130 / 174
5章.Dies irae
会いたい
しおりを挟む
――もう一度、ルシに会いたい。
ミカエルは目を閉じてルシエルの波長を捉えようとした。
集中してもわからない。ルシエルがわからないようにしているのだろう。
顔を上げ、まっすぐにアズラエルを見る。
「おまえは色んな所に行ったことがあるんだよな」
突然の質問に動じることなく、アズラエルは微笑を浮かべた。
「それはもう、古今東西」
「頼みがある」
ミカエルは凛とした眼差しで彼を捉えたまま、ルシエルと再会したい旨を語った。
「探し人の情報と、移動の手伝い。二点のご依頼ということですね」
「ああ」
「依頼料の請求先は貴方で?」
「……ああ」
ミカエルは一瞬、言葉を失った。費用について、まったく頭になかったのだ。
「金ならある」
王権下でのデビル退治を辞めたとき、報酬としてたくさんの金貨をもらった。それに、今は教皇庁から報酬を得ている。
「では、後ほど請求します」
「おう」
「これをお持ちください」
アズラエルがミカエルの手のひらに乗せたのは、鉱物を紐で吊るしたネックレスだった。
「何かありましたら、こちらに触れて私の名をお呼びください」
「ツーコーと同じ感じか?」
「会話はできません。呼ばれたら参ります。それでは、幸運を」
社交辞令の声に見送られ、ミカエルは振り返ることなく歩み出す。
黙々と足を動かし続け、山頂付近まで来てほぅと息を吐きだした。
「ミカ、」
不意に聞こえた涼やかな声。ゾフィエルが手を上げやって来る。辺りを見渡し、笑みを溢した。
「見晴らしがいいな」
「おう」
眼下に望む町や田畑に草原。向こうの山々もよく見える。
「……彼はまだ戻らないか」
「……ああ」
「そうか…」
ゾフィエルは心配して来てくれたのかもしれない。
「さっき、アズラエルと会った。ルシを探してほしいって頼んだぜ」
「彼の居場所はわからないんだな」
「おう。けど、ぜってぇ見つけて、また会ってやる」
クッと口角を上げると、ゾフィエルは安心したように微笑み、頷いた。
「おまえは相変わらず忙しそうだな」
「ああ…、次はナンバラ王国へ行く。先王の血を継ぐ者が幽閉されてな。彼を助けに行くんだ」
「へえ。人助けか」
意外に思っていると、ゾフィエルは苦笑する。
「君の想像通りだ。政策のためさ。ナンバラは、サクラムとブランリスの間にある小国でな。王位を狙っている者はサクラム寄りなんだ」
ナンバラ王国は、跡継ぎ問題で大臣たちの意見が割れ、激しい内乱が起こっているらしい。
なんでも、「息子を後継に」と言い残して女王が亡くなったのだが、女王の夫なる人物が再婚した女性が野心家で、自分たちの間に生まれた子に王位を継がせようとしているのだとか。
「……ブランリスとしては、こっち寄りの王様でいてほしいってことか」
「ああ。正当なる後継者は、ブランリス王家の遠縁にあたるしな。ちなみに、彼を幽閉した父親はサクラム出身だ」
ナンバラ王国には、王ヨハエルも向かうらしい。戦場に強いサクラム王も出てくるに違いないとのこと。それはフェルナンデルやレリエルの祖父にあたる人物だ。ちなみに彼らの父親は、イファノエ帝国の皇帝である。
「言っちまえば、ブランリスとサクラムの王家同士が戦する感じだな」
「その通りだ。お二方には因縁があってな」
「因縁?」
「もともと馬が合わないらしいが、過去には女性を取り合って戦になりかけた」
「……へえ」
「それが君の母君だ」
ミカエルは目を瞬いた。
「そういうわけで、少しの間、すぐには君のところへ来られなくなる」
「おう」
「ではな」
「なぁ、」
いつものようにサラッと瞬間移動しようとしたゾフィエルを引きとめる。ミカエルは、小首を傾げて言った。
「おまえも闘うんだろ。力の融合、したほうがいいんじゃね?」
「……いいのか?」
「……おう」
ゾフィエルはかすかに笑んでミカエルを抱きしめた。
「送るぞ」
「ん、」
黄金色の波が押し寄せる。
この恍惚とした感覚は、望まない体験で知ったものより深く内側から湧き出るようだ。心地良く、穏やかに満たされていく――。
満たされれば自然と溢れ、エネルギァは彼へ向かった。ミカエルは心地良さのなか、混じり合って一つになる感覚に身を任せる。
「……行ってくる」
「ああ」
緑味を帯びた群青色の瞳と近距離で見詰め合う。
ミカエルの頬をそっと撫で、ゾフィエルは瞬間移動で消えた。
ミカエルは目を閉じてルシエルの波長を捉えようとした。
集中してもわからない。ルシエルがわからないようにしているのだろう。
顔を上げ、まっすぐにアズラエルを見る。
「おまえは色んな所に行ったことがあるんだよな」
突然の質問に動じることなく、アズラエルは微笑を浮かべた。
「それはもう、古今東西」
「頼みがある」
ミカエルは凛とした眼差しで彼を捉えたまま、ルシエルと再会したい旨を語った。
「探し人の情報と、移動の手伝い。二点のご依頼ということですね」
「ああ」
「依頼料の請求先は貴方で?」
「……ああ」
ミカエルは一瞬、言葉を失った。費用について、まったく頭になかったのだ。
「金ならある」
王権下でのデビル退治を辞めたとき、報酬としてたくさんの金貨をもらった。それに、今は教皇庁から報酬を得ている。
「では、後ほど請求します」
「おう」
「これをお持ちください」
アズラエルがミカエルの手のひらに乗せたのは、鉱物を紐で吊るしたネックレスだった。
「何かありましたら、こちらに触れて私の名をお呼びください」
「ツーコーと同じ感じか?」
「会話はできません。呼ばれたら参ります。それでは、幸運を」
社交辞令の声に見送られ、ミカエルは振り返ることなく歩み出す。
黙々と足を動かし続け、山頂付近まで来てほぅと息を吐きだした。
「ミカ、」
不意に聞こえた涼やかな声。ゾフィエルが手を上げやって来る。辺りを見渡し、笑みを溢した。
「見晴らしがいいな」
「おう」
眼下に望む町や田畑に草原。向こうの山々もよく見える。
「……彼はまだ戻らないか」
「……ああ」
「そうか…」
ゾフィエルは心配して来てくれたのかもしれない。
「さっき、アズラエルと会った。ルシを探してほしいって頼んだぜ」
「彼の居場所はわからないんだな」
「おう。けど、ぜってぇ見つけて、また会ってやる」
クッと口角を上げると、ゾフィエルは安心したように微笑み、頷いた。
「おまえは相変わらず忙しそうだな」
「ああ…、次はナンバラ王国へ行く。先王の血を継ぐ者が幽閉されてな。彼を助けに行くんだ」
「へえ。人助けか」
意外に思っていると、ゾフィエルは苦笑する。
「君の想像通りだ。政策のためさ。ナンバラは、サクラムとブランリスの間にある小国でな。王位を狙っている者はサクラム寄りなんだ」
ナンバラ王国は、跡継ぎ問題で大臣たちの意見が割れ、激しい内乱が起こっているらしい。
なんでも、「息子を後継に」と言い残して女王が亡くなったのだが、女王の夫なる人物が再婚した女性が野心家で、自分たちの間に生まれた子に王位を継がせようとしているのだとか。
「……ブランリスとしては、こっち寄りの王様でいてほしいってことか」
「ああ。正当なる後継者は、ブランリス王家の遠縁にあたるしな。ちなみに、彼を幽閉した父親はサクラム出身だ」
ナンバラ王国には、王ヨハエルも向かうらしい。戦場に強いサクラム王も出てくるに違いないとのこと。それはフェルナンデルやレリエルの祖父にあたる人物だ。ちなみに彼らの父親は、イファノエ帝国の皇帝である。
「言っちまえば、ブランリスとサクラムの王家同士が戦する感じだな」
「その通りだ。お二方には因縁があってな」
「因縁?」
「もともと馬が合わないらしいが、過去には女性を取り合って戦になりかけた」
「……へえ」
「それが君の母君だ」
ミカエルは目を瞬いた。
「そういうわけで、少しの間、すぐには君のところへ来られなくなる」
「おう」
「ではな」
「なぁ、」
いつものようにサラッと瞬間移動しようとしたゾフィエルを引きとめる。ミカエルは、小首を傾げて言った。
「おまえも闘うんだろ。力の融合、したほうがいいんじゃね?」
「……いいのか?」
「……おう」
ゾフィエルはかすかに笑んでミカエルを抱きしめた。
「送るぞ」
「ん、」
黄金色の波が押し寄せる。
この恍惚とした感覚は、望まない体験で知ったものより深く内側から湧き出るようだ。心地良く、穏やかに満たされていく――。
満たされれば自然と溢れ、エネルギァは彼へ向かった。ミカエルは心地良さのなか、混じり合って一つになる感覚に身を任せる。
「……行ってくる」
「ああ」
緑味を帯びた群青色の瞳と近距離で見詰め合う。
ミカエルの頬をそっと撫で、ゾフィエルは瞬間移動で消えた。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
転生先のぽっちゃり王子はただいま謹慎中につき各位ご配慮ねがいます!
梅村香子
BL
バカ王子の名をほしいままにしていたロベルティア王国のぽっちゃり王子テオドール。
あまりのわがままぶりに父王にとうとう激怒され、城の裏手にある館で謹慎していたある日。
突然、全く違う世界の日本人の記憶が自身の中に現れてしまった。
何が何だか分からないけど、どうやらそれは前世の自分の記憶のようで……?
人格も二人分が混ざり合い、不思議な現象に戸惑うも、一つだけ確かなことがある。
僕って最低最悪な王子じゃん!?
このままだと、破滅的未来しか残ってないし!
心を入れ替えてダイエットに勉強にと忙しい王子に、何やらきな臭い陰謀の影が見えはじめ――!?
これはもう、謹慎前にののしりまくって拒絶した専属護衛騎士に守ってもらうしかないじゃない!?
前世の記憶がよみがえった横暴王子の危機一髪な人生やりなおしストーリー!
騎士×王子の王道カップリングでお送りします。
第9回BL小説大賞の奨励賞をいただきました。
本当にありがとうございます!!
※本作に20歳未満の飲酒シーンが含まれます。作中の世界では飲酒可能年齢であるという設定で描写しております。実際の20歳未満による飲酒を推奨・容認する意図は全くありません。

淫愛家族
箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭

もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

モブらしいので目立たないよう逃げ続けます
餅粉
BL
ある日目覚めると見慣れた天井に違和感を覚えた。そしてどうやら僕ばモブという存存在らしい。多分僕には前世の記憶らしきものがあると思う。
まぁ、モブはモブらしく目立たないようにしよう。
モブというものはあまりわからないがでも目立っていい存在ではないということだけはわかる。そう、目立たぬよう……目立たぬよう………。
「アルウィン、君が好きだ」
「え、お断りします」
「……王子命令だ、私と付き合えアルウィン」
目立たぬように過ごすつもりが何故か第二王子に執着されています。
ざまぁ要素あるかも………しれませんね
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる