叶わぬ願いと望まぬ結末

第14章 伝わる力と秘儀

父ガルフと母ラルフ 1

　父様と初めて夜を過ごした。
　父様が知らない母様の話し。
　何が好きで何に喜んで、何を感じて居たか。全ては私の主観だけど、母様と私の事を知って欲しかった。父様が執務をしている間、母様はポツリと涙を流しミーラに見えぬ様に涙を隠した事。
　母様がいつも自室の窓から父様の執務室を見ていた事。母様が父様の代わりに城の外に出て市民と同じ目線で過ごした日があった事。
　そして母様が亡くなる時まで私を娘を大切に思ってくれた事。知っている事全てを話した。
　すると父様は言った。

「知って居たよ」

　父様の言葉に私は何も返さない。返す事が出来ないほど父様の顔は笑顔だった。それも誰かを慈しむ聖者の様な綺麗な笑顔。そこには、魔王なんて居なかった。

「ラルフは、私の初恋で一目惚れだったんだ。」

「母様が？」

「あぁ。忘れられない、初恋。」

　父様は気恥ずかしい様子で話してくれた。
　昔母様と初めて会った時、母様を天使だと感じたと。それほどに全身に血が通った様に暖かさと愛おしさが込み上げてきたと。
　母様は、父様を見て初めて言った言葉を今でも忘れないと父様は顔を真っ赤にしながらも辿々しく言った。

"私の光は貴方かも知れない"

　と、父様はその時、母様はとても辛く寂しい様子に見えた様だった。だから、母様の寂しさが消える様に母様の時間を父様が埋めた。長い時間をかけて。それは母様にも伝わった。そして私という娘が産まれるきっかけにもなったらしい。
　母様と父様は昔からとても仲が良く、有名だったらしい。しかし、先代魔王が勇者である人間に負け父様が次代の魔王になった。

ーーそして母様と私は父様から離された。

「魔王なんて、なりたくなかった。妻の…ラルフの」グッ…

　父様は、息を殺す様に呟いた。まるで自分自身を呪い殺すかの様にーー

"側に居たかった…"
　
　と。結果最期の最期まで父様の願いは叶わなかった。