107 / 174
4章.Tractus
暗闇の底*
しおりを挟む
食事を終えた二人はキッチンで並んで食器を洗う。お腹も満たされて、悪夢続きのミカエルは欠伸が出てしまった。
ルシエルがちらりと目を寄越す。
「今日はもう寝るといい」
「……おまえは?」
「さっき、あの棚に酒を見つけた」
ミカエルは半目で彼を見やる。
「これから飲むのか」
「明日、食材とともに買い足そう」
さっそくグラスを用意している彼に肩をすくめて、口を開いた。
「俺、先に寝るけど。俺が寝てるベッドに来いよ」
「……わかってる」
ルシエルはしっかりと目を合わせて言ってくれた。
「じゃ、お先」
「おやすみ」
さらりと髪を撫でられ、コクリと頷く。そうしてミカエルは、一人でベッドに入ることになった。
寝たらまた、悪夢を見るだろうか。
そんな思考も眠気に負けて、気付けば暗闇の中にいた。いつものように口に肉棒を突っ込まれ、苦行が始まる。
一通り好き勝手された後、隊長が初めて見る男と共にミカエルの前に立った。
「そろそろ、おまえを俺の奴隷にしてやろうと思ってな」
「隊長、性奴隷ってやつですか」
「ああ。おい、押さえつけろ」
「はいっ」
ぼぅっとする頭で思考できずにいる内に、四つん這いのまま肩を床に押し付けられていた。
「俺様の奴隷になれるんだ。光栄だろう?」
「……は?」
「おまえに名をやろう。そうだな…。ルネ。おまえは今日からルネだ」
頬を床についている状態でいたのを、顎を掴んで無理やり上向かされる。隊長の隣にいた男がミカエルの後ろに行った。腰の付け根――お尻の上がじんわり熱を持ったように感じる。
「ルネ、今日から俺がおまえの主人だ。返事は?」
黙っていると、後ろから陰部を蹴られた。
「ッ、」
「玉ァ潰されてぇか? おまえがきちんと答えられるまで止めねえぞ」
これはゆめだ。
本当に潰されたとして、現実に影響することはないだろう。現実でも、本当は彼らの言う事を聞きたくなどなかった。しかし身体は大切だ。――命も。
ミカエルは歯を食いしばり、与えられる痛みに耐えた。足を開いたまま抑えつけられているので身動きが取れない。蹴られる強さがどんどん強まり、容赦がなくなってきた。
あまりの痛みに泣き叫んで懇願したくなる。
「ッ、グゥッ…!」
それでもミカエルは耐えた。
ルシエルが助けに来てくれたとき、会いたくなかったのは後ろめたかったからだ。自分の身体や命を守るため、心を蔑ろにした。それはもしかしたら一番大切で、ルシエルも、その部分を気に入って傍にいてくれるのだと思う。
――もう手放したくない…!
「……隊長、これ以上は…」
痛みで意識が朦朧とするなか、舌打ちが聞こえた。
ミカエルは浅い呼吸を繰り返す。
「おい、チンコまで壊されてえか?」
「……どうせ、ゆめだ。殺されたって、言わねえよ」
震える唇でなんとか答えると、ミカエルは無理やり口角を上げた。死んでこの悪夢とおさらばできるなら、それもいい。
「ッそれじゃ困るんだよ」
「何が困るのだ」
「っ陛下!」
今度は皇帝まで来たらしい。一体、このゆめはどうなっているのだ。
「余は性奴隷になった奴を見に来たんだが?」
「……それが、なかなか強情でして…」
「フンッ。さっさと契約させんからつけあがる。ええい、もう殺してしまえ」
「そ、それは」
そのとき、彼らの動きがピタリと止まった。馴染み深い異質な氣。ミカエルは目蓋を上げる。
「ッ貴様、何奴ッ…」
「動けば殺す」
皇帝の後ろで、紅の瞳が爛々と光っている。ミカエルは痛みのあまり幻覚を見たと思ったが、そもそもこれはゆめ。何が起こっても不思議ではない。
ルシエルは真っ黒な出で立ちで、皇帝の首根っこを掴んで立っていた。
ルシエルがちらりと目を寄越す。
「今日はもう寝るといい」
「……おまえは?」
「さっき、あの棚に酒を見つけた」
ミカエルは半目で彼を見やる。
「これから飲むのか」
「明日、食材とともに買い足そう」
さっそくグラスを用意している彼に肩をすくめて、口を開いた。
「俺、先に寝るけど。俺が寝てるベッドに来いよ」
「……わかってる」
ルシエルはしっかりと目を合わせて言ってくれた。
「じゃ、お先」
「おやすみ」
さらりと髪を撫でられ、コクリと頷く。そうしてミカエルは、一人でベッドに入ることになった。
寝たらまた、悪夢を見るだろうか。
そんな思考も眠気に負けて、気付けば暗闇の中にいた。いつものように口に肉棒を突っ込まれ、苦行が始まる。
一通り好き勝手された後、隊長が初めて見る男と共にミカエルの前に立った。
「そろそろ、おまえを俺の奴隷にしてやろうと思ってな」
「隊長、性奴隷ってやつですか」
「ああ。おい、押さえつけろ」
「はいっ」
ぼぅっとする頭で思考できずにいる内に、四つん這いのまま肩を床に押し付けられていた。
「俺様の奴隷になれるんだ。光栄だろう?」
「……は?」
「おまえに名をやろう。そうだな…。ルネ。おまえは今日からルネだ」
頬を床についている状態でいたのを、顎を掴んで無理やり上向かされる。隊長の隣にいた男がミカエルの後ろに行った。腰の付け根――お尻の上がじんわり熱を持ったように感じる。
「ルネ、今日から俺がおまえの主人だ。返事は?」
黙っていると、後ろから陰部を蹴られた。
「ッ、」
「玉ァ潰されてぇか? おまえがきちんと答えられるまで止めねえぞ」
これはゆめだ。
本当に潰されたとして、現実に影響することはないだろう。現実でも、本当は彼らの言う事を聞きたくなどなかった。しかし身体は大切だ。――命も。
ミカエルは歯を食いしばり、与えられる痛みに耐えた。足を開いたまま抑えつけられているので身動きが取れない。蹴られる強さがどんどん強まり、容赦がなくなってきた。
あまりの痛みに泣き叫んで懇願したくなる。
「ッ、グゥッ…!」
それでもミカエルは耐えた。
ルシエルが助けに来てくれたとき、会いたくなかったのは後ろめたかったからだ。自分の身体や命を守るため、心を蔑ろにした。それはもしかしたら一番大切で、ルシエルも、その部分を気に入って傍にいてくれるのだと思う。
――もう手放したくない…!
「……隊長、これ以上は…」
痛みで意識が朦朧とするなか、舌打ちが聞こえた。
ミカエルは浅い呼吸を繰り返す。
「おい、チンコまで壊されてえか?」
「……どうせ、ゆめだ。殺されたって、言わねえよ」
震える唇でなんとか答えると、ミカエルは無理やり口角を上げた。死んでこの悪夢とおさらばできるなら、それもいい。
「ッそれじゃ困るんだよ」
「何が困るのだ」
「っ陛下!」
今度は皇帝まで来たらしい。一体、このゆめはどうなっているのだ。
「余は性奴隷になった奴を見に来たんだが?」
「……それが、なかなか強情でして…」
「フンッ。さっさと契約させんからつけあがる。ええい、もう殺してしまえ」
「そ、それは」
そのとき、彼らの動きがピタリと止まった。馴染み深い異質な氣。ミカエルは目蓋を上げる。
「ッ貴様、何奴ッ…」
「動けば殺す」
皇帝の後ろで、紅の瞳が爛々と光っている。ミカエルは痛みのあまり幻覚を見たと思ったが、そもそもこれはゆめ。何が起こっても不思議ではない。
ルシエルは真っ黒な出で立ちで、皇帝の首根っこを掴んで立っていた。
1
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
転生先のぽっちゃり王子はただいま謹慎中につき各位ご配慮ねがいます!
梅村香子
BL
バカ王子の名をほしいままにしていたロベルティア王国のぽっちゃり王子テオドール。
あまりのわがままぶりに父王にとうとう激怒され、城の裏手にある館で謹慎していたある日。
突然、全く違う世界の日本人の記憶が自身の中に現れてしまった。
何が何だか分からないけど、どうやらそれは前世の自分の記憶のようで……?
人格も二人分が混ざり合い、不思議な現象に戸惑うも、一つだけ確かなことがある。
僕って最低最悪な王子じゃん!?
このままだと、破滅的未来しか残ってないし!
心を入れ替えてダイエットに勉強にと忙しい王子に、何やらきな臭い陰謀の影が見えはじめ――!?
これはもう、謹慎前にののしりまくって拒絶した専属護衛騎士に守ってもらうしかないじゃない!?
前世の記憶がよみがえった横暴王子の危機一髪な人生やりなおしストーリー!
騎士×王子の王道カップリングでお送りします。
第9回BL小説大賞の奨励賞をいただきました。
本当にありがとうございます!!
※本作に20歳未満の飲酒シーンが含まれます。作中の世界では飲酒可能年齢であるという設定で描写しております。実際の20歳未満による飲酒を推奨・容認する意図は全くありません。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭

もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

モブらしいので目立たないよう逃げ続けます
餅粉
BL
ある日目覚めると見慣れた天井に違和感を覚えた。そしてどうやら僕ばモブという存存在らしい。多分僕には前世の記憶らしきものがあると思う。
まぁ、モブはモブらしく目立たないようにしよう。
モブというものはあまりわからないがでも目立っていい存在ではないということだけはわかる。そう、目立たぬよう……目立たぬよう………。
「アルウィン、君が好きだ」
「え、お断りします」
「……王子命令だ、私と付き合えアルウィン」
目立たぬように過ごすつもりが何故か第二王子に執着されています。
ざまぁ要素あるかも………しれませんね

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる