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「おーい!それ取ってくれよ!」
「あ!それはこっちの素材だからそっちはこれ使って!」
「もう!そこはそうじゃないって言ってるでしょ!?」
「えっと‥ここはこうだったか?」

「‥‥はぁー」

 先日決まった俺達の文化祭案『男装女装喫茶』は、見事生徒会審査を通過したので、今クラスではその準備に駆られている。
 女子はデザインと料理担当。
 男子は看板や椅子などの備品運び担当。
 そうやって男女別で作業を分けて進めている。

「あ、稜驊く~ん!次男子の衣装合わせだってよ?」

「‥‥‥」

「そんな露骨に嫌なオーラ出さないでよー。クラスの全員が期待してるんだよ?君の女装す・が・た」

 最後にハートが着きそうな喋り方をする神羅に、俺は不機嫌オーラを倍増させようかと悩んでしまう。

「‥‥‥はー‥それはだろ」

「あら、バレちゃったかー。こりゃ失敗した」

 俺が言った言葉に、神羅は舌を少しだけ出してみせる。
 この男装女装喫茶を提案したのは女子だ。
 男装女装喫茶は、女子にとっての男装はズボンを履くだけのなんてことの無いものだが、男子は違う。
 男子の中で進んでスカートを履くのは、今話題の『LGBTQ』の人かそっち系の人だけだと思う。

「ほら。もう決定事項なんだし、うだうだ言ってても変わるわけじゃないの!衣装合わせに早く行く!」

「‥‥はぁー」

 神羅に促されて俺は衣装合わせをしている隣の教室へと向かった。

「いやいやいや!その服はさすがにやばいだろ!」
「じょ、女装って、スカート履くだけじゃダメなの‥か?」
「そんなの絶対に着ないぞ!もっとマシなのねぇーのかよ!」
「いーやー!!」

 隣の教室では先に来ていた男子が、既に衣装係の女子達に着せ替え人形として遊ばれていた。
 男子達が涙目になりながら抵抗する中、女子達の目は、うさぎを見る獰猛な肉食獣の目に似ていた。

「あ!来たね稜驊君!」

 俺が目の前の惨状から逃げようとした時、衣装係の女子一人かこちらを見た。

「あ、あぁ‥っ!?」

 その瞬間、俺には女子生徒全員の目の色が変わった気がした。
 これまで目の前にいた獲物に集中していたのに、新たにもっと大きな美味しい獲物を見つけたような反応だった。
 俺は反射的に逃げようと後ろを向いた‥‥が。

「に~が~さ~ね~ぞ~?」

 既に着替えた男子生徒に羽交い締めにされ、俺の逃亡は失敗してしまった。
 周りからは「良くやった!」「さぁ!早く扉に鍵をかけて!」などの声が聞こえてくる。

「っ!離せ!俺には生き別れの弟が!」

「どうせよく教室に来る白蓮の事だろうが!無駄な抵抗はやめて大人しくしろ!」

「っ!」

 今更だが、俺は男子生徒の服装を見た。
 赤いチャイナドレスを来ている男子生徒は、赤の口紅やつけまつげまでもつけている。

「お前‥‥その姿は‥‥‥」

「くっ!そうだ!あいつらにやられちまったんだよ!」

 俺は悪寒に襲われた。
 言ってはなんだが、この男子生徒。柔道部でガタイはがっちりしているし、男らしい顔立ちをしている。
 そんなやつが口紅も付けて女装‥‥‥‥。

「‥‥‥ヒック‥ウゥ‥怖いよ~」

「っ!」

 俺は苦肉の策として、男子の泣き落としに入った。
 俺の表情筋は動かないが涙腺は動く。何が悲しくて同性の男子を泣き落とさなきゃならないのかという話なのだが、今は構っていられない。

「‥‥離して?」

「あ、あぁ」

 最後のひと押しに下から目線で潤んだ目を向けて頼むと、男子生徒は思った以上にすんなりと離してくれた。

「よし。さらばだ」

「「「「「ああああああああ!」」」」」

 俺がその隙に逃げ出すと、教室は女子の「しまった」という声で埋まった。
 俺は捕まりたくないので急いで隠れ場所を考える。

「‥‥屋上に行ってみるか」

 屋上に行って鍵を閉めれば捕まることもないだろう。
 俺はそう考えて階段を2段飛ばしで進む。

「ハァハァ‥ついた」

 屋上扉の前に来た時には息も上がりヘトヘトになっていた‥だが、ここで足を止めるわけにはいかない。

「あ!いた!皆!稜驊君は屋上よ!」

「っ!もう追いついてきたのか!」


 女子という生き物は本当に不思議な生き物だ。俺が全速力で上がってきた階段を、息も切らさず上がってきている。

「早く行かないと‥‥[ガチャッ]は!?」

 俺が屋上扉に手をかけると扉には鍵がかかっており、中に入れなくなっていた。

「さぁ稜驊君!観念して教室に戻るわよ!」

「い、嫌だ!」

 いつもまにが衣装係の女子全員が屋上から下の階に続く階段を埋めつくしていた。脱出経路を絶たれていたのだ。

「フフフ。嫌と言っても、ここから逃げるには階段を飛び降りるしかないのよ?そんな事出来ないでしょ?一歩間違えば私達女子を踏んでしまうものね~?」

「くっ!」

 いつもは大人しい学級委員の女子までが、今は悪魔に魂を売った魔女に見えてしまう。

「‥‥‥舌噛むなよ?」

「へ?うわぁ!」
「「「「「「「な!」」」」」」」

 急に声が聞こえたかと思うと、俺は急に開いた屋上扉の中へと吸い込まれてしまった。

「いてて~」

「[ガチャ]よし。これであいつらも諦めるだろ」

 尻もちをついてまい、打ってしまった尻をさすりながら顔を上げると、そこには真山がいた。

「な、なんで鳥林先生がここに?」
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