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6章.Tuba mirum
移ろう人の
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†††
その日、ミカエルは呼びだしを受け教皇領へ向かった。教皇宮殿にて、出迎えてくれたウリエルから手紙のようなものを渡される。
「……招待状…」
受け取ったミカエルは、また誰か結婚したのかと半目になって中を開いた。
「戴冠式?」
初めて目にする単語に目を瞬く。
「式には聖下も出席される。聖下より王冠を賜ることで、新たな王として認められたことになるんだ」
「へえ」
「君にはまず、聖下の護衛として来てもらう。式が終わったら、ゲストとして自由に過ごして構わない」
それはまた、レリエルからの招待状だった。きっと、フェルナンデルあたりが声を掛けてくれたのだろう。
サクラム王国の王が死去したため、レリエルが新たな王になるという話である。
「サクラムで育ったのはフェルナンデルだって聞いたけど…」
「長子はレリエル殿下だ。先に王位に就かれるのは彼だろう。イファノエの皇帝――彼らの父君はご健在だからな」
フェルナンデルから聞いていたサクラム王国の雰囲気とレリエルが合わず、ミカエルはいまいちピンと来ない。しげしげと招待状を眺めてしまった。
「デビル退治はどうだ」
おもむろに問われ、顔を上げる。
「最近は遭遇してません」
「それは何より」
ウリエルは頷いてミカエルの顔をじっと見た。
「ちゃんと食べてるか?」
「……はい。ウ…隊長こそ」
「任務中でなければ、名前で呼んで構わん」
ウリエルはかすかに目許を緩めて任務に戻っていった。
――そういや、答えなかったな。
彼の姿が扉の向こうに消えた頃、気付いたミカエルだった。
そうして、レリエルの戴冠式、当日。
教皇宮殿に赴いたミカエルは、教皇ボニファティエルが瞬間移動で現れ、驚いた。そんなに強い力があるように感じられないからだ。それに、ボニファティエルが現れたときに感じた波長は――。
「ほぅ、来たか。サクラムに行くのは初めてかの?」
「……はい」
「では、そちは余が連れていってやろうかのぉ」
「瞬間移動、できたんですね」
ボニファティエルが鼻で笑ったとき、宮殿の中からウリエルが走って出てきた。
「やっと来たか」
ボニファティエルはニヤニヤしている。
「……お一人でいきなり瞬間移動されては、警護が追いつきません」
「そちもすれば良かろう。強い力があるのだろう? ええ? ウリエルよ」
「いざというときに、闘える力を、残しておく必要があります」
ボニファティエルはウリエルの言葉をろくに聞かず、ミカエルに手を伸ばそうとした。ミカエルはさりげなくそれを避け、真っ直ぐ目をやる。
「聖下のエネルギァを辿って後から行きます」
すでにシャムシェルらが現地入りしているため、一人で行かせても大丈夫だろうと考えた。
「フンッ、生意気な」
「オソレオオイデス」
「まぁよかろう。もたもたするでないぞ」
「ハイ、セーカ」
ミカエルは半目にならないよう気を付け、テキトーに言ってボニファティエルを先に行かせた。
彼が消えると、ウリエルを見やる。
「教皇の力の波長、あなたとそっくりなのはなぜですか」
「……真実、私の力だからだ」
ウリエルは諦めたように答えた。
それでミカエルは納得する。
「ああやって何も考えないで使われるから、いつも疲れてる?」
「ああ」
「なんで…、自分を警護する人を弱らせる必要があるんですか」
ウリエルはため息を吐く。
「それよりも、瞬間移動などが自在にできて楽しいのだろう。それでご自分が疲れるようなこともないのだから、やりたい放題だ」
「ガキかよ」
思わず口から出てしまう。
ウリエルがこちらを向いて、フッと笑った。
「すまないが、私も連れていってくれないか」
「いいけど、なんでそんな事になってるんだ」
ウリエルは睫毛を伏せ、記憶を辿るように口にする。
「足を洗った代償…、護るための代償か」
ミカエルは目を瞬く。
「代償? 髪切ったのも関係あんの」
ミカエルは髪が長かった頃のウリエルを知らない。
純粋な瞳にまっすぐ見詰められ、ウリエルはかすかに苦笑した。ルシファーは何も話していないのだろう。――きっと、この瞳を護るために。
「……そろそろ行かねば」
「あ? おう」
教皇にグチグチ言われるのはイヤなので、ミカエルはウリエルの手を取り瞬間移動した。
その日、ミカエルは呼びだしを受け教皇領へ向かった。教皇宮殿にて、出迎えてくれたウリエルから手紙のようなものを渡される。
「……招待状…」
受け取ったミカエルは、また誰か結婚したのかと半目になって中を開いた。
「戴冠式?」
初めて目にする単語に目を瞬く。
「式には聖下も出席される。聖下より王冠を賜ることで、新たな王として認められたことになるんだ」
「へえ」
「君にはまず、聖下の護衛として来てもらう。式が終わったら、ゲストとして自由に過ごして構わない」
それはまた、レリエルからの招待状だった。きっと、フェルナンデルあたりが声を掛けてくれたのだろう。
サクラム王国の王が死去したため、レリエルが新たな王になるという話である。
「サクラムで育ったのはフェルナンデルだって聞いたけど…」
「長子はレリエル殿下だ。先に王位に就かれるのは彼だろう。イファノエの皇帝――彼らの父君はご健在だからな」
フェルナンデルから聞いていたサクラム王国の雰囲気とレリエルが合わず、ミカエルはいまいちピンと来ない。しげしげと招待状を眺めてしまった。
「デビル退治はどうだ」
おもむろに問われ、顔を上げる。
「最近は遭遇してません」
「それは何より」
ウリエルは頷いてミカエルの顔をじっと見た。
「ちゃんと食べてるか?」
「……はい。ウ…隊長こそ」
「任務中でなければ、名前で呼んで構わん」
ウリエルはかすかに目許を緩めて任務に戻っていった。
――そういや、答えなかったな。
彼の姿が扉の向こうに消えた頃、気付いたミカエルだった。
そうして、レリエルの戴冠式、当日。
教皇宮殿に赴いたミカエルは、教皇ボニファティエルが瞬間移動で現れ、驚いた。そんなに強い力があるように感じられないからだ。それに、ボニファティエルが現れたときに感じた波長は――。
「ほぅ、来たか。サクラムに行くのは初めてかの?」
「……はい」
「では、そちは余が連れていってやろうかのぉ」
「瞬間移動、できたんですね」
ボニファティエルが鼻で笑ったとき、宮殿の中からウリエルが走って出てきた。
「やっと来たか」
ボニファティエルはニヤニヤしている。
「……お一人でいきなり瞬間移動されては、警護が追いつきません」
「そちもすれば良かろう。強い力があるのだろう? ええ? ウリエルよ」
「いざというときに、闘える力を、残しておく必要があります」
ボニファティエルはウリエルの言葉をろくに聞かず、ミカエルに手を伸ばそうとした。ミカエルはさりげなくそれを避け、真っ直ぐ目をやる。
「聖下のエネルギァを辿って後から行きます」
すでにシャムシェルらが現地入りしているため、一人で行かせても大丈夫だろうと考えた。
「フンッ、生意気な」
「オソレオオイデス」
「まぁよかろう。もたもたするでないぞ」
「ハイ、セーカ」
ミカエルは半目にならないよう気を付け、テキトーに言ってボニファティエルを先に行かせた。
彼が消えると、ウリエルを見やる。
「教皇の力の波長、あなたとそっくりなのはなぜですか」
「……真実、私の力だからだ」
ウリエルは諦めたように答えた。
それでミカエルは納得する。
「ああやって何も考えないで使われるから、いつも疲れてる?」
「ああ」
「なんで…、自分を警護する人を弱らせる必要があるんですか」
ウリエルはため息を吐く。
「それよりも、瞬間移動などが自在にできて楽しいのだろう。それでご自分が疲れるようなこともないのだから、やりたい放題だ」
「ガキかよ」
思わず口から出てしまう。
ウリエルがこちらを向いて、フッと笑った。
「すまないが、私も連れていってくれないか」
「いいけど、なんでそんな事になってるんだ」
ウリエルは睫毛を伏せ、記憶を辿るように口にする。
「足を洗った代償…、護るための代償か」
ミカエルは目を瞬く。
「代償? 髪切ったのも関係あんの」
ミカエルは髪が長かった頃のウリエルを知らない。
純粋な瞳にまっすぐ見詰められ、ウリエルはかすかに苦笑した。ルシファーは何も話していないのだろう。――きっと、この瞳を護るために。
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