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第5章  異世界編  森の国

"ヨウ"という人物  3

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「ユキ…?大丈夫?顔色が…」

 ヨウはユキを心配して声を掛ける。それを何度繰り返してもユキは声すら出せない。ヨウは不安に思いユキの肩を抱き寄せユキはヨウの身体の暖かさを少しづつ感じ始める。
 小さな焚き火がパチパチと音を重ね、ドクドクと規則正しいリズムの鼓動をユキに与えた。ユキは、ようやくゆっくり息を吸う事が出来た。

「ヨウ。…大丈夫。」

 ヨウにユキは言う。だが、力すら感じられないユキの声に対しヨウは決してユキを離さない。離そうとしない。ユキはそんなヨウの自分より暑すぎる体温を受け入れていく。そうして心を落ち着かせようとした。
 だが、いくら落ち着けと願っても変えられない物がある。

「ユキ、どんどん冷たくっ!?ユキ!!」

「大丈夫。ヨウ、私は大丈夫」

 ユキの手も足も声も顔も身体全てから冷気が放たれる。それは、周りの木々も生き物も全てを凍らせる本来の"ユキ"の力。
 ユキは、いたって冷静だ。
 しかし、思っていた事実をこんな形でしかも目の前に彼が…
 ヨウが"日野 太陽"。雪乃が憧れ尊敬し好意を持った男性…こんな形で出会うなんて。

 なんて…滑稽だろうか。

 ユキの心は、冷たい氷の様に変わっていく。ヨウの暖かさでは決して溶けない。冷静でいてとても脆い。
 ユキは、事実に混乱したが同時にこうも簡単に受け入れてしまう自分に驚いていた。しかし、あるいは受け入れられてしまう自分になってしまったのかもしれない。
 なにせ、雪乃は何処にも居ない。
 居るのはユキだから。

 ユキは、傍から離れないヨウに聞こえない様。ーー心で呟いた。

(貴方が彼なら私は…助けなきゃよかった…)

 ユキは、冷たい表情で笑った。
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