138 / 174
6章.Tuba mirum
三人旅
しおりを挟む
三人でのデビル退治の旅は、まるで物見遊山の旅人のようだった。
デビルと遭遇することはなく、ハニエルの名所案内を聞きながら平穏な旅路をゆく日々。
「あっちに樹齢千年のオークの木があるってよ」
「おまえは観光客か」
「いいねえ観光。だいたい、そんなにホイホイ、デビルがいたら堪んないだろ」
デビル退治も任務なはずのハニエルは呑気なものだ。ミカエルの頭にはいつもルシエルがいて、人生に関する問いがあり、彼のように気楽な気分にはなれそうにない。
そのとき、木々の向こうに獣の気配を複数感じた。サンゼルもそちらを向く。
「ちょ、二人してなんだい」
辺りの氣を探ったハニエルも、ようやく気付いたらしい。
「おいおい…、もしかしてオオカミか?」
彼が恐れを含んだ足取りで後ずさりしたのが悪かった。ザリ、と土が鳴り、場の空気が揺れる。
「え、」
動揺したハニエルが恐怖から獣たちへ敵意を抱いたとき、応じるように殺気立った彼らが瞬時に草葉の陰より飛び出した。
ミカエルは舌打ちして剣を構え、走りこんできたオオカミたちを打ち倒す。
サンゼルもいつの間にか両の手に短刀を握って軽やかに倒していた。
「殺してねェだろうな!?」
「平打ちだ」
立ち竦んでいるハニエルと異なり、サンゼルはずいぶん闘い慣れている。獣のように静かで俊敏な身のこなしは、正に暗殺者といった風だった。
そうしてあっという間にオオカミの群れを地に沈めると、ミカエルは苛立ちを露わにハニエルを睨んだ。
「向こうに殺る気がねえことくらい察しろよ」
ハニエルが敵意を向けなければ、オオカミたちは向かって来なかっただろう。
「、わるかった。草陰に光る眼が怖かったんだ。本当に、肝が冷えたよ」
ハニエルは両手を上げて降参ポーズをし、未だに動悸が激しい胸に手を置く。
「頭で解っていても、怖いものは怖い。僕は、君たちと違って闘う能がないんだ」
どうやら本当に恐怖を感じていたらしい彼に、ミカエルは首を傾げた。
「おまえもデビル退治やってんだろ?」
オオカミが怖くて、デビル退治が務まるだろうか。
「ああ、まぁ。闘いはサンゼルの担当さ。僕は補佐役。彼の力を増幅したり…、治癒も多少はできる」
「他人の力を増幅させる?」
そういえば、出会った頃にもそんな事を話していた気がする。
「そうとも。こういった任務はたしかに、僕一人ではできないことだ。けれども、僕らの任務は、そればかりではないからね」
冷や汗を拭うハニエルはそこでようやく息を吐き、落ち着きを取り戻したようだった。
「殺人とか?」
ミカエルが投げやりに言うと、木陰に佇むサンゼルが。
「俺たちの所属は暗部。任務は、汚れ仕事全般だ」
暗い瞳で鬱蒼と口にした。
チラとハニエルを窺うと、かすかに腕を広げたものの、言葉もないようだった。
ミカエルはサンゼルに目を戻す。
「なるほどな。他にどんな事してるんだ?」
「知らない方がいい事すべて」
要領を得ない答えに眉根が寄る。
彼らも教会の人間だ。つまり、彼らに仕事を与えているのは教会なのだ。その闇は、思った以上に深いのかもしれない。
「僕らは裁きの一役を担ってるんだよ。世のため、人のためさ」
ハニエルが言うと実に胡散臭く聞こえる。ミカエルは半目になってしまった。
デビルと遭遇することはなく、ハニエルの名所案内を聞きながら平穏な旅路をゆく日々。
「あっちに樹齢千年のオークの木があるってよ」
「おまえは観光客か」
「いいねえ観光。だいたい、そんなにホイホイ、デビルがいたら堪んないだろ」
デビル退治も任務なはずのハニエルは呑気なものだ。ミカエルの頭にはいつもルシエルがいて、人生に関する問いがあり、彼のように気楽な気分にはなれそうにない。
そのとき、木々の向こうに獣の気配を複数感じた。サンゼルもそちらを向く。
「ちょ、二人してなんだい」
辺りの氣を探ったハニエルも、ようやく気付いたらしい。
「おいおい…、もしかしてオオカミか?」
彼が恐れを含んだ足取りで後ずさりしたのが悪かった。ザリ、と土が鳴り、場の空気が揺れる。
「え、」
動揺したハニエルが恐怖から獣たちへ敵意を抱いたとき、応じるように殺気立った彼らが瞬時に草葉の陰より飛び出した。
ミカエルは舌打ちして剣を構え、走りこんできたオオカミたちを打ち倒す。
サンゼルもいつの間にか両の手に短刀を握って軽やかに倒していた。
「殺してねェだろうな!?」
「平打ちだ」
立ち竦んでいるハニエルと異なり、サンゼルはずいぶん闘い慣れている。獣のように静かで俊敏な身のこなしは、正に暗殺者といった風だった。
そうしてあっという間にオオカミの群れを地に沈めると、ミカエルは苛立ちを露わにハニエルを睨んだ。
「向こうに殺る気がねえことくらい察しろよ」
ハニエルが敵意を向けなければ、オオカミたちは向かって来なかっただろう。
「、わるかった。草陰に光る眼が怖かったんだ。本当に、肝が冷えたよ」
ハニエルは両手を上げて降参ポーズをし、未だに動悸が激しい胸に手を置く。
「頭で解っていても、怖いものは怖い。僕は、君たちと違って闘う能がないんだ」
どうやら本当に恐怖を感じていたらしい彼に、ミカエルは首を傾げた。
「おまえもデビル退治やってんだろ?」
オオカミが怖くて、デビル退治が務まるだろうか。
「ああ、まぁ。闘いはサンゼルの担当さ。僕は補佐役。彼の力を増幅したり…、治癒も多少はできる」
「他人の力を増幅させる?」
そういえば、出会った頃にもそんな事を話していた気がする。
「そうとも。こういった任務はたしかに、僕一人ではできないことだ。けれども、僕らの任務は、そればかりではないからね」
冷や汗を拭うハニエルはそこでようやく息を吐き、落ち着きを取り戻したようだった。
「殺人とか?」
ミカエルが投げやりに言うと、木陰に佇むサンゼルが。
「俺たちの所属は暗部。任務は、汚れ仕事全般だ」
暗い瞳で鬱蒼と口にした。
チラとハニエルを窺うと、かすかに腕を広げたものの、言葉もないようだった。
ミカエルはサンゼルに目を戻す。
「なるほどな。他にどんな事してるんだ?」
「知らない方がいい事すべて」
要領を得ない答えに眉根が寄る。
彼らも教会の人間だ。つまり、彼らに仕事を与えているのは教会なのだ。その闇は、思った以上に深いのかもしれない。
「僕らは裁きの一役を担ってるんだよ。世のため、人のためさ」
ハニエルが言うと実に胡散臭く聞こえる。ミカエルは半目になってしまった。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。
転生先のぽっちゃり王子はただいま謹慎中につき各位ご配慮ねがいます!
梅村香子
BL
バカ王子の名をほしいままにしていたロベルティア王国のぽっちゃり王子テオドール。
あまりのわがままぶりに父王にとうとう激怒され、城の裏手にある館で謹慎していたある日。
突然、全く違う世界の日本人の記憶が自身の中に現れてしまった。
何が何だか分からないけど、どうやらそれは前世の自分の記憶のようで……?
人格も二人分が混ざり合い、不思議な現象に戸惑うも、一つだけ確かなことがある。
僕って最低最悪な王子じゃん!?
このままだと、破滅的未来しか残ってないし!
心を入れ替えてダイエットに勉強にと忙しい王子に、何やらきな臭い陰謀の影が見えはじめ――!?
これはもう、謹慎前にののしりまくって拒絶した専属護衛騎士に守ってもらうしかないじゃない!?
前世の記憶がよみがえった横暴王子の危機一髪な人生やりなおしストーリー!
騎士×王子の王道カップリングでお送りします。
第9回BL小説大賞の奨励賞をいただきました。
本当にありがとうございます!!
※本作に20歳未満の飲酒シーンが含まれます。作中の世界では飲酒可能年齢であるという設定で描写しております。実際の20歳未満による飲酒を推奨・容認する意図は全くありません。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。


もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる