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7章.Rex tremendae
不知の自覚
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ミカエルは躊躇せずシャツを脱ぎ捨てる。引き締まった薄い身体は少年らしく、危なげでやたらと色めいていた。
そのままの勢いで下履きに手を掛けるので、ゾフィエルは思わずその腕を掴んで止める。
ミカエルは不思議そうにゾフィエルを見上げた。
髪を撫で、後頭部に添えられた手のひら。ハグされて、なんとなく彼の背中に腕を回す。
「どうしたんだよ?」
「……君はまだ、十七の少年だったな」
「世間じゃ立派な大人だろ。結婚しててもおかしくねえ」
「ああ」
しなやかな身体。想像以上に細い腰。
ゾフィエルはここへきて、初めてミカエルを一人の少年として認識した気分だった。どんなに強い力があっても、堂々たる態度でいても、彼はまだ十七の少年なのだ。
抱擁を解き、見つめ合う。
うっすらと青味を帯びた緑の目が、無邪気にゾフィエルを捉えていた。引き寄せられるように顔が近づき、唇が重なるかと思ったとき、手のひらを翳され動きを止める。
ミカエルは眉根を寄せて、言いづらそうに目を逸らした。
「……わりぃけど、それはできねえ。おまえのことがキライなわけじゃなくて、あー、恋? の好きとはちげぇ気がするっつうか…」
ゾフィエルは目を瞬いて思考する。
「つまり君は、口付けは好いた相手のみに許すと」
「……あ? そういうモンじゃねえの?」
「すまんが初めて聞いた」
ゾフィエルに視線を戻したミカエルは、その顔を見て嘘ではないことを感じとり急に恥ずかしくなった。
そういえば、ルシエルにその話をした際、妙な間があったような気がする。けれど彼は、何も言ってくれなかったのだ。
ーーちげぇなら言えっつの!
きっとアクレプン帝国の人々独自の感覚か、東方での常識なのに違いない。ルシエルは色々知っているくせに、あえて真実をミカエルに教えなかったりするのだ。
ミカエルはガシガシ髪を掻く。
耳が熱い。
「今の、聞かなかったことにしてくれ」
「いや、口付けはやめておこう。君はそう思ってきたのだろう? 自分の感覚は大事にすべきだ」
ゾフィエルはクスリと笑い、真っ赤な耳を喰む。
「っ」
「私のベストのボタンを外してくれ」
「ん、」
ゾフィエルの指が背筋を伝って腰へ向かう。ゾクリとして胸を反らすと、突き出すようになった乳首を舐められた。
かすかに感じるじんわりとした感覚。
腰をゆったり撫でる手も興奮を誘う。
ミカエルは息を乱しながらやっとで彼のボタンをすべて外した。
「ありがとう」
ゾフィエルがベストを脱ぎ捨て、シャツも取り払う。現れた身体はしっかり鍛えられており、厚みのある武人らしいものだった。
アクレプンでよく相手をした兵士たちのようだ。
彼らと違うのは、肌の色が白いところだろうか。
「どうかしたか?」
「いや、」
「……やはり最後までやるのはなしにしよう。君も少し反応しているな。扱きあって終わろうか」
「平気だっつの」
ミカエルは言うが否やさっと下履きを脱ぎ去り素っ裸になった。
すらりと伸びる手足。
無駄のない、磨き抜かれた肉体だ。鍛錬を積んでつくられたのではなく、自然につくりあげられた美しさ。華奢でありながらのびのびとして、瑞々しい生命力に満ちている。
芸術的にすら感じられる裸体に、ゾフィエルはしばし見惚れてしまった。
「おい? おまえも出せよ。フェラしてやるから」
「い、いや、自分でできる」
この自然の化身のような少年が、王家の血を継いでいる。ーーそれにしても、なんと明け透けな。
ゾフィエルは与えられるギャップにクラクラしつつ自身を取り出す。
「白い…」
「ああ、……君は、自分で?」
陰毛の話である。
「ンなわけあるかよ。アクレプンでやられた」
「そ、そうか。すまない」
「べつに。気にしてねえよ」
慣れてしまえば、スッキリしていて悪くないのだ。
そのままの勢いで下履きに手を掛けるので、ゾフィエルは思わずその腕を掴んで止める。
ミカエルは不思議そうにゾフィエルを見上げた。
髪を撫で、後頭部に添えられた手のひら。ハグされて、なんとなく彼の背中に腕を回す。
「どうしたんだよ?」
「……君はまだ、十七の少年だったな」
「世間じゃ立派な大人だろ。結婚しててもおかしくねえ」
「ああ」
しなやかな身体。想像以上に細い腰。
ゾフィエルはここへきて、初めてミカエルを一人の少年として認識した気分だった。どんなに強い力があっても、堂々たる態度でいても、彼はまだ十七の少年なのだ。
抱擁を解き、見つめ合う。
うっすらと青味を帯びた緑の目が、無邪気にゾフィエルを捉えていた。引き寄せられるように顔が近づき、唇が重なるかと思ったとき、手のひらを翳され動きを止める。
ミカエルは眉根を寄せて、言いづらそうに目を逸らした。
「……わりぃけど、それはできねえ。おまえのことがキライなわけじゃなくて、あー、恋? の好きとはちげぇ気がするっつうか…」
ゾフィエルは目を瞬いて思考する。
「つまり君は、口付けは好いた相手のみに許すと」
「……あ? そういうモンじゃねえの?」
「すまんが初めて聞いた」
ゾフィエルに視線を戻したミカエルは、その顔を見て嘘ではないことを感じとり急に恥ずかしくなった。
そういえば、ルシエルにその話をした際、妙な間があったような気がする。けれど彼は、何も言ってくれなかったのだ。
ーーちげぇなら言えっつの!
きっとアクレプン帝国の人々独自の感覚か、東方での常識なのに違いない。ルシエルは色々知っているくせに、あえて真実をミカエルに教えなかったりするのだ。
ミカエルはガシガシ髪を掻く。
耳が熱い。
「今の、聞かなかったことにしてくれ」
「いや、口付けはやめておこう。君はそう思ってきたのだろう? 自分の感覚は大事にすべきだ」
ゾフィエルはクスリと笑い、真っ赤な耳を喰む。
「っ」
「私のベストのボタンを外してくれ」
「ん、」
ゾフィエルの指が背筋を伝って腰へ向かう。ゾクリとして胸を反らすと、突き出すようになった乳首を舐められた。
かすかに感じるじんわりとした感覚。
腰をゆったり撫でる手も興奮を誘う。
ミカエルは息を乱しながらやっとで彼のボタンをすべて外した。
「ありがとう」
ゾフィエルがベストを脱ぎ捨て、シャツも取り払う。現れた身体はしっかり鍛えられており、厚みのある武人らしいものだった。
アクレプンでよく相手をした兵士たちのようだ。
彼らと違うのは、肌の色が白いところだろうか。
「どうかしたか?」
「いや、」
「……やはり最後までやるのはなしにしよう。君も少し反応しているな。扱きあって終わろうか」
「平気だっつの」
ミカエルは言うが否やさっと下履きを脱ぎ去り素っ裸になった。
すらりと伸びる手足。
無駄のない、磨き抜かれた肉体だ。鍛錬を積んでつくられたのではなく、自然につくりあげられた美しさ。華奢でありながらのびのびとして、瑞々しい生命力に満ちている。
芸術的にすら感じられる裸体に、ゾフィエルはしばし見惚れてしまった。
「おい? おまえも出せよ。フェラしてやるから」
「い、いや、自分でできる」
この自然の化身のような少年が、王家の血を継いでいる。ーーそれにしても、なんと明け透けな。
ゾフィエルは与えられるギャップにクラクラしつつ自身を取り出す。
「白い…」
「ああ、……君は、自分で?」
陰毛の話である。
「ンなわけあるかよ。アクレプンでやられた」
「そ、そうか。すまない」
「べつに。気にしてねえよ」
慣れてしまえば、スッキリしていて悪くないのだ。
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