叶わぬ願いと望まぬ結末

黒狼 リュイ

文字の大きさ
上 下
38 / 138
第8章 勇者の覚悟 ラルトside

固い意志

しおりを挟む
夕食後アミラとダットは何も言わず各部屋に入ってしまった。そしてザルとラルトは、ラルトの部屋に同時に入った。
 部屋に入るなりザルが言った。

「さぁ、ラル。オレが知っている事を話そう。」
「早速で悪いけどお願いするよ。」
 
 ラルトは部屋に入ってすぐの左側にある机の椅子に、ザルハルートは向かって右側のベッドの淵に腰掛けた。
 ザルハルートは”アミラからさっき受け取った”とラルトの方に街で買った小さな林檎を放り投げた。ラルトは、おっとと言いながら受け取り2人は林檎を片手に話し出した。

「ザルは言ったよね?”魔王の娘?とやらが人間の村を襲撃して勇者候補を片っ端から倒したらしい”って」
「あぁ、バルンから聞いた。間違いはないんじゃないかと思うよ。」
「ならその”魔王の娘”と言われた者の詳細は知らないかい?襲撃されたのなら誰か見た人は居ないだろうか?」
「んーバルンから聞いたのは、確か…それだけのような?…あっ!」
「どっどうしたんだい?!」

 ザルハルートは手の中にある真っ赤な林檎を天井に掲げハッとした。それを見たラルトはまさかと思いながら息を飲む。
(頼む、嫌な予感がする…外れてて…)

「確か赤い色が見えたと言って居た。うん、間違いない。この林檎の様な赤だろうきっと。」
「赤…そうか…(それが本当なら…いや)」

 ザルハルートの答えに落胆したラルト。だが、続いてザルハルートは首を傾げながら言った。

「だけど妙なんだよ。」
「…妙って?」
「いやな、なんでバルンだけが知って居てオレやアミラ、それからダット。ましてやラル、勇者であるお前も知らなかったんだろうってさ」
(確かに…)
「勇者候補であるお前が先に知らないのはおかしくないか?伝えられててもおかしくない話だろ?普通なら」
「確かにそうだ。」

 ラルトはザルハルートの言うことに一理あると思った。
 勇者候補である自分でもパーティーメンバーになるであろう今此処にいるみんなでも無く、なぜ”バルンだけが知って居る”のだろうか。
 もしかしたら自分達だけが知らなかったんでは無いか、もしくは知らされて居ないだけでは無いだろうか?
 ならなぜバルンは、ザルにだけ教えた?それも自分から。
 ラルトにはまだ知らない何かがあり、何か良く無い者が動いている。
 ーーそんな風に感じられた。

 そしてザルハルートは手にある林檎一つ食べ終わるまでラルトにバルンから聞いた話しをし、他に知っている事を全て話していった。
 アミラとは同じ村出身であり、幼馴染みである事。
 王からの召集には、アミラが呼ばれて居たが自分は村の為にアミラを守る為に自ら盾役として志願したのだとラルトに教えてくれた。

 そして最後に一言だけ呟いた。
 ーー護りたいのだ
 と、心に刻み込むかの様に一言吐き出した。

 それを見たラルトは感じた。
 ーーザルは信念を持っている
 のだと、それは揺るぎの無いほど強く固い
 それこそ彼が愛用とする盾の様に決して倒れる事のない様な心をラルトは感じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

入れ替わった恋人

廣瀬純一
ファンタジー
大学生の恋人同士の入れ替わりの話

処理中です...