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6章.Tuba mirum
白雨
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「なんなんだよッ」
ミカエルは足許にあった石を思いっきり蹴り飛ばす。
――デビル。
思い出して駆けた。
あちらもミカエルの方へ向かって来る。すぐに遭遇し、渾身の力を籠めて剣を振った。
ジョワン
不思議な音を響かせ、デビルが光の粒となる。
初めてデビルと遭遇したあの夜、師匠に滅っせられて光となる時に聞いた、耳障りな声のようなものは聞こえない。
「剣によるのか…?」
それにしても、なんと他愛ないことか。簡単すぎて笑ってしまう。そういえば、自身の手でデビルを倒したのはこれが初めてだ。
――いつもあいつが消しちまって…。
ルシエルがいなくなってから、ずっと頭の片隅に彼がいた。しかしあちらは、ミカエルのことなどスッパリ忘れて灰色頭とヨロシクやっていたわけだ。しかも、デビルを作りだすことに加担までしていた。一緒にいたときは、見つけた瞬間、殺気を放って滅していたのに――。
会えたのに、会えた気がしない。
――俺、会ってどうするつもりだったんだ。
会って話せば、これまで通り、一緒に暮らせると思っていた?
鼻で笑ってしまう。
バラキエルが家を出て行って、ルシエルも行ってしまった。
『キミは強くて純粋で、最初の光みたいだ』
ふと頭を過った懐かしい声。聖学校で知り合ったサリエルが言った言葉だ。
――ぜんぜん強くねえよ。
彼は親に捨てられ、ラファエルと出会って聖学校に来るまで一人で生きてきたと言う。――ひとりで。彼のほうが、よっぽど強い。
ミカエルは荒廃した地面に目を落とす。
ポツリポツリと雫が落ちて、ザーッと雨が降ってきた。
「うわっ、スゴい雨だな。君、こんな所で何してるんだい。ずぶ濡れじゃないか」
どれだけ経ったか、唐突にハニエルの声がした。
彼らはミカエルのエネルギァを頼りに、瞬間移動で来たのだろう。ぼぅっと振り返ると、サンゼルに腕を掴まれた。
「さっさと来い」
彼は目についた店の軒下までミカエルの腕を引っ張って歩いた。
「宿屋の場所を聞いてくるよ」
ハニエルが店内に入る。
サンゼルは何も言わない。
ドアが開いて、すぐにハニエルが戻ってきた。
「そこの通りを入って二つ目の角を右に曲がるとあるってさ。少し弱まるまで、ここで雨宿りしようか」
「そんなすぐには止まねえよ」
ミカエルはボソリと答える。
「先輩、宿屋に行きましょう」
「……そうしよう」
そうして、三人は雨の中を走った。
宿屋に着くと、運良く三人部屋が空いており、すぐに部屋へ入れた。
「お前はシャワーを浴びるのが先だ」
サンゼルに背中を押され、ミカエルはシャワールームへ押し込まれてしまった。
熱いお湯が染み渡る。
烏の行水で済ませてタオルを頭に乗せたまま部屋に戻ると、二人の視線を感じた。
「君、本当のところはどうなんだい。ボディーガードの彼さ。ぜんぜん来ないじゃないか」
「……知らねえよ」
ミカエルはうつ伏せにベッドに倒れ込む。
「シャワー浴びてきます」
サンゼルがポソリと言って部屋を出た。
ため息を落とし、ハニエルがベッドに座る。そのうちサンゼルが戻り、ハニエルが部屋を出ていった。
向こうのベッドで、サンゼルが長い濡れ髪を拭いている。湿った鶯色の長い髪。聖学校にいた頃の彼がぼんやり浮かぶ。
「なぁ、なんで修道士やってんだ」
サンゼルは手を止め、ミカエルの方をチラと見た。
「……大切な記憶を、思い出したから」
胸が痛くなるような、切ない声だった。
ミカエルは目蓋を閉じる。
成り行きで衛兵になって、今も続けているのは、それが一番丸く収まるからだ。こうしていれば、バラキエルに迷惑をかけることもない。
――俺も、考えねえとな。
寝て起きれば明日になって、命が尽きるまで終わらない。生きる目的を見失っても、大切なものがわからなくなっても、明日は来るのだ。
命を懸けて守ってくれた存在を思うと、惰性で日々を送るのは忍びなかった。
ミカエルは足許にあった石を思いっきり蹴り飛ばす。
――デビル。
思い出して駆けた。
あちらもミカエルの方へ向かって来る。すぐに遭遇し、渾身の力を籠めて剣を振った。
ジョワン
不思議な音を響かせ、デビルが光の粒となる。
初めてデビルと遭遇したあの夜、師匠に滅っせられて光となる時に聞いた、耳障りな声のようなものは聞こえない。
「剣によるのか…?」
それにしても、なんと他愛ないことか。簡単すぎて笑ってしまう。そういえば、自身の手でデビルを倒したのはこれが初めてだ。
――いつもあいつが消しちまって…。
ルシエルがいなくなってから、ずっと頭の片隅に彼がいた。しかしあちらは、ミカエルのことなどスッパリ忘れて灰色頭とヨロシクやっていたわけだ。しかも、デビルを作りだすことに加担までしていた。一緒にいたときは、見つけた瞬間、殺気を放って滅していたのに――。
会えたのに、会えた気がしない。
――俺、会ってどうするつもりだったんだ。
会って話せば、これまで通り、一緒に暮らせると思っていた?
鼻で笑ってしまう。
バラキエルが家を出て行って、ルシエルも行ってしまった。
『キミは強くて純粋で、最初の光みたいだ』
ふと頭を過った懐かしい声。聖学校で知り合ったサリエルが言った言葉だ。
――ぜんぜん強くねえよ。
彼は親に捨てられ、ラファエルと出会って聖学校に来るまで一人で生きてきたと言う。――ひとりで。彼のほうが、よっぽど強い。
ミカエルは荒廃した地面に目を落とす。
ポツリポツリと雫が落ちて、ザーッと雨が降ってきた。
「うわっ、スゴい雨だな。君、こんな所で何してるんだい。ずぶ濡れじゃないか」
どれだけ経ったか、唐突にハニエルの声がした。
彼らはミカエルのエネルギァを頼りに、瞬間移動で来たのだろう。ぼぅっと振り返ると、サンゼルに腕を掴まれた。
「さっさと来い」
彼は目についた店の軒下までミカエルの腕を引っ張って歩いた。
「宿屋の場所を聞いてくるよ」
ハニエルが店内に入る。
サンゼルは何も言わない。
ドアが開いて、すぐにハニエルが戻ってきた。
「そこの通りを入って二つ目の角を右に曲がるとあるってさ。少し弱まるまで、ここで雨宿りしようか」
「そんなすぐには止まねえよ」
ミカエルはボソリと答える。
「先輩、宿屋に行きましょう」
「……そうしよう」
そうして、三人は雨の中を走った。
宿屋に着くと、運良く三人部屋が空いており、すぐに部屋へ入れた。
「お前はシャワーを浴びるのが先だ」
サンゼルに背中を押され、ミカエルはシャワールームへ押し込まれてしまった。
熱いお湯が染み渡る。
烏の行水で済ませてタオルを頭に乗せたまま部屋に戻ると、二人の視線を感じた。
「君、本当のところはどうなんだい。ボディーガードの彼さ。ぜんぜん来ないじゃないか」
「……知らねえよ」
ミカエルはうつ伏せにベッドに倒れ込む。
「シャワー浴びてきます」
サンゼルがポソリと言って部屋を出た。
ため息を落とし、ハニエルがベッドに座る。そのうちサンゼルが戻り、ハニエルが部屋を出ていった。
向こうのベッドで、サンゼルが長い濡れ髪を拭いている。湿った鶯色の長い髪。聖学校にいた頃の彼がぼんやり浮かぶ。
「なぁ、なんで修道士やってんだ」
サンゼルは手を止め、ミカエルの方をチラと見た。
「……大切な記憶を、思い出したから」
胸が痛くなるような、切ない声だった。
ミカエルは目蓋を閉じる。
成り行きで衛兵になって、今も続けているのは、それが一番丸く収まるからだ。こうしていれば、バラキエルに迷惑をかけることもない。
――俺も、考えねえとな。
寝て起きれば明日になって、命が尽きるまで終わらない。生きる目的を見失っても、大切なものがわからなくなっても、明日は来るのだ。
命を懸けて守ってくれた存在を思うと、惰性で日々を送るのは忍びなかった。
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