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6章.Tuba mirum
三人旅
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三人でのデビル退治の旅は、まるで物見遊山の旅人のようだった。
デビルと遭遇することはなく、ハニエルの名所案内を聞きながら平穏な旅路をゆく日々。
「あっちに樹齢千年のオークの木があるってよ」
「おまえは観光客か」
「いいねえ観光。だいたい、そんなにホイホイ、デビルがいたら堪んないだろ」
デビル退治も任務なはずのハニエルは呑気なものだ。ミカエルの頭にはいつもルシエルがいて、人生に関する問いがあり、彼のように気楽な気分にはなれそうにない。
そのとき、木々の向こうに獣の気配を複数感じた。サンゼルもそちらを向く。
「ちょ、二人してなんだい」
辺りの氣を探ったハニエルも、ようやく気付いたらしい。
「おいおい…、もしかしてオオカミか?」
彼が恐れを含んだ足取りで後ずさりしたのが悪かった。ザリ、と土が鳴り、場の空気が揺れる。
「え、」
動揺したハニエルが恐怖から獣たちへ敵意を抱いたとき、応じるように殺気立った彼らが瞬時に草葉の陰より飛び出した。
ミカエルは舌打ちして剣を構え、走りこんできたオオカミたちを打ち倒す。
サンゼルもいつの間にか両の手に短刀を握って軽やかに倒していた。
「殺してねェだろうな!?」
「平打ちだ」
立ち竦んでいるハニエルと異なり、サンゼルはずいぶん闘い慣れている。獣のように静かで俊敏な身のこなしは、正に暗殺者といった風だった。
そうしてあっという間にオオカミの群れを地に沈めると、ミカエルは苛立ちを露わにハニエルを睨んだ。
「向こうに殺る気がねえことくらい察しろよ」
ハニエルが敵意を向けなければ、オオカミたちは向かって来なかっただろう。
「、わるかった。草陰に光る眼が怖かったんだ。本当に、肝が冷えたよ」
ハニエルは両手を上げて降参ポーズをし、未だに動悸が激しい胸に手を置く。
「頭で解っていても、怖いものは怖い。僕は、君たちと違って闘う能がないんだ」
どうやら本当に恐怖を感じていたらしい彼に、ミカエルは首を傾げた。
「おまえもデビル退治やってんだろ?」
オオカミが怖くて、デビル退治が務まるだろうか。
「ああ、まぁ。闘いはサンゼルの担当さ。僕は補佐役。彼の力を増幅したり…、治癒も多少はできる」
「他人の力を増幅させる?」
そういえば、出会った頃にもそんな事を話していた気がする。
「そうとも。こういった任務はたしかに、僕一人ではできないことだ。けれども、僕らの任務は、そればかりではないからね」
冷や汗を拭うハニエルはそこでようやく息を吐き、落ち着きを取り戻したようだった。
「殺人とか?」
ミカエルが投げやりに言うと、木陰に佇むサンゼルが。
「俺たちの所属は暗部。任務は、汚れ仕事全般だ」
暗い瞳で鬱蒼と口にした。
チラとハニエルを窺うと、かすかに腕を広げたものの、言葉もないようだった。
ミカエルはサンゼルに目を戻す。
「なるほどな。他にどんな事してるんだ?」
「知らない方がいい事すべて」
要領を得ない答えに眉根が寄る。
彼らも教会の人間だ。つまり、彼らに仕事を与えているのは教会なのだ。その闇は、思った以上に深いのかもしれない。
「僕らは裁きの一役を担ってるんだよ。世のため、人のためさ」
ハニエルが言うと実に胡散臭く聞こえる。ミカエルは半目になってしまった。
デビルと遭遇することはなく、ハニエルの名所案内を聞きながら平穏な旅路をゆく日々。
「あっちに樹齢千年のオークの木があるってよ」
「おまえは観光客か」
「いいねえ観光。だいたい、そんなにホイホイ、デビルがいたら堪んないだろ」
デビル退治も任務なはずのハニエルは呑気なものだ。ミカエルの頭にはいつもルシエルがいて、人生に関する問いがあり、彼のように気楽な気分にはなれそうにない。
そのとき、木々の向こうに獣の気配を複数感じた。サンゼルもそちらを向く。
「ちょ、二人してなんだい」
辺りの氣を探ったハニエルも、ようやく気付いたらしい。
「おいおい…、もしかしてオオカミか?」
彼が恐れを含んだ足取りで後ずさりしたのが悪かった。ザリ、と土が鳴り、場の空気が揺れる。
「え、」
動揺したハニエルが恐怖から獣たちへ敵意を抱いたとき、応じるように殺気立った彼らが瞬時に草葉の陰より飛び出した。
ミカエルは舌打ちして剣を構え、走りこんできたオオカミたちを打ち倒す。
サンゼルもいつの間にか両の手に短刀を握って軽やかに倒していた。
「殺してねェだろうな!?」
「平打ちだ」
立ち竦んでいるハニエルと異なり、サンゼルはずいぶん闘い慣れている。獣のように静かで俊敏な身のこなしは、正に暗殺者といった風だった。
そうしてあっという間にオオカミの群れを地に沈めると、ミカエルは苛立ちを露わにハニエルを睨んだ。
「向こうに殺る気がねえことくらい察しろよ」
ハニエルが敵意を向けなければ、オオカミたちは向かって来なかっただろう。
「、わるかった。草陰に光る眼が怖かったんだ。本当に、肝が冷えたよ」
ハニエルは両手を上げて降参ポーズをし、未だに動悸が激しい胸に手を置く。
「頭で解っていても、怖いものは怖い。僕は、君たちと違って闘う能がないんだ」
どうやら本当に恐怖を感じていたらしい彼に、ミカエルは首を傾げた。
「おまえもデビル退治やってんだろ?」
オオカミが怖くて、デビル退治が務まるだろうか。
「ああ、まぁ。闘いはサンゼルの担当さ。僕は補佐役。彼の力を増幅したり…、治癒も多少はできる」
「他人の力を増幅させる?」
そういえば、出会った頃にもそんな事を話していた気がする。
「そうとも。こういった任務はたしかに、僕一人ではできないことだ。けれども、僕らの任務は、そればかりではないからね」
冷や汗を拭うハニエルはそこでようやく息を吐き、落ち着きを取り戻したようだった。
「殺人とか?」
ミカエルが投げやりに言うと、木陰に佇むサンゼルが。
「俺たちの所属は暗部。任務は、汚れ仕事全般だ」
暗い瞳で鬱蒼と口にした。
チラとハニエルを窺うと、かすかに腕を広げたものの、言葉もないようだった。
ミカエルはサンゼルに目を戻す。
「なるほどな。他にどんな事してるんだ?」
「知らない方がいい事すべて」
要領を得ない答えに眉根が寄る。
彼らも教会の人間だ。つまり、彼らに仕事を与えているのは教会なのだ。その闇は、思った以上に深いのかもしれない。
「僕らは裁きの一役を担ってるんだよ。世のため、人のためさ」
ハニエルが言うと実に胡散臭く聞こえる。ミカエルは半目になってしまった。
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