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7章.Rex tremendae
任務かな
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瞬間移動で教皇領の大きな門の前にやってきたミカエルとルシエル。門番は、ルシエルを見て不審そうな顔をする。
「そちらは…」
「ルシエル。俺の相棒」
そのとき、ちょうど向こう側からウリエルがやって来て、ルシエルを捉え、足を止めそうになった。
門番が敬礼している。
「ご苦労。……ルシエルか?」
視線を寄越されたミカエルは、頷いて答える。
「そうです」
「はじめまして」
微笑を浮かべたルシエルに、ウリエルはなんとも言えない顔をした。
「とりあえず中へ」
「あのっ、そちらの者も通してよろしいので?」
門番が慌てて言うと、ウリエルは彼にすっと目をやる。
「ああ」
「し、失礼しました!」
彼はザプキエルと同じく、鋭利な眼差しなのだ。その上、元獄長。門番は震えあがっていた。
ウリエルはこんな反応には慣れっこなのか、気にせずミカエルたちを教皇領内へ誘う。教皇宮殿へ向かう道すがら、ウリエルが観察するようにルシエルを見やって口を開いた。
「先日、凄まじい光と闇の攻防に驚いた周辺の町から通報があった。人が近づかないよう展開された結界のおかげで、怪我人は出ていない。ちなみに、その一件はミカエルが悪魔を倒したなどの話で落ち着いている」
闘っているとき、周囲に町があることに気づかなかった。閃光が遠くまで見えたのかもしれない。それはさておき、ザプキエルの結界は、どうやら役に立ったらしい。
「君たちが戦闘を行ったことは聞いている。彼の変化はそれで?」
当の本人は、ミカエルの斜め後ろを歩きながら物珍しそうに辺りを見渡している。
「まぁ…」
「氣質からして別人のようだ」
「あれが本来の氣質らしいです」
「では、融合されたデビルの部分がなくなったということか」
「そんな感じです」
そこでミカエルはウリエルの横顔を見上げ、思わず口を開いた。
「おまえ、本当に大丈夫かデス?」
「……なんのことだ」
「また痩せただろ」
眼光が鋭いのは、その事も関係あるかもしれない。ゲッソリしていたら、人相が悪く見えるものだ。
「君は顔色がよくなったな」
ウリエルは疲れの滲むため息を吐く。
「おう。ルシも元に戻ったし」
機嫌よく答えたミカエルの顔をチラと見て、ウリエルはかすかに笑った。
教皇宮殿に入ると、いつものように螺旋階段を上がる。ルシエルは初めて来たらしく、やっぱり新鮮そうだった。
行き交う人がいなくなった頃、ウリエルがおもむろに口を開いた。
「少し前、ブランリスの国王が破門されてな」
「……は?」
「教会への優遇をやめ、等しく税を取る政策を強行しようとしたのが原因だ。数年前からその件で悶着していたが、ついにといったところだな」
ミカエルは首を傾げる。
「よくわかんねーけど、優遇されなくなって怒ったってことか?」
「王より教皇のほうが権威がある。教会は国のシステムを超越した存在だ。そのような考えからすれば、ブランリス王の政策は、許されることではない」
「へぇ…」
王も破門されることがあるなんて。それも、教皇の権威を示すためなのだろうか。
そこでふとルシエルが口を開いた。
「その政策自体、ちょっと不穏だな。権威に関することもあるだろうけど、要は資金が必要なんだろう」
「……あー、つまり、また戦か?」
肩をすくめる彼に目をやり、ウリエルが続ける。
「その話には続きがあってな。聖下を乗せた馬車が襲撃された」
「ああ? っつか、続きってことは、王が破門されたのと関係あんの」
「何らかの関係があると見て、捜査が行われている」
ルシエルも眉を上げている。
「聖下は瞬間移動して無事だ。今は別邸におられる。それで、君を所望されたというわけだ」
「理由はわかったけどよ。それで、なんで俺らはここにいるんだ?」
「ここに移動の陣がある」
最上階の奥の部屋に、それは用意されていた。
「聖下は瞬間移動ができるんですね」
おもむろにルシエルが呟く。ウリエルは一瞬動きを止め、ルシエルの方を向いた。
ルシエルは何食わぬ顔で首を傾げる。
「……できる。その力の源は、私のものだ」
「進んで彼に力を?」
「いや…、しかし、納得はしている」
視線を交わす二人はどこか意味深だ。ミカエルは目を瞬いて、眉根を寄せた。
「俺にもわかるように話せよ」
「なんのこと?」
ルシエルが自然に答えて視線を寄越す。
「なんか、俺の知らねえことがあるんだろ」
「もしかして、少し彼の顔を見すぎたことかな。本当に疲れた顔だと思って、見てしまったんだけど。妬いた?」
最後は悪戯に問われ、ミカエルはますます眉根を寄せる。
「やくってなんだよ」
「嫉妬かなって」
「……。はあ?」
意味がわからない。ウリエルに目をやると、視線をそらされた。
「あまり待たせるわけにはいかんのでな。行くぞ」
「へいへい。……あ」
ミカエルは思い出して足を止める。
「ウリエル。俺がいない間、いろいろありがと」
ウリエルは振り返ってかすかに口角を上げ、移動の陣の向こう側へ足を踏み出した。
「そちらは…」
「ルシエル。俺の相棒」
そのとき、ちょうど向こう側からウリエルがやって来て、ルシエルを捉え、足を止めそうになった。
門番が敬礼している。
「ご苦労。……ルシエルか?」
視線を寄越されたミカエルは、頷いて答える。
「そうです」
「はじめまして」
微笑を浮かべたルシエルに、ウリエルはなんとも言えない顔をした。
「とりあえず中へ」
「あのっ、そちらの者も通してよろしいので?」
門番が慌てて言うと、ウリエルは彼にすっと目をやる。
「ああ」
「し、失礼しました!」
彼はザプキエルと同じく、鋭利な眼差しなのだ。その上、元獄長。門番は震えあがっていた。
ウリエルはこんな反応には慣れっこなのか、気にせずミカエルたちを教皇領内へ誘う。教皇宮殿へ向かう道すがら、ウリエルが観察するようにルシエルを見やって口を開いた。
「先日、凄まじい光と闇の攻防に驚いた周辺の町から通報があった。人が近づかないよう展開された結界のおかげで、怪我人は出ていない。ちなみに、その一件はミカエルが悪魔を倒したなどの話で落ち着いている」
闘っているとき、周囲に町があることに気づかなかった。閃光が遠くまで見えたのかもしれない。それはさておき、ザプキエルの結界は、どうやら役に立ったらしい。
「君たちが戦闘を行ったことは聞いている。彼の変化はそれで?」
当の本人は、ミカエルの斜め後ろを歩きながら物珍しそうに辺りを見渡している。
「まぁ…」
「氣質からして別人のようだ」
「あれが本来の氣質らしいです」
「では、融合されたデビルの部分がなくなったということか」
「そんな感じです」
そこでミカエルはウリエルの横顔を見上げ、思わず口を開いた。
「おまえ、本当に大丈夫かデス?」
「……なんのことだ」
「また痩せただろ」
眼光が鋭いのは、その事も関係あるかもしれない。ゲッソリしていたら、人相が悪く見えるものだ。
「君は顔色がよくなったな」
ウリエルは疲れの滲むため息を吐く。
「おう。ルシも元に戻ったし」
機嫌よく答えたミカエルの顔をチラと見て、ウリエルはかすかに笑った。
教皇宮殿に入ると、いつものように螺旋階段を上がる。ルシエルは初めて来たらしく、やっぱり新鮮そうだった。
行き交う人がいなくなった頃、ウリエルがおもむろに口を開いた。
「少し前、ブランリスの国王が破門されてな」
「……は?」
「教会への優遇をやめ、等しく税を取る政策を強行しようとしたのが原因だ。数年前からその件で悶着していたが、ついにといったところだな」
ミカエルは首を傾げる。
「よくわかんねーけど、優遇されなくなって怒ったってことか?」
「王より教皇のほうが権威がある。教会は国のシステムを超越した存在だ。そのような考えからすれば、ブランリス王の政策は、許されることではない」
「へぇ…」
王も破門されることがあるなんて。それも、教皇の権威を示すためなのだろうか。
そこでふとルシエルが口を開いた。
「その政策自体、ちょっと不穏だな。権威に関することもあるだろうけど、要は資金が必要なんだろう」
「……あー、つまり、また戦か?」
肩をすくめる彼に目をやり、ウリエルが続ける。
「その話には続きがあってな。聖下を乗せた馬車が襲撃された」
「ああ? っつか、続きってことは、王が破門されたのと関係あんの」
「何らかの関係があると見て、捜査が行われている」
ルシエルも眉を上げている。
「聖下は瞬間移動して無事だ。今は別邸におられる。それで、君を所望されたというわけだ」
「理由はわかったけどよ。それで、なんで俺らはここにいるんだ?」
「ここに移動の陣がある」
最上階の奥の部屋に、それは用意されていた。
「聖下は瞬間移動ができるんですね」
おもむろにルシエルが呟く。ウリエルは一瞬動きを止め、ルシエルの方を向いた。
ルシエルは何食わぬ顔で首を傾げる。
「……できる。その力の源は、私のものだ」
「進んで彼に力を?」
「いや…、しかし、納得はしている」
視線を交わす二人はどこか意味深だ。ミカエルは目を瞬いて、眉根を寄せた。
「俺にもわかるように話せよ」
「なんのこと?」
ルシエルが自然に答えて視線を寄越す。
「なんか、俺の知らねえことがあるんだろ」
「もしかして、少し彼の顔を見すぎたことかな。本当に疲れた顔だと思って、見てしまったんだけど。妬いた?」
最後は悪戯に問われ、ミカエルはますます眉根を寄せる。
「やくってなんだよ」
「嫉妬かなって」
「……。はあ?」
意味がわからない。ウリエルに目をやると、視線をそらされた。
「あまり待たせるわけにはいかんのでな。行くぞ」
「へいへい。……あ」
ミカエルは思い出して足を止める。
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