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4章.Tractus
暗闇の底*
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食事を終えた二人はキッチンで並んで食器を洗う。お腹も満たされて、悪夢続きのミカエルは欠伸が出てしまった。
ルシエルがちらりと目を寄越す。
「今日はもう寝るといい」
「……おまえは?」
「さっき、あの棚に酒を見つけた」
ミカエルは半目で彼を見やる。
「これから飲むのか」
「明日、食材とともに買い足そう」
さっそくグラスを用意している彼に肩をすくめて、口を開いた。
「俺、先に寝るけど。俺が寝てるベッドに来いよ」
「……わかってる」
ルシエルはしっかりと目を合わせて言ってくれた。
「じゃ、お先」
「おやすみ」
さらりと髪を撫でられ、コクリと頷く。そうしてミカエルは、一人でベッドに入ることになった。
寝たらまた、悪夢を見るだろうか。
そんな思考も眠気に負けて、気付けば暗闇の中にいた。いつものように口に肉棒を突っ込まれ、苦行が始まる。
一通り好き勝手された後、隊長が初めて見る男と共にミカエルの前に立った。
「そろそろ、おまえを俺の奴隷にしてやろうと思ってな」
「隊長、性奴隷ってやつですか」
「ああ。おい、押さえつけろ」
「はいっ」
ぼぅっとする頭で思考できずにいる内に、四つん這いのまま肩を床に押し付けられていた。
「俺様の奴隷になれるんだ。光栄だろう?」
「……は?」
「おまえに名をやろう。そうだな…。ルネ。おまえは今日からルネだ」
頬を床についている状態でいたのを、顎を掴んで無理やり上向かされる。隊長の隣にいた男がミカエルの後ろに行った。腰の付け根――お尻の上がじんわり熱を持ったように感じる。
「ルネ、今日から俺がおまえの主人だ。返事は?」
黙っていると、後ろから陰部を蹴られた。
「ッ、」
「玉ァ潰されてぇか? おまえがきちんと答えられるまで止めねえぞ」
これはゆめだ。
本当に潰されたとして、現実に影響することはないだろう。現実でも、本当は彼らの言う事を聞きたくなどなかった。しかし身体は大切だ。――命も。
ミカエルは歯を食いしばり、与えられる痛みに耐えた。足を開いたまま抑えつけられているので身動きが取れない。蹴られる強さがどんどん強まり、容赦がなくなってきた。
あまりの痛みに泣き叫んで懇願したくなる。
「ッ、グゥッ…!」
それでもミカエルは耐えた。
ルシエルが助けに来てくれたとき、会いたくなかったのは後ろめたかったからだ。自分の身体や命を守るため、心を蔑ろにした。それはもしかしたら一番大切で、ルシエルも、その部分を気に入って傍にいてくれるのだと思う。
――もう手放したくない…!
「……隊長、これ以上は…」
痛みで意識が朦朧とするなか、舌打ちが聞こえた。
ミカエルは浅い呼吸を繰り返す。
「おい、チンコまで壊されてえか?」
「……どうせ、ゆめだ。殺されたって、言わねえよ」
震える唇でなんとか答えると、ミカエルは無理やり口角を上げた。死んでこの悪夢とおさらばできるなら、それもいい。
「ッそれじゃ困るんだよ」
「何が困るのだ」
「っ陛下!」
今度は皇帝まで来たらしい。一体、このゆめはどうなっているのだ。
「余は性奴隷になった奴を見に来たんだが?」
「……それが、なかなか強情でして…」
「フンッ。さっさと契約させんからつけあがる。ええい、もう殺してしまえ」
「そ、それは」
そのとき、彼らの動きがピタリと止まった。馴染み深い異質な氣。ミカエルは目蓋を上げる。
「ッ貴様、何奴ッ…」
「動けば殺す」
皇帝の後ろで、紅の瞳が爛々と光っている。ミカエルは痛みのあまり幻覚を見たと思ったが、そもそもこれはゆめ。何が起こっても不思議ではない。
ルシエルは真っ黒な出で立ちで、皇帝の首根っこを掴んで立っていた。
ルシエルがちらりと目を寄越す。
「今日はもう寝るといい」
「……おまえは?」
「さっき、あの棚に酒を見つけた」
ミカエルは半目で彼を見やる。
「これから飲むのか」
「明日、食材とともに買い足そう」
さっそくグラスを用意している彼に肩をすくめて、口を開いた。
「俺、先に寝るけど。俺が寝てるベッドに来いよ」
「……わかってる」
ルシエルはしっかりと目を合わせて言ってくれた。
「じゃ、お先」
「おやすみ」
さらりと髪を撫でられ、コクリと頷く。そうしてミカエルは、一人でベッドに入ることになった。
寝たらまた、悪夢を見るだろうか。
そんな思考も眠気に負けて、気付けば暗闇の中にいた。いつものように口に肉棒を突っ込まれ、苦行が始まる。
一通り好き勝手された後、隊長が初めて見る男と共にミカエルの前に立った。
「そろそろ、おまえを俺の奴隷にしてやろうと思ってな」
「隊長、性奴隷ってやつですか」
「ああ。おい、押さえつけろ」
「はいっ」
ぼぅっとする頭で思考できずにいる内に、四つん這いのまま肩を床に押し付けられていた。
「俺様の奴隷になれるんだ。光栄だろう?」
「……は?」
「おまえに名をやろう。そうだな…。ルネ。おまえは今日からルネだ」
頬を床についている状態でいたのを、顎を掴んで無理やり上向かされる。隊長の隣にいた男がミカエルの後ろに行った。腰の付け根――お尻の上がじんわり熱を持ったように感じる。
「ルネ、今日から俺がおまえの主人だ。返事は?」
黙っていると、後ろから陰部を蹴られた。
「ッ、」
「玉ァ潰されてぇか? おまえがきちんと答えられるまで止めねえぞ」
これはゆめだ。
本当に潰されたとして、現実に影響することはないだろう。現実でも、本当は彼らの言う事を聞きたくなどなかった。しかし身体は大切だ。――命も。
ミカエルは歯を食いしばり、与えられる痛みに耐えた。足を開いたまま抑えつけられているので身動きが取れない。蹴られる強さがどんどん強まり、容赦がなくなってきた。
あまりの痛みに泣き叫んで懇願したくなる。
「ッ、グゥッ…!」
それでもミカエルは耐えた。
ルシエルが助けに来てくれたとき、会いたくなかったのは後ろめたかったからだ。自分の身体や命を守るため、心を蔑ろにした。それはもしかしたら一番大切で、ルシエルも、その部分を気に入って傍にいてくれるのだと思う。
――もう手放したくない…!
「……隊長、これ以上は…」
痛みで意識が朦朧とするなか、舌打ちが聞こえた。
ミカエルは浅い呼吸を繰り返す。
「おい、チンコまで壊されてえか?」
「……どうせ、ゆめだ。殺されたって、言わねえよ」
震える唇でなんとか答えると、ミカエルは無理やり口角を上げた。死んでこの悪夢とおさらばできるなら、それもいい。
「ッそれじゃ困るんだよ」
「何が困るのだ」
「っ陛下!」
今度は皇帝まで来たらしい。一体、このゆめはどうなっているのだ。
「余は性奴隷になった奴を見に来たんだが?」
「……それが、なかなか強情でして…」
「フンッ。さっさと契約させんからつけあがる。ええい、もう殺してしまえ」
「そ、それは」
そのとき、彼らの動きがピタリと止まった。馴染み深い異質な氣。ミカエルは目蓋を上げる。
「ッ貴様、何奴ッ…」
「動けば殺す」
皇帝の後ろで、紅の瞳が爛々と光っている。ミカエルは痛みのあまり幻覚を見たと思ったが、そもそもこれはゆめ。何が起こっても不思議ではない。
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