叶わぬ願いと望まぬ結末

黒狼 リュイ

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第5章 別れの時、始まる運命

叶わぬ願い

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 そして翌日。
 ラルト、アーリ、ハーランの3人は朝食後に洗濯や薪割りなど各々作業をしていた。
 その作業の間は、ミーラが自由に行動する事が出来た。その為ミーラは、こっそりと彼らから離れ森に向かって小走りした。
 一時間もかからず、目的地付近に着いたミーラは、辺りを見渡し誰も居ない事を確認した。人ではないミーラが小走りした所で誰も追いつけはしない。しかし、たまたま森に誰かが居た場合いくらミーラでもどうする事は出来ないからだ。
 運良く人どころか動物の姿すら無かった。
 そしてミーラは目を閉じた。全ての感覚を研ぎ澄ますように五感をフルに使う。
 すると風と共にある者が目の前に降り立った。

 (悪魔バルンハルト…)

 目の前に現れたのはあの日突如現れた悪魔バルンハルト。彼の背には人ではない証である羽根が生えていた。そして禍々しい魔力。それだけで強さがミーラには分かった。

「ご機嫌麗しゅう、次期魔王候補ミーラ嬢。良く来てくれましたねー」
「戯言はいいから、要件を済ませ」
「あらあら怖い怖いー」
 
 ミーラの前で戯けたように話すバルンハルトにミーラは苛立ちが隠せない。しかし、相手はまだよく分からない存在だ。味方か敵かすら不明な中ただ苛立ったからと攻撃する訳にもいかない。
 その為ミーラは自身の魔力を自身の身体に巡らせ目力と魔力で威嚇の様にするだけに留めた。
 それに対しバルンハルトは、一瞬だけ止まった様子に見えたが気にせず続けて言った。

「では、要件を。…あなたの母君、ラルフ様は人間に殺されました。そして殺したのはこの国の王名を”フィル・フィラータ”です。」
「フィル・フィラータ…そいつが母様を…」
「えぇ、ですからミーラ様。私バルンハルトと共に魔界へ戻り軍を率いて人間界と戦争をし母君ラルフ様の…そして魔界の者達の無念を晴らしましょう!」
「無念…母様の…無念を晴らす」

 母様を殺したのは人間。
 その事実は知っていたし、分かった状態で人間アーランド夫妻、そしてラルトと2年間を過ごした。私が死ぬ訳にはいかなかったから…
 母様の復讐をする為にはこんな所で止まる訳にはいけないと感じたから。
 だから、二つ返事で引き受けるのが当たり前のはずだった。
 しかし…2年は長かったのかもしれない。
 人間ラルト、人間アーランド夫妻に情が湧いてしまったのだ。たった2年は、知らぬ間にミーラの憎しみを癒し始め安らぎに変えてしまっているのだ。

(彼らは、何の悪事も何もしない。ただ平和に暮らしているだけだ…だから…私は…)

 私が迷っているのを悟ったのだろう。
 すかさずバルンハルトは言った。

「人間の王フィル・フィラータは、勇者となる人間を選抜しミーラ様の父君魔王ガルム様を討伐させ魔界を手に入れ自身の脅威を減らそうとしています。…現に勇者候補は既に決まっていると。」
「勇者候補…」
(…次代の勇者、ラルト・アーランド…聖剣も持っていたから間違いないだろう…)
「ミーラ様。あなたが人間界にいる事がフィル王や勇者にバレてしまえば魔界は滅びるでしょう。…もう…時間がないんですよ…」

 そう言いバルンハルトは俯いた。
 その姿を見てミーラは思った。
 ラルトは何故私を助けたのだろう。聖剣を魔族が感知出来るならば次期勇者候補だって分かるはずだろう。それは魔力を感知出来る事に繋がるはずだ。
 なのに…なぜ?
 
「ミーラ様…」
「…分かった。今から魔界へ戻る。そして母様の仇を討つ。」
「ありがとうございます!ありがとうございます!今、ゲートを開きます‼︎」

 バルンハルトが開いたゲートをミーラは潜り魔界へと足を踏み入れた。
 ラルトがなぜ助けたのか?
 ラルトは私の真の姿を知っていたんじゃないか?
 色々考えてゆっくりと決断をした方がいいのかも知れない。
 しかし、今考え動くべきだとミーラは感じた。
 本当は、魔王の娘でなく1人の女としてあの暖かな家に居たかった…
 けれど私は、魔王ガルムと母ラルフの娘。 
 果たすべき義務を果たさなければならない!

 私の”希望も夢も叶わぬ願い”である事を自覚し、民の為に魔王の娘としてやらなくてはいけない。
 それが”魔王の娘ミーラ”だから…
 
(さようなら、ラルト…もし願いが叶うならば…ラルトが私を…それだけが私の願い。)
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