めて見る顔ね」
店の若い女が二人に声を掛けて来た。エリスは相変わらずの細い目の仏頂面で彼女を見る。
「えぇ・・・食事は出来ますか?」
「今日のお勧めは鹿肉のスープよ」
「じゃあ、それとパンとで」
「そっちのお客さんも?」
マリクは頷いた。
料理が運ばれ、果実酒と共に食す二人。
「あんた達、どこから来たんだい?お嬢ちゃんはメイドっぽいけど」
店の女に尋ねられ、エリスが答える。
「はい。私はメイドです。こちらは主ですが、現在、住む場所と仕事が無いので困っています」
「仕事?そうねぇ。今の状況でメイドを雇えるような金持ちも居ないしね」
「そうですか・・・」
「あんた、槍なんて、持ってるけど、使えるの?」
「心得はあります。魔獣程度なら倒せますが」
「魔獣程度って・・・凄いじゃない。あんた、冒険者をやりなよ」
「冒険者?」
「あぁ、平和な時は荒くれ者の仕事だったからねぇ。用心棒とか、そんな仕事ばかりだったけど、今は魔獣討伐や魔族が集めた宝物を奪ったりしているよ」
「そんな事が仕事になるんですか?」
「なるさ。街道とかに出る魔獣を討伐して貰えれば、旅人や商人が行き交う事も出来るし、何より、魔獣の持つ魔石は高値で取引されるからね」
「魔石?」
エリスの問いにマリクが答える。
「魔石ってのは魔族が獣に植え込んだ石の事を言うんだ。魔獣は元々、ただの獣で、魔族が自らの魔力を込めた石を体内に入れる事で魔獣に変化するんだ。魔石は魔法を強くする事も出来るから、重宝されている」
それを聞いた店の女は面白そうにマリクに話し掛ける。
「あんた、詳しいねぇ。魔法が使えるのかい?」
「あぁ、少しね」
「じゃあ、あんたも冒険者をやんなよ。魔法を使える奴は貴重だからねぇ。筋肉バカや騎士崩れは多いけどねぇ」
「僕でも稼げるのかい?」
「軟弱そうだけど、魔法が使えるなら大丈夫だろ。この店はギルドだから、登録だけはしておくれ。信用第一だから、あまり適当にやるとすぐに除名にするからね。それと仕事はそこに壁に貼ってあるから、選ぶとイイよ」
二人は何とか仕事にありつけそうだと、胸を撫でおろしながら、渡された紙に名前を書いた。あとは店の女が見た目の特徴を書き込み、二人にここのギルドの会員である事を示すバッチが渡された。
「これであんたらも冒険者だからね」
店の女に言われて、あまり実感も無く、渡されたバッチを取り敢えず、服に着けて、食事をした。
この酒場は二階が宿屋になっていた。無論、まともな宿では無く、雑魚寝に近い形だが、格安であった。
冒険者は貧乏な者が多いからこうして、住む場所も提供しているって事だろう。
大広間に様々な男女が適当に寝ている。ベッドはあるわけが無いので、皆、床に適当に転がっている。
部屋の片隅が空いていたので、二人はそこに陣取る。
「主様、盗まれる物はまったくありませんが、盗まれないように用心してください」
「あぁ、盗まれそうなのはこの杖ぐらいだから」
マリクは杖を握る。それは魔法を発動させる為に魔石が用いられた杖だった。
「それは大事に持っていてください。私は荷物を守りますから」
エリスは大きなリュックサックに身を寄せながら、マリクに言う。
その晩はそのまま、眠りに就いた。
エリスはいつも大きなリュックサックを背負っている。
「何とか持ち出せのは愛用の鍋とフライパンに裁縫道具と小麦粉、調味料ですね」
月明かりでリュックの中身を確認するエリス。まだ、周囲に魔獣が居るかも知れないのに、彼女はとても落ち着いていた。横で倒れ居てるのは久しぶりに全力疾走して、息が切れて、死にそうになっているマリクだった。
「主様・・・幾ら病弱だからと言っても、もう少し鍛えた方が良いですね」
「ぜぇ・・ぜぇ・・僕もそう思うよ」
マリクは何とか身体を起こす。
「それで・・・屋敷も失ってしまい・・・どうやら、主様は魔族に狙われているようですが、これからどうするおつもりですか?」
エリスの問い掛けにまだ、肩で息をしているマリクは考える。
「うーん・・・なんで、魔族は僕を狙っているのか・・・」
「そうですね。不可解ですね。すでに王国も無くなり、爵位も無いし、領地も無い主様を狙う理由がありません」
「まぁ・・・そうだね」
エリスにはっきりと言われて、少し凹むマリク。だが、そんな彼を他所にエリスは大剣に砥石を掛ける。
「朝になったら、街へ行きましょう。このままでは野垂れ死にます」
「野垂れ死に・・・そうだな。解った」
朝が訪れ、二人は街へと向かった。
街は魔族の襲撃を受けて、ボロボロであったが、生き残った人々によって復興が始まっていた。
この街は当然、マリクの家の領地であったが、病弱で殆ど、屋敷から出る事の無かった末弟のマリクを知る者は街には居なかった。だから、誰もマリクの事を気に掛ける事など無かった。
因みに事前にエリスからはシュナイダー家の事はあまり知られない方が良いと言われていたので、何となくあまり顔が見えないようにフードを被っていた。
「まずは仕事と住む場所を探さねばなりません」
エリスは色々と街中を見渡しながら、探すが、復興中の街で人を雇うような余裕のある者は居なかった。
夕刻が迫る。
仕事どころか、家も見付からない。
二人は途方に暮れながら、食事をする為に酒場に向かう。
酒場『エクレアの店』
ここは魔族に荒らされずに残った数少ない建物だ。
扉を開くと、陽気な笑い声と酒の匂いがした。
荒くれ者が集まる場所だった。
エリスも入った事は無かったが、まともに飯を食べれる場所はここぐらいしか残っていないのだ。
「あら?初めて見る顔ね」
店の若い女が二人に声を掛けて来た。エリスは相変わらずの細い目の仏頂面で彼女を見る。
「えぇ・・・食事は出来ますか?」
「今日のお勧めは鹿肉のスープよ」
「じゃあ、それとパンとで」
「そっちのお客さんも?」
マリクは頷いた。
料理が運ばれ、果実酒と共に食す二人。
「あんた達、どこから来たんだい?お嬢ちゃんはメイドっぽいけど」
店の女に尋ねられ、エリスが答える。
「はい。私はメイドです。こちらは主ですが、現在、住む場所と仕事が無いので困っています」
「仕事?そうねぇ。今の状況でメイドを雇えるような金持ちも居ないしね」
「そうですか・・・」
「あんた、槍なんて、持ってるけど、使えるの?」
「心得はあります。魔獣程度なら倒せますが」
「魔獣程度って・・・凄いじゃない。あんた、冒険者をやりなよ」
「冒険者?」
「あぁ、平和な時は荒くれ者の仕事だったからねぇ。用心棒とか、そんな仕事ばかりだったけど、今は魔獣討伐や魔族が集めた宝物を奪ったりしているよ」
「そんな事が仕事になるんですか?」
「なるさ。街道とかに出る魔獣を討伐して貰えれば、旅人や商人が行き交う事も出来るし、何より、魔獣の持つ魔石は高値で取引されるからね」
「魔石?」
エリスの問いにマリクが答える。
「魔石ってのは魔族が獣に植え込んだ石の事を言うんだ。魔獣は元々、ただの獣で、魔族が自らの魔力を込めた石を体内に入れる事で魔獣に変化するんだ。魔石は魔法を強くする事も出来るから、重宝されている」
それを聞いた店の女は面白そうにマリクに話し掛ける。
「あんた、詳しいねぇ。魔法が使えるのかい?」
「あぁ、少しね」
「じゃあ、あんたも冒険者をやんなよ。魔法を使える奴は貴重だからねぇ。筋肉バカや騎士崩れは多いけどねぇ」
「僕でも稼げるのかい?」
「軟弱そうだけど、魔法が使えるなら大丈夫だろ。この店はギルドだから、登録だけはしておくれ。信用第一だから、あまり適当にやるとすぐに除名にするからね。それと仕事はそこに壁に貼ってあるから、選ぶとイイよ」
二人は何とか仕事にありつけそうだと、胸を撫でおろしながら、渡された紙に名前を書いた。あとは店の女が見た目の特徴を書き込み、二人にここのギルドの会員である事を示すバッチが渡された。
「これであんたらも冒険者だからね」
店の女に言われて、あまり実感も無く、渡されたバッチを取り敢えず、服に着けて、食事をした。
この酒場は二階が宿屋になっていた。無論、まともな宿では無く、雑魚寝に近い形だが、格安であった。
冒険者は貧乏な者が多いからこうして、住む場所も提供しているって事だろう。
大広間に様々な男女が適当に寝ている。ベッドはあるわけが無いので、皆、床に適当に転がっている。
部屋の片隅が空いていたので、二人はそこに陣取る。
「主様、盗まれる物はまったくありませんが、盗まれないように用心してください」
「あぁ、盗まれそうなのはこの杖ぐらいだから」
マリクは杖を握る。それは魔法を発動させる為に魔石が用いられた杖だった。
「それは大事に持っていてください。私は荷物を守りますから」
エリスは大きなリュックサックに身を寄せながら、マリクに言う。
その晩はそのまま、眠りに就いた。
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