上 下
27 / 31
本編

25

しおりを挟む
「サレス団長」

「ん?ああ、お前がまた何かやらかしたのか」

 そう言って、盛大にため息をつくサレス。
 ムカッ。私は何もしてないっつーの!

「俺は何もしていません!レクターがいきなり強面騎士さん達を見て固まってしまったら、何故か強面騎士さん達が悲しそうな顔をしだして理由を聞こうと思ったらこうなったんです!」

 強面騎士さんを指さしながらそう言い切ると、サレスはポカーンと口を開けて固まった。
 他にも目線を感じたのでそちらを向くと、強面騎士さんの部下や強面騎士さん自身もこちらをサレスと同じ顔をしてみていた。
 え、何?変な事言った?てか皆最近固まりすぎじゃない?

「ぷっ‥‥あははははは!」

 最初に笑いだしたのはナンパ騎士さんだった。
 そして、次の瞬間にはそれに続いた固まっていた全員が笑いだした。一気に笑いだしたのでその声は爆発したような声量になった。これぞまさしく爆笑だ。
 でも、強面騎士さんは声を出して笑うのではなく肩を震わせて笑っていた。
 ちくしょう。笑うなら声出して笑えっての!

「な、なんですか!俺変なこと言いました!?」

 1人笑っていない自分が仲間はずれのような感じがしたので、私は逆ギレよろしく皆を見る。
 すると、さらに皆は笑いだしてしまった。

「はははは!お前何も知らないのな!あははははは!」

 ナンパ騎士さんは笑いながらも私に説明してくれた。

「俺達は『』・獣戦駆隊じゅうせんかたい所属で、この部隊には特殊中の特殊の人しか入れないんだ。
 まぁー俺達は人と言うより部隊名よろしくなんだけどね。世にゆうだよ」

 ‥‥‥獣!?獣人!?
 驚いている私を置いてナンパ騎士さんは話を続ける。あ、笑い声を入れてたら話にならないから笑い声は抜かしてます。

「俺達は生まれた時からこの部隊に入る運命なんだ。そして、国のために戦う騎士になる。
 まぁ、獣人族は生まれながらにして龍やドラゴンに乗れて空での行動はできるし、陸では獣の性質を活かして行動できるから、どの国にとっても喉から手が出るほど欲しい逸材という事だよ」

 ‥‥‥マジか。
 ポカーンとしている私を見て、強面騎士さんの部下。獣戦駆隊の皆さんは「マジか。知らなかったのか」と言う顔をしながら笑っている。器用な人達だ。
 ん?待てよ?獣人ってことは‥‥‥!!

「もしかしてここにいる全員が獣になれるの!?」

 私は笑顔で笑っている皆に詰め寄った。そんな私を見て皆は笑顔で頷いてくる。
 私はそれを見てさらに笑顔になるのを自分で自覚しながらも、それを止められなかった。

「え!嘘!本当に!やった!本物の獣人に会えたんだ!嬉しい!凄い!サレス団長!どうしよう!俺今日死んじゃうのかもしれない!嬉し死にですよ!嬉し死に!」

「大丈夫だ。この世に嬉しすぎて死んだやつはいないからお前は死なない」

 私の喜びように驚きつつもそう言ってくるサレスは、私の頭を撫でて私を宥めようとする。
 でも、獣人に会えた嬉しさが爆発している私にそんな宥め方は通用しない。
 すぐに獣戦駆隊の皆がいる所へと戻り、知っているナンパ騎士さんに詰め寄る。

「ナンパ騎士さん!ナンパ騎士さんは何の獣人なんですか!?」

「ナ、ナンパ騎士‥‥」

 私の勢いと言葉に周りはドっと笑いが増すが、ナンパ騎士さんは少し引き気味になった。

「何の獣人ですか!?あ!軽いっていうか人懐っこい感じがするから犬の獣人!?あ、でも人懐っこいと言ったら猫とかも‥‥いや。猫は最初は懐いてこないからやっぱり犬‥‥‥でも」

 ナンパ騎士さんの種族当てを始める私を暖かい目で見てくる獣戦駆隊の皆の視線に気づかずに、私はナンパ騎士さんの種族を当てようとするが、すぐに降参した。

「ああー!もう!分からりません!ナンパ騎士さんの種族はなんですか!ヒャウ!」

「教えるのはいいが、はやめような?俺にもちゃんとした名前があるんだよ。俺の名前はアムールだ」

 『ナンパ騎士さん』がそんなに気に入らなかったのか、ナンパ騎士さんもといアムールは笑顔だが眉をひそめて私の両頬を引っ張ってくる。

「いひゃいいひゃい!アムールひゃんいひゃい!ごめんなひゃい!」

 アムールの引っ張る力はとても痛くて私が悪かったのは分かるが、早く話して欲しくてアムールの手を叩きながら謝った。
 それでもちゃんと名前を呼んだのが聞いたのか、普通の笑顔に戻って私の頬を解放してくれた。

「よし。もう二度と『ナンパ騎士さん』なんて呼ぶなよ?」

「うぅ~はい‥‥痛い」

 私は両頬を自分で撫でる。これは絶対に赤くなっているパターンだ。だって、離された今でも痛みがひかないのだから。

「あらら。赤くなってるじゃないか。アムール。やりすぎじゃないか?」

 そう声をかけてきたのはアムールの左どなりに座っていた白髪の騎士さんだった。
 私が白髪騎士さんと目が会うと、白髪騎士さんはこっちにおいでと手を動かしてきた。
 私はそれに素直に従う。

「あ~あ。赤くなってる‥‥よいしょっと」

「うわ!」

 ブランシュは私を軽々と持ち上げると、自分の膝に座らせた。
 私は特に身の危険を感じなかったので大人しくしておくことにした。

「あ、僕の名前はブランシュだよ?よろしくね」

 そう言って微笑んでくるブランシュは、大型の獣人なんだと思う。
 だって、座高だけでもアムールよりでかいんだもん。立ったら絶対にサレスの背とか軽々越すよ。

「ちょっとヒヤッとするけど我慢してね?」

「あ、はい」

 そう言って私の頬を包むように触ってくるブランシュ。
 その手はとても冷たくて、引っ張られて熱を持った頬にはとてもちょっどよかった。

「そう言えば、俺達は名乗ったのにお前は名乗ってないじゃないか」

 アムールが急にそう言い出したとたんに、笑いがおさまってご飯を食べ始めていた獣戦駆隊の全員が私に注目しだした。

「え、言ってませんでしたっけ。レムンです」

 全員の視線に気がつかないフリをしながら、私は何事もないようにそうつげた。
 すると、獣戦駆隊の全員が何故か空中を見つめだした。
 え、何?そこに何かいるの?怖!

「‥‥あ、そう言えばお前俺が何の動物の獣人か知りたがってたな」

 アムールが空中を見つめるのをやめて話を戻してくれたので、私はそれにのって大きく頷いた。

「いいぜ。教えてやる」

 そう言ってニカッと笑ったアムールは、最初に会った時のような間延びした言葉遣いではなかった。
 一見面白がっている感じもする様子だが、何故か私には何か覚悟を決めたようにも見えた。

「俺は‥‥‥チーターだ」

「‥‥チーター」

 繰り返しで、小さく呟いた私の様子を伺っている獣戦駆隊の皆はどこか強ばった表情だったが、私はそんなのには気づかずにアムールを真正面から見つめた。

「な、なんだよ。俺はチーターだぞ?肉食獣なんだぞ?」

 近くで見るアムールの瞳はフルフルと震えていて、今にも泣きだしそうに感じた。
 何かを怖がっている。でも何を?
 アムールが怖がっている理由はまったくわからない。だけど、それが自分のことでもないのにとても悲しくなった。
 でも、そんな気持ちよりも言いたいことがあったので、今の気持ちを消すように私は1度首を左右に振ってアムールを見た。
 よし。覚悟を決めた。



「‥‥‥半獣化を見せてください!」



「‥‥‥は?」
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】殿下、自由にさせていただきます。

なか
恋愛
「出て行ってくれリルレット。王宮に君が住む必要はなくなった」  その言葉と同時に私の五年間に及ぶ初恋は終わりを告げた。  アルフレッド殿下の妃候補として選ばれ、心の底から喜んでいた私はもういない。  髪を綺麗だと言ってくれた口からは、私を貶める言葉しか出てこない。  見惚れてしまう程の笑みは、もう見せてもくれない。  私………貴方に嫌われた理由が分からないよ。  初夜を私一人だけにしたあの日から、貴方はどうして変わってしまったの?  恋心は砕かれた私は死さえ考えたが、過去に見知らぬ男性から渡された本をきっかけに騎士を目指す。  しかし、正騎士団は女人禁制。  故に私は男性と性別を偽って生きていく事を決めたのに……。  晴れて騎士となった私を待っていたのは、全てを見抜いて笑う副団長であった。     身分を明かせない私は、全てを知っている彼と秘密の恋をする事になる。    そして、騎士として王宮内で起きた変死事件やアルフレッドの奇行に大きく関わり、やがて王宮に蔓延る謎と対峙する。  これは、私の初恋が終わり。  僕として新たな人生を歩みだした話。  

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

二度目の人生は異世界で溺愛されています

ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。 ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。 加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。 おまけに女性が少ない世界のため 夫をたくさん持つことになりー…… 周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

処理中です...