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4章.Tractus
遭遇、転向
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これは、まさか――。
「ミカ?」
ゆるりと振り返ったミカエルは、硬い表情でなんとか口を開く。
「俺のここらへん、なんか、感じるか?」
自身の腹に手を置くと、ルシエルはかすかに眉根を寄せて意識を集中させた。その目が驚愕に見開かれていく。
「……やっぱり、これって、」
「……宿った…?」
ミカエルでない誰かの、新たなエネルギァを持った存在が、ミカエルの中にいる。
それは不思議な感覚だった。
エネルギァを感じる以外、なんの変化もない。それでもわかるのだ。ここに護るべき、新たな命がある――。
「おや、奇遇ですね」
不意に聞こえた声に、ミカエルはギョッとした。
「っラファエル、」
「ええ、私ですが。……何か?」
どうしてこんな場所で、このようなタイミングに会ってしまったのだろう。ミカエルは頭を抱えたくなった。
「なんです?」
「なんでもねえ。行こうぜ」
さっさと姿を晦まそうとしたところ、腕を捕まえられた。
「もしかして君、妊娠してます?」
「……は、」
「男だと思ってたんですけどね。両性具有でしたか…?」
あらぬ場所をしげしげ眺めてくるので、ミカエルは掴まれた手を振り払って叫んでしまう。
「ちげぇ!」
それが何かはわからないが、絶対違うと思った。たぶん。
「では、これはどういう…。とりあえずご報告を」
今度腕を捕まえたのはミカエルのほうだ。
「っちょっと待て。いちいち報告することか?」
「そりゃあしますよ。大事です。ミカエルが子を成すなど前代未聞。下ろせという話になるでしょうが、それはさておきまずは報告です」
前代未聞と言いながら、慌てるより楽しんでいるように見えるのは気のせいか。
「下ろせって、ここにある命を殺すってことか」
言葉にして、ミカエルの顔はクシャリと歪んだ。
対するラファエルは、なんでもないように言う。
「ええ。あり得ないでしょう。ミカエルが子を成したということは、つまり男を受け入れたということです。趣向自体、禁じられているのにですよ。よりにもよってミカエルが。見方によっては、聖正教への侮辱や冒涜にも捉えられます」
もしかしたら、教皇は屈辱を感じるかもしれない。ミカエルが無理やりこうされたと知ったら、そのようにした相手に怒りが向くだろう。
「君は望んでやったのですか」
「……ちげぇ、けど…」
「相手は誰です。そちらも消すことになるでしょう」
「ちょっと待てって」
ミカエルは意識的に深呼吸して、どうにか気持ちを落ち着ける。
「俺、下ろさねえぞ」
「正気ですか」
「こいつも一つの命なんだ。俺が望むとか望まねえとか、こいつには関係ねえ。……もう、ここにいるんだよ」
それを殺すなんて、ミカエルには無理だ。
「教皇が知ったら殺そうとするのはわかった。なら、報せなきゃいい」
ラファエルはため息を吐く。
「残念ながら、私が知ってしまいました」
「だから、おまえが黙ってればいいだろ」
「誰かさん曰く、私は教会の犬です。黙っていられるとでも?」
ミカエルは舌打ちして乱暴に頭を掻いた。
「おまえはどうしたら黙っていられんだよッ」
「そうですねぇ…。大変興味深いので、私の研究対象になること。それから…、ああ、聖下が君に会いたいとおっしゃってました」
「せいか?」
「教皇です」
ミカエルは声をなくした。教会に属するのを避けるため、聖学校から脱出し、王権下に入った。それなのに、この流れに乗ったら、結局教会に属することになるかもしれない。
「忠犬が主に背くんですから、これくらいのご褒美は必要でしょう」
ラファエルは肩をすくめる。
ミカエルは振り返ってルシエルの顔を見た。
「……おまえも、来てくれるか」
ルシエルは小さく息を吐く。
「君はそれでいいのか」
お腹の子のことは、できれば誰にも知られたくない。ゾフィエルにも話していないのだ。このまま誰にも知られず、ルシエルと二人でこっそりやり過ごしたいと思っていた。
今ならまだ、そこにラファエルが加わっただけだ。
「ミカ?」
ゆるりと振り返ったミカエルは、硬い表情でなんとか口を開く。
「俺のここらへん、なんか、感じるか?」
自身の腹に手を置くと、ルシエルはかすかに眉根を寄せて意識を集中させた。その目が驚愕に見開かれていく。
「……やっぱり、これって、」
「……宿った…?」
ミカエルでない誰かの、新たなエネルギァを持った存在が、ミカエルの中にいる。
それは不思議な感覚だった。
エネルギァを感じる以外、なんの変化もない。それでもわかるのだ。ここに護るべき、新たな命がある――。
「おや、奇遇ですね」
不意に聞こえた声に、ミカエルはギョッとした。
「っラファエル、」
「ええ、私ですが。……何か?」
どうしてこんな場所で、このようなタイミングに会ってしまったのだろう。ミカエルは頭を抱えたくなった。
「なんです?」
「なんでもねえ。行こうぜ」
さっさと姿を晦まそうとしたところ、腕を捕まえられた。
「もしかして君、妊娠してます?」
「……は、」
「男だと思ってたんですけどね。両性具有でしたか…?」
あらぬ場所をしげしげ眺めてくるので、ミカエルは掴まれた手を振り払って叫んでしまう。
「ちげぇ!」
それが何かはわからないが、絶対違うと思った。たぶん。
「では、これはどういう…。とりあえずご報告を」
今度腕を捕まえたのはミカエルのほうだ。
「っちょっと待て。いちいち報告することか?」
「そりゃあしますよ。大事です。ミカエルが子を成すなど前代未聞。下ろせという話になるでしょうが、それはさておきまずは報告です」
前代未聞と言いながら、慌てるより楽しんでいるように見えるのは気のせいか。
「下ろせって、ここにある命を殺すってことか」
言葉にして、ミカエルの顔はクシャリと歪んだ。
対するラファエルは、なんでもないように言う。
「ええ。あり得ないでしょう。ミカエルが子を成したということは、つまり男を受け入れたということです。趣向自体、禁じられているのにですよ。よりにもよってミカエルが。見方によっては、聖正教への侮辱や冒涜にも捉えられます」
もしかしたら、教皇は屈辱を感じるかもしれない。ミカエルが無理やりこうされたと知ったら、そのようにした相手に怒りが向くだろう。
「君は望んでやったのですか」
「……ちげぇ、けど…」
「相手は誰です。そちらも消すことになるでしょう」
「ちょっと待てって」
ミカエルは意識的に深呼吸して、どうにか気持ちを落ち着ける。
「俺、下ろさねえぞ」
「正気ですか」
「こいつも一つの命なんだ。俺が望むとか望まねえとか、こいつには関係ねえ。……もう、ここにいるんだよ」
それを殺すなんて、ミカエルには無理だ。
「教皇が知ったら殺そうとするのはわかった。なら、報せなきゃいい」
ラファエルはため息を吐く。
「残念ながら、私が知ってしまいました」
「だから、おまえが黙ってればいいだろ」
「誰かさん曰く、私は教会の犬です。黙っていられるとでも?」
ミカエルは舌打ちして乱暴に頭を掻いた。
「おまえはどうしたら黙っていられんだよッ」
「そうですねぇ…。大変興味深いので、私の研究対象になること。それから…、ああ、聖下が君に会いたいとおっしゃってました」
「せいか?」
「教皇です」
ミカエルは声をなくした。教会に属するのを避けるため、聖学校から脱出し、王権下に入った。それなのに、この流れに乗ったら、結局教会に属することになるかもしれない。
「忠犬が主に背くんですから、これくらいのご褒美は必要でしょう」
ラファエルは肩をすくめる。
ミカエルは振り返ってルシエルの顔を見た。
「……おまえも、来てくれるか」
ルシエルは小さく息を吐く。
「君はそれでいいのか」
お腹の子のことは、できれば誰にも知られたくない。ゾフィエルにも話していないのだ。このまま誰にも知られず、ルシエルと二人でこっそりやり過ごしたいと思っていた。
今ならまだ、そこにラファエルが加わっただけだ。
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