God & Devil-Ⅱ.森でのどかに暮らしたいミカエルの巻き込まれ事変-

日灯

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7章.Rex tremendae

無知の知

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 おもむろに自身の一物に顔を寄せてきたミカエルに、ゾフィエルはギョッとして後ろに下がる。

「あ?」
「いや、いきなり君が、」
「フェラするっつっただろ」
「っ口でか!?」

 ミカエルは首を傾げて「おう」と言う。

「そんなに驚くことか?」
「……君のイメージになかったのでな」

 ゾフィエルは額に手をやり、呼吸を整えるように息をした。

「俺のイメージってなんだよ」

 ミカエルは半目になってしまう。
 セックスとは、そういうものだろう。
 挿れる側が高まらなければ行為はできない。それを手伝うのは挿れられる側として当然で。つまり、こうするのは当たり前のことである。

「俺だってちゃんとできるっつの」

 そういえば、新しい身体は慣れていないので、アヌスを解す必要があった。ミカエルはおもむろに後ろへ手をやり、指で入り口を解し始める。

「っほら、足開けって。咥えらんねーだろっ」

 返事がないので彼の顔に目をやると、ゾフィエルは口許に手のひらを当てていた。そこから滴る赤い色。

「……あ?」
「ずまん。ぎみが、あまりに…っ」

 魅惑の裸体を惜しげもなく晒すばかりでなく、奉仕に徹して振る舞う姿は小慣れた男娼のようで。
 高貴な血を持つ相手にそのような思いを抱いてしまった背徳感と興奮ーー。
 ゾフィエルはもう、耐えきれなかった。

「って、鼻血!?」

 隠しきれない感情の高まりが震える手の隙間からとめどなく滴り落ちる。
 ミカエルはギョッとして指を抜き、いらない布を取ってきて彼に手渡した。

「大丈夫かよ」
「っへいぎだ。ずまん…」

 彼の猛りが勢いを増しているのに気づいたミカエルは、とりあえず自身の準備を済ませておこうと後ろ手に入り口を解すのを再開した。

「っ…、ふ、ぅ…」

 それがゾフィエルの鼻血が止まるのを妨げていたことを、ミカエルは知らない。
 ゾフィエルは深呼吸して冷静さを取り戻そうとする。

「私にやらせてくれ」
「ん…、あと少し…」

 ミカエルは後ろに指を入れたまま、お尻をゾフィエルに向けて持ち上げた。

「っ、」
「……あ? 顔赤いぞ。まだ、止まんねえの、っ」
「い、いや、鼻血は気合いで止めた。私がやるから…」
「ん、おぅ」

 ミカエルはようやく理解し、指を引き抜いた。咥えていたものを失ったアヌスがヒクリと動く。

「おい?」
「っ平気だ、問題ない。指を、入れるぞ」

 やりやすいように足をもっと開いてやれば、ゾフィエルは勢いよく目を逸らした。ゆっくり呼吸し、決意を固めたかのようにミカエルに向き直り、そろそろと指を伸ばす。

「……痛くないか?」
「見ただろ、自分の指、突っ込んでたんだから、痛くねぇよ」
「あ、ああ。……すっかり君に任せてしまってすまん。もっと愛撫して、君の気分も高めたかったのだが」
「俺は、っソコの準備ができれば、ン……できるっからっ、」

 するとゾフィエルは小さく息を吐いた。

「ただの行為のようにはしたくない。繋がればいいという話ではないだろう」
「……そう、なのか?」

 ミカエルはルシエルがいなくなる前にした交わりを思い出した。

「もっと、ゆっくりやる、必要があるって、こと?」
「いや…」

 入り口を拡げていた指の動きがふと止まる。
 振り返ると、ゾフィエルはかすかに眉根を寄せていた。

「君は、この行為をどのように捉えている?」
「あ?」

 いきなりの問いに、ミカエルは目を瞬く。

「どうって、挿れるヤツと受けるヤツがいて、合体? して、ナカに出すのがゴールだろ。身体ガッチリ合わせたほうが力を循環しやすいって話じゃねえの」

 ゾフィエルは緩く首を振る。

「精神が先だ。心を一つにするために行為を行う。心がより重なるように、身体を重ねるんだ。一方的なものでは意味がない」

 ミカエルがキョトリとしているうちに、ゾフィエルは彼のナカから指を抜き取った。
 聖学校でもアクレプン帝国でも、ミカエルは無理矢理やらされた。その体験しかないのなら、セックスはそのようなものだと思いかねない。

 ーー彼は知らないのだ。

 健気けなげに口で相手を高めようとしたり、自分で準備をしたり。相手の要望に従順なのは、そういうものだと思っているから。
 想いがあって、相手を思ってしているのではないのだ。

「……ゾフィ?」
「君は知っていたか? 必ずしも咥内に招いて相手を高める必要などないということを」
「……へえ」
「手でやろうとする者のほうが多いだろう。口でするのに抵抗があるのは、おかしな事じゃない。気持ちよくなってほしいと思ってするなら、なんでもいいんだ」

 ムードが変わったのを感じ、ミカエルはベッドに座る。

「俺のやり方は変ってことか?」
「やり方は関係ない。想いあっての行為だ。君は口で高めようとしたとき、何を思っていた?」
「……おまえがヤる気になんねえと始まらねぇだろ。俺は、それしか…、知らなかったんだ」

 ミカエルは睫毛を伏せる。
 たくさん経験して、知った気でいた。その行為がどういうものか。どうすればいいのか。

 ーー根本から間違ってたってことか…。

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