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7章.Rex tremendae
お祝い
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「おまえはゆっくりしてろよ」
ミカエルはリビングの彼に言い残して、森にエネルギァを補給できる果実を取りに行った。サクッと採って帰って、食べやすいように剥いてやる。
「至れり尽くせりだ」
ルシエルは小さく苦笑して中の果肉を掴み、パクリと食べた。もぐもぐしながら目を瞬く。
「スゴいな。回復してるのがわかるし美味しい」
「疲れてるほど美味く感じるんだよ」
「へぇ…。てっきり、耐えがたい味なのかと」
「あ? 普通に口に入れたじゃねえか」
旅先のルシエルは、いつもミカエルのリアクションを見て料理を口に運んでいたのだ。
「君が採りに行ってくれたものだからね」
ルシエルはその後も果実をモクモク食べた。その様子を見ていたミカエルは、腰に手を当てる。
「昼メシ、俺が作るでいいだろ」
「もう充分回復したよ」
「あの海が最高のプレゼントだった」
美しく澄んだ緑の瞳が、まっすぐにルシエルを捉えていた。
ルシエルはかすかに目を見開いて、降参したように微笑を浮かべる。
「それじゃあ、昼食は君に任せようかな」
「おう」
ミカエルは頷いてキッチンへ向かう。
ソファに沈んだルシエルが呟いた。
「あーあ、ぜんぜん恰好がつかない」
「ああ?」
「君に素敵な一日を贈りたかったのに、半日で終わってしまった」
「なに言ってんだよ。おまえがいるだけで充分だっつの」
野菜を洗いながら片手間に答えれば、腕で顔を覆って溜め息を吐いている。
「なんだよ」
「……君には敵わないって話」
ミカエルは首を傾げて料理に取りかかった。
森の家で二人で食べる昼食も、二人でする森の散歩も、素晴らしい贈り物のようだ。
木漏れ日のなかでルシエルが笑っている。
それを見るだけでミカエルの胸はじんわり痺れ、世界は輝きを増すようだった。
少し早いが風呂に入って、そろそろ晩飯を作ろうかという時である。玄関ドアをノックする音がして、ミカエルはドアを開けた。
ぬっと差し出された花束。
顔を上げると、ラムエルが微笑んでいる。
「こんばんは。ミカエル、お誕生日おめでとう。本当は昨日のようだけど、君は長らく今日だと思ってきたんだろう?」
彼が身体を斜めにして後ろを向くと、バラキエルがどこか気まずそうに佇んでいた。
「……よぅ。おめでとう」
「……師匠…」
まさか、来てくれるとは思わなかった。
厳つい顔が眉根を寄せ、凄みが増す。
「お前、ちゃんと食ってるか」
「おう。もう平気だ」
バラキエルが言葉を続けようとしたとき、ラムエルの影からジケルがひょっこりと顔を出した。
「おめでとう」
「おぅ、」
「お夕食をご一緒しても?」
ラムエルはお酒と食材の入った袋を抱えている。
「ああ…、いま作るとこだった」
ミカエルはゆめの続きでも見ている気分で三人をリビングへ誘った。
ちょうど風呂上がりのルシエルが廊下の先からやってきて、立ち止まる。
「あら、」
「……どうも」
彼と目が合ったラムエルはにこりと笑む。
「突然お邪魔してすまないね。ええっと、どちら様かな?」
ふわっとした雰囲気でサラッと言うので、ミカエルはズッコケそうになった。一瞬、わかっていると思ったのに。調子の狂う人である。
ルシエルの頬がひくりと動く。ミカエルは頭を掻いて口を開いた。
「ルシエルだ」
「え? …………あ~、うーん……なるほど?」
駄目だ、わかってない。
バラキエルは驚いたような表情で固まっているし、ジケルはじーっとルシエルを見上げている。
「話すと長ぇし、とりあえず座れよ」
ラムエルは首を傾げて食材をキッチンに置き、ソファに腰を下ろした。ジケルとバラキエルが続く。
ふと、ラムエルが思い出したように口を開いた。
「そういえば、来る途中に通った町で、黒い竜をミカエルが倒したと人々が盛り上がっていた。あれはサタンの化身だとか、悪魔だとか」
それと何か関係が?
純粋な好奇心を宿した瞳がミカエルに向けられる。
「俺が作るから」
「……おう」
ルシエルが小さく落としてキッチンへ向かった。ミカエルはとりあえず飲み物を用意し、椅子に腰掛け彼らと向き合う。
ミカエルはリビングの彼に言い残して、森にエネルギァを補給できる果実を取りに行った。サクッと採って帰って、食べやすいように剥いてやる。
「至れり尽くせりだ」
ルシエルは小さく苦笑して中の果肉を掴み、パクリと食べた。もぐもぐしながら目を瞬く。
「スゴいな。回復してるのがわかるし美味しい」
「疲れてるほど美味く感じるんだよ」
「へぇ…。てっきり、耐えがたい味なのかと」
「あ? 普通に口に入れたじゃねえか」
旅先のルシエルは、いつもミカエルのリアクションを見て料理を口に運んでいたのだ。
「君が採りに行ってくれたものだからね」
ルシエルはその後も果実をモクモク食べた。その様子を見ていたミカエルは、腰に手を当てる。
「昼メシ、俺が作るでいいだろ」
「もう充分回復したよ」
「あの海が最高のプレゼントだった」
美しく澄んだ緑の瞳が、まっすぐにルシエルを捉えていた。
ルシエルはかすかに目を見開いて、降参したように微笑を浮かべる。
「それじゃあ、昼食は君に任せようかな」
「おう」
ミカエルは頷いてキッチンへ向かう。
ソファに沈んだルシエルが呟いた。
「あーあ、ぜんぜん恰好がつかない」
「ああ?」
「君に素敵な一日を贈りたかったのに、半日で終わってしまった」
「なに言ってんだよ。おまえがいるだけで充分だっつの」
野菜を洗いながら片手間に答えれば、腕で顔を覆って溜め息を吐いている。
「なんだよ」
「……君には敵わないって話」
ミカエルは首を傾げて料理に取りかかった。
森の家で二人で食べる昼食も、二人でする森の散歩も、素晴らしい贈り物のようだ。
木漏れ日のなかでルシエルが笑っている。
それを見るだけでミカエルの胸はじんわり痺れ、世界は輝きを増すようだった。
少し早いが風呂に入って、そろそろ晩飯を作ろうかという時である。玄関ドアをノックする音がして、ミカエルはドアを開けた。
ぬっと差し出された花束。
顔を上げると、ラムエルが微笑んでいる。
「こんばんは。ミカエル、お誕生日おめでとう。本当は昨日のようだけど、君は長らく今日だと思ってきたんだろう?」
彼が身体を斜めにして後ろを向くと、バラキエルがどこか気まずそうに佇んでいた。
「……よぅ。おめでとう」
「……師匠…」
まさか、来てくれるとは思わなかった。
厳つい顔が眉根を寄せ、凄みが増す。
「お前、ちゃんと食ってるか」
「おう。もう平気だ」
バラキエルが言葉を続けようとしたとき、ラムエルの影からジケルがひょっこりと顔を出した。
「おめでとう」
「おぅ、」
「お夕食をご一緒しても?」
ラムエルはお酒と食材の入った袋を抱えている。
「ああ…、いま作るとこだった」
ミカエルはゆめの続きでも見ている気分で三人をリビングへ誘った。
ちょうど風呂上がりのルシエルが廊下の先からやってきて、立ち止まる。
「あら、」
「……どうも」
彼と目が合ったラムエルはにこりと笑む。
「突然お邪魔してすまないね。ええっと、どちら様かな?」
ふわっとした雰囲気でサラッと言うので、ミカエルはズッコケそうになった。一瞬、わかっていると思ったのに。調子の狂う人である。
ルシエルの頬がひくりと動く。ミカエルは頭を掻いて口を開いた。
「ルシエルだ」
「え? …………あ~、うーん……なるほど?」
駄目だ、わかってない。
バラキエルは驚いたような表情で固まっているし、ジケルはじーっとルシエルを見上げている。
「話すと長ぇし、とりあえず座れよ」
ラムエルは首を傾げて食材をキッチンに置き、ソファに腰を下ろした。ジケルとバラキエルが続く。
ふと、ラムエルが思い出したように口を開いた。
「そういえば、来る途中に通った町で、黒い竜をミカエルが倒したと人々が盛り上がっていた。あれはサタンの化身だとか、悪魔だとか」
それと何か関係が?
純粋な好奇心を宿した瞳がミカエルに向けられる。
「俺が作るから」
「……おう」
ルシエルが小さく落としてキッチンへ向かった。ミカエルはとりあえず飲み物を用意し、椅子に腰掛け彼らと向き合う。
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