125 / 174
5章.Dies irae
先輩方
しおりを挟む
教皇領の門番は顔パスだ。ミカエルはそのままスムーズに教皇がいる宮殿へ向かった。
「やっ、ミカエル」
途中、大通りで声を掛けてきたのは、ウリエルの推薦で衛兵になったというシャムシェルだった。ピンクゴールドの髪を三つ編みにしている。ちょっとタレ目な瞳を穏やかに細める彼は、いつも楽しそうである。
聞いたときには驚いたものだが、シャムシェルはウリエルのバディだ。そして、ミカエルの先輩なのだった。
「今日は報告に?」
「はい」
「ご苦労さまだね。……何かあった? 浮かない顔だ」
笑顔が引っ込み、琥珀色に近い瞳がじっとミカエルを見詰める。
ミカエルは肩をすくめた。
「悪魔崇拝の人たちに遭遇して」
「遭遇して?」
「儀式の途中で乱入して、」
「乱入!?」
シャムシェルが身を乗りだして聞いてくるので、ミカエルは一連の出来事を語ることになった。
「それは大変だったね。君たちやその子が無事でよかった」
「はい」
頷けば、シャムシェルは腰に手を当てる。
「君たちが強いのは知っているけど。やつら、何をするかわからないんだ。次があったら乗りこむ前に連絡するんだよ。ツーコー、持ってるだろ? 赤い豹あたりが応援に駆けつけるはずさ」
通信用鉱石。通称、ツーコー。それは平たく透明な鉱物が核になっている機器で、それを持つ者と会話ができる。いつかの洞窟で衛兵が使っていた物だ。
「赤い豹?」
ミカエルが首を傾げると、シャムシェルは目を瞬いた。どうやら、赤い豹は誰もが知っているほどの有名人らしい。
「デビル関連の精鋭部隊の部隊長殿。チャムエルって名前だよ。君も会ったことがあるんじゃないかな。長い赤髪をポニーテールにしてる」
「ああ…」
何度か現場で鉢合わせになった人だ。
「彼のお兄さんは枢機卿でね、セラフィエルっていうんだけど。君も会うことがあるかもね。あの赤髪を見れば、シュイツ出身だって一目でわかる。シュイツの人は強いんだ」
そういえば、ヨハエルが先の戦でシュイツの傭兵を雇ったのどうのと、ラジエルが話していた。
シャムシェルはミカエルに並んで教皇宮殿へ向け歩き出す。ミカエルはふと気になって聞いてみた。
「ウリエル…隊長、ずっと調子が良くなさそうだけど、なんでですか」
「うーん、それは僕も気になってるところだよ。ご…隊長は何も話してくれないから」
「バディなのに?」
「……ね。ああ、それじゃあ、僕はこっちだから」
シャムシェルは軽く手を上げ、曲がり角を曲がって行った。ミカエルは通い慣れた廊下を進み、螺旋階段をぐるぐる上る。教皇のいる部屋の前には、今日も衛兵が立っていた。
すっと佇む誠実そうな青年の名前はハスディエル。シャムシェルと同じく、ウリエルの推薦で来たらしい。
「おつかれ」
「おつかれデス」
淡い草色の髪。穏やかな灰青の瞳はいつもまっすぐにミカエルを捉える。彼の空気感が、ミカエルには心地良かった。
サクッと教皇への報告を済ませ、ミカエルは部屋を出る。
「君もラファエルさんから治癒を習っているのかい?」
おもむろにハスディエルが言った。たまに二人でいるのを目撃されたのだろう。
「……まぁ。あなたも?」
「ああ。力の使い方を」
ハスディエルは治癒が得意なのだという。
「俺、あんま得意じゃないです」
「そうか。人それぞれ、向き不向きがあるからな。得意なことを伸ばせばいいんじゃないか?」
そんな話をしているうちに、螺旋階段を上がってラファエルがやって来た。
「ラファエルさん、こんにちは」
「こんにちは」
「こんにちは」
ミカエルも半目でそれらしく挨拶する。ラファエルはかすかに動きを止めたあと、いつもの微笑でミカエルに言った。
「来てたんですね。ちょっといいですか?」
「はい」
ミカエルはハスディエルに目礼し、ラファエルに続いた。
「やっ、ミカエル」
途中、大通りで声を掛けてきたのは、ウリエルの推薦で衛兵になったというシャムシェルだった。ピンクゴールドの髪を三つ編みにしている。ちょっとタレ目な瞳を穏やかに細める彼は、いつも楽しそうである。
聞いたときには驚いたものだが、シャムシェルはウリエルのバディだ。そして、ミカエルの先輩なのだった。
「今日は報告に?」
「はい」
「ご苦労さまだね。……何かあった? 浮かない顔だ」
笑顔が引っ込み、琥珀色に近い瞳がじっとミカエルを見詰める。
ミカエルは肩をすくめた。
「悪魔崇拝の人たちに遭遇して」
「遭遇して?」
「儀式の途中で乱入して、」
「乱入!?」
シャムシェルが身を乗りだして聞いてくるので、ミカエルは一連の出来事を語ることになった。
「それは大変だったね。君たちやその子が無事でよかった」
「はい」
頷けば、シャムシェルは腰に手を当てる。
「君たちが強いのは知っているけど。やつら、何をするかわからないんだ。次があったら乗りこむ前に連絡するんだよ。ツーコー、持ってるだろ? 赤い豹あたりが応援に駆けつけるはずさ」
通信用鉱石。通称、ツーコー。それは平たく透明な鉱物が核になっている機器で、それを持つ者と会話ができる。いつかの洞窟で衛兵が使っていた物だ。
「赤い豹?」
ミカエルが首を傾げると、シャムシェルは目を瞬いた。どうやら、赤い豹は誰もが知っているほどの有名人らしい。
「デビル関連の精鋭部隊の部隊長殿。チャムエルって名前だよ。君も会ったことがあるんじゃないかな。長い赤髪をポニーテールにしてる」
「ああ…」
何度か現場で鉢合わせになった人だ。
「彼のお兄さんは枢機卿でね、セラフィエルっていうんだけど。君も会うことがあるかもね。あの赤髪を見れば、シュイツ出身だって一目でわかる。シュイツの人は強いんだ」
そういえば、ヨハエルが先の戦でシュイツの傭兵を雇ったのどうのと、ラジエルが話していた。
シャムシェルはミカエルに並んで教皇宮殿へ向け歩き出す。ミカエルはふと気になって聞いてみた。
「ウリエル…隊長、ずっと調子が良くなさそうだけど、なんでですか」
「うーん、それは僕も気になってるところだよ。ご…隊長は何も話してくれないから」
「バディなのに?」
「……ね。ああ、それじゃあ、僕はこっちだから」
シャムシェルは軽く手を上げ、曲がり角を曲がって行った。ミカエルは通い慣れた廊下を進み、螺旋階段をぐるぐる上る。教皇のいる部屋の前には、今日も衛兵が立っていた。
すっと佇む誠実そうな青年の名前はハスディエル。シャムシェルと同じく、ウリエルの推薦で来たらしい。
「おつかれ」
「おつかれデス」
淡い草色の髪。穏やかな灰青の瞳はいつもまっすぐにミカエルを捉える。彼の空気感が、ミカエルには心地良かった。
サクッと教皇への報告を済ませ、ミカエルは部屋を出る。
「君もラファエルさんから治癒を習っているのかい?」
おもむろにハスディエルが言った。たまに二人でいるのを目撃されたのだろう。
「……まぁ。あなたも?」
「ああ。力の使い方を」
ハスディエルは治癒が得意なのだという。
「俺、あんま得意じゃないです」
「そうか。人それぞれ、向き不向きがあるからな。得意なことを伸ばせばいいんじゃないか?」
そんな話をしているうちに、螺旋階段を上がってラファエルがやって来た。
「ラファエルさん、こんにちは」
「こんにちは」
「こんにちは」
ミカエルも半目でそれらしく挨拶する。ラファエルはかすかに動きを止めたあと、いつもの微笑でミカエルに言った。
「来てたんですね。ちょっといいですか?」
「はい」
ミカエルはハスディエルに目礼し、ラファエルに続いた。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。
転生先のぽっちゃり王子はただいま謹慎中につき各位ご配慮ねがいます!
梅村香子
BL
バカ王子の名をほしいままにしていたロベルティア王国のぽっちゃり王子テオドール。
あまりのわがままぶりに父王にとうとう激怒され、城の裏手にある館で謹慎していたある日。
突然、全く違う世界の日本人の記憶が自身の中に現れてしまった。
何が何だか分からないけど、どうやらそれは前世の自分の記憶のようで……?
人格も二人分が混ざり合い、不思議な現象に戸惑うも、一つだけ確かなことがある。
僕って最低最悪な王子じゃん!?
このままだと、破滅的未来しか残ってないし!
心を入れ替えてダイエットに勉強にと忙しい王子に、何やらきな臭い陰謀の影が見えはじめ――!?
これはもう、謹慎前にののしりまくって拒絶した専属護衛騎士に守ってもらうしかないじゃない!?
前世の記憶がよみがえった横暴王子の危機一髪な人生やりなおしストーリー!
騎士×王子の王道カップリングでお送りします。
第9回BL小説大賞の奨励賞をいただきました。
本当にありがとうございます!!
※本作に20歳未満の飲酒シーンが含まれます。作中の世界では飲酒可能年齢であるという設定で描写しております。実際の20歳未満による飲酒を推奨・容認する意図は全くありません。

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。


心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる